「お、忍足……くん?」 「お、なんや、俺の事知っててくれとるんかー。嬉しいなぁ」 確認するような私の声に、忍足くんは何故か本当に嬉しそうに反応する。 やっぱり、今私の目の前にいるのは、忍足くんその人だ。 「あれ、知り合いだったの?」 式の前にと、隣の席になるという男の子をわざわざ紹介してくれた、本日の主役の一人、新郎のお兄さん。 確かに従兄弟と言われれば、どことなーく、似ている気がする。 「ちゃうちゃう。学校一緒だったんや」 「ほら、制服一緒やろ」と、私の横に並んでみせる忍足くん。 ネクタイやブレザーの色、チェックの柄まで同じだ。 「あ、本当だ。じゃあ、仲良くできそうだな」 にっこり爽やかに微笑んで「そろそろ行かなきゃ」と、その場を離れるお兄さん。 一番忙しいはずなのに、こんなことにもわざわざ時間を割いてくれるなんて、本当に良い人だ。 「おう、まかしときー」 と、こっちも爽やかな笑顔でお兄さんに手を振る忍足くん。 そして 「ほな…よろしゅうな、ちゃん」 と、更に爽やかさ倍増の笑顔で言ってきた。 誰か、この状況を夢だと言って…! 制服なんて着てくるんじゃなかった……。 と、自分の選択を死ぬほど後悔するも、時すでに遅し。 親の言う通り、可愛くて綺麗なパーティードレスを買ってもらえば、氷帝の生徒だとバレずにすんだのだ。 「そんな高くて普段着ることの無いような服買う位なら、制服着てくからおこづかい頂戴」なんて、言った自分が恨めしい! どういう理屈だとか言われながらも、ちゃっかりしっかり貰ったけどね、おこづかい。 さっき伯父さんに貰ったおこづかいも合わせると……今月は豊作だー。 ……なーんて、暢気に考えてる場合じゃなかった。 「おっさん話長いなー。早く料理食いたいわ」 「う、うん。そうだね…」 なんていう会話までできてしまう、現在超至近距離に、忍足くんがいる。 コレが熱狂的な忍足ファンに知られたらと思うと……あまり想像したくない事態が待っている気がする。 忍足くんは、天下の氷帝学園テニス部レギュラーで、氷帝の天才と言われているらしい。 そんな人と普通に会話しているなんて…未だに信じられない。 「それにしても、同じ学校の奴がこんなとこにおるなんて、思わんかったわ」 「うん、私も」 苗字全然違うし、全然予想外でしたよ…! どうやらお兄さんとは、母方の親戚同士らしい。 「ちゃんは1年生か?可愛いなー」 と、何故か頭まで撫でられる。 「……いえ、3年生です」 「え?!1年生かと思ったわ」 ……どうせ背も低いし、童顔ですよ! スタイルも良くないし、色気もないし…畜生、老けてるのがそんなに良い事なのか?! 「なんや、残念やな。せっかく妹ができたと思ったのに…」 残念そうにそう言う忍足くん。 その手はまだ、私の頭の上にあった。 ……いい加減、その手をどけろ。 「じゃあ、ちゃんは、何組なんや?」 「7組ですけど」 「俺は1組やから…結構離れてるなぁ」 「今度遊びに行くわ」と続ける忍足くん。 平和な学園生活のためにも、お気持ちだけ頂いておきます。 まぁ、どうせ社交辞令なんだろうけど。 「お、今日の主役のお出ましや」 入場のテーマと共に、お兄さんとお姉ちゃんが豪華な扉から現れた。 お色直しで、純白のウェディングドレスから、淡い空色のドレスになっていた。 これはこれでお姉ちゃんの雰囲気によく合っていて、本当に綺麗だ。 二人とも、本当に幸せそうで、笑顔までキラキラしている。 「お姉ちゃん、綺麗……」 「せやなぁ」 思わず呟いた言葉に、律儀に頷いてくれる忍足くん。 思っていたより良い人だったけど、やっぱりファンは怖い。 やっぱりあんまり関わりたくない人種だ。 どうせ話すのなんかこれきりだろうなぁ…と思いながら、式の間ちょこちょこと色んな話しをした。 おかげで、趣味とか好きな食べ物とか家族構成とか…ファンも羨む忍足情報を本人から大量にGETしてしまった。 ――――こうして、従姉妹の結婚式は順調に、何事も無く幕を閉じた。 +++あとがき+++ この話、ぶっちゃけあまり何も考えずに書いてます。 楽しいけど、これからどうしようか悩みます;; ど、どうしましょうか?(訊くな こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました! back/next |