この頃、部内の空気がどこかおかしい。










空気が悪いというか、どこかギスギスとしていて殺伐としている。


(まぁ、そんな事はどうでも良いか)


氷帝学園2年で、テニス部準レギュラーである日吉若は、さっさとそう結論付けた。

同じテニス部の仲間と言っても、完全実力主義の部活。

所詮は皆、ライバルだ。

むしろ、普段からこの位緊張感がある方が、こちらも引き締まる。


(次こそ、正レギュラーになって下克上だ!)


部内の不穏な空気も我関せず。

日吉若は、今日もマイペースに生きていた。





















































「新しいマネージャーが?」

「ああ。なんかサボりまくってるらしいぜ」

「うわっ、何それ。ムカつくなー」


準レギュラー専用の更衣室。

正レギュラー専用部室より格が下がるそこは、各々のロッカーと簡素なベンチがある他は、着替える面積もかなり狭い。

故に、一度に全員が余裕で着替えるスペースもないので、前の者たちが着替え終わるまで、何人かはベンチに座って待機するハメになる。

日吉も今日は運悪く、その一人に入ってしまった。

グリップを巻き直しつつ、大人しく待つ。

他の準レギュラーのくだらない会話もだだ漏れで、かなりウザイ。


「で、跡部さんとかに当然バレてさ…」

「部長もうマジギレ!」

「ああ、それ知ってる。確か正レギュ中心に全校生徒に標的にされてんだろ?」

「そうそう。反応薄いのがまた可愛げ無いんだよなー」

「顔も地味で不細工だし?」

「それもある」


嫌でも耳に入ってくる内容に、吐き気がする。

どんな理由であれ、一人対多数はスポーツする人間にとって卑怯としか言いようがない。

それに誰が何してようが、どうでも良い事じゃないか。

尚も新マネージャーの噂話に花を咲かせる準レギュラーたちを無視し、ようやく空いたスペースで着替え始める日吉。

表情は相変わらずの無表情だが、機嫌は物凄く悪かった。

そのピリピリとした空気を感じ取った者達は、一人また一人とそそくさと家路についた。

広々したスペースを有効に使い、さくっと着替え終えた日吉が帰る頃には、更衣室にはもうほとんど人がいなかった。

夕焼けを浴びながら、テニスコートの横を通り抜ける。

珍しい事に、テニスコートにはもう人影がなかった。

いつも日が暮れても遅くまで居残る日吉も、今日は家の用事で自主練も早々に切り上げた。

テニスバックを抱え直す。

これからまた、家の道場で古武術の修行だ。

軽く溜息を吐き出し、ふとまたテニスコートを見ると、いないと思っていたコートに人がいた。

例の、新マネージャーだ。

マネージャーは一人黙々とテニスボールを拾っていた。

コートの脇にはコート整備用の道具も用意されていたので、ボールを拾った後コート整備もするのだろう。

ちなみにこれらの仕事は、本来正・準レギュラーでない1、2年の仕事でマネージャーがする必要はない。

大方、誰かに押し付けられたのだろう。


(仕事、ちゃんとやってるじゃないか…)


あの準レギュラーたちの話が本当なら、こんなところで一人黙々とコート整備などしないで、とっくに帰っているハズだ。

もしこれがわざと仕事やっているというアピールであったとしても、もう校内にはほとんど人も残っていないので、あまりメリットはないだろう。

夕焼けの光と分厚い眼鏡のせいでほとんど顔は見えないが、特に表情を変えるわけでもなく淡々と作業を続けている。

日吉が見ていることも気づく気配も無く、ボールを拾い終えたマネージャーは、コート整備の道具を取りに端に消えた。

手伝う気など毛頭無い日吉は、そのまま家路につく。

余計な事には首を突っ込まないのが一番良い。

いまいち後味は悪かったが、それも家に帰り着く頃には新マネージャーの事などすっかりと忘れていた日吉だった。



(次こそ、下克上だ…!)



そして日吉若は、明日もマイペースに生きていく。










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+++あとがき+++
日吉初登場です。
ヒロイン、名前変換も無いし全然絡んでないじゃん;;
つ、次は少し絡むハズ…!
多分、また日吉視点になると思います。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!