![]() 目の前の惨状に、は本日何度目かの溜息を吐き出した。 部活用のロッカーの中には、泥だらけのジャージ。 まだこれから部活なのだから、が汚したわけではない。 たとえ部活で汚したとしても、泥んこの地面にスライディングでもしない限り、ここまで泥まみれになる事は無い。 故意に誰かがやったのは、明らかだった。 朝も朝で、机の中が泥で詰められていた。 (やる事が幼稚過ぎで、どこをどう突っ込んで良いのやら…) 昨日雨だったとはいえ、泥攻めとは安直だ。 その他にも、足を引っ掛けられそうになること5回、わざと転ぶように背中を押されること3回、大きな声で陰口叩かれる事7回と、小さな嫌がらせは数知れずあった。 今までも、いきなりテニス部のマネージャーになった事で多少の嫌がらせはあったが、こうもあからさまなのはあまり無かった。 原因は、よく解かっている。 つい3日前、玉城美依奈に『もっと仕事してくれ』と言ったのが原因だ。 そして、それを逆ギレされ、『仕事していないのは』にされたのだ。 おかげでこの3日間、正レギュラーたちには睨まれ、その他部員たちやを良く思ってなかったテニス部ファンの女子、更には便乗したその他大勢にこういったしょうもない嫌がらせ攻撃に遭っていた。 は鞄の中から、予備のジャージを取り出した。 こんな事もあろうかと、念のため持ってきていたのだ。 今はまだプリントがぐしゃぐしゃになったりジャージが泥だらけになったりだけで済んでいるが、このまま嫌がらせがエスカレートすれば、泥ではなくてハサミでズダズタにされるだろう。 もったいないが、ジャージ数着と教科書は諦めるしかない。 せめてもの救いは、マネージャーの部活中のジャージは指定されていない事か。 (さ〜って、お仕事お仕事……っと) 素早くジャージに着替えたは、ロッカーにきっちりと鍵をかけ、更衣室を後にした。 マネージャーの仕事量は、数日前と比べ3割ほど増やされている。 (いつか全員、絶対泣かす…!) 心に固く誓いつつ、は放課後のマネージャー業を開始した。 ゆらゆら、揺ら揺ら……… 心地良い振動が、体を包んでいる。 凄く気持ち良いのだが、それと同時に自分の眠りを妨げる声もした。 「芥川くん、芥川くん」 「………う〜、もうちょっと〜」 「っちょ…駄目です!起きないとこっちが怒られるんですから!」 「ね〜む〜い〜!」 「芥川くん!」 放課後の部活中、日当たりの良い中庭で惰眠を貪っていた少年…芥川慈郎は、自分を呼ぶ声に目を覚ました。 半分だけ目を覚ました、と言った方が正しいのかもしれないが。 「だれ?」 ジローの目の前にいたのは、分厚い眼鏡をかけた見慣れぬ少女。 ジャージを着ているので、テニス部のマネージャーなのかもしれないが、見覚えがなかった。 「先日テニス部のマネージャーになりました、です。芥川慈郎くん…ですよね?」 「そうだよー」 「跡部部長が呼んでますよ。起きて下さい」 そう言っては、まだ地面に転がっているジローの腕をぐいっと引っ張って、強引に起こした。 「早く行って下さい」 「うん、ありがとー。じゃー、またねー!」 素直にお礼を言うジロー。 はそれに無反応だったが、ファンがその姿を見たら、可愛いーと黄色い声が飛んだだろう。 (ちゃんかー。眼鏡外したらどんな顔なんだろ) 珍しく完全に覚醒したジローは、とたとたとコートへと駆けて行った。 「はー、疲れた……」 とりあえず、今日の部活は終了した。 現在の時刻、21時ジャスト。 芥川慈郎を起こした後、当然のごとく跡部に『遅い!』と怒鳴られたは、更に追加された仕事を黙々とこの時間までこなしていた。 すでに、他のテニス部員は誰もいない。 さっさと着替えて、とっとと帰ろうと、ロッカーを開ける。 校門だって、もうとっくに閉まっているハズだ。 「……ん?」 何か、全体的に違和感がする。 「…………そう来たか」 ロッカーの中が、泥で塗りたくられている。 もちろん、制服も泥だらけなら、鞄の中も泥詰めだ。 安直だと思っていたが、ここまで徹底的に泥攻めだったら、敵ながらあっぱれかもしれない。 結構…いや、相当ムカつく。 「上等だ」 全員、生まれてきた事を後悔させてやる! 相当物騒な事を心に固く固く誓いつつ、は泥パックまでされた泥鞄を持って、ジャージ姿で帰宅した。 back/next +++あとがき+++ ちょこっとですが、ジロちゃんがやっと出ました…! ちなみに彼は、当然のごとくいつもどこかで寝ているので、他のレギュラーとヒロインのやりとり知りません。 ……あとがきで補足すんなって話ですね。すみません;; こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました! |