が氷帝学園テニス部のマネージャーになって、早1週間―――

テニス部部室には、すでにお決まりとなったダサいジャージ姿で、せっせと働くの姿があった。

準・正レギュラーの世話だけとはいえ、タオルやドリンクの用意だけでも重労働だった。

今も、洗濯機がフル稼働で動いている。

驚いた事に、と美依奈しかマネージャーがいないらしく、下級生のマネの姿はなかった。

4月に何人かマネージャー志望の1年生がいたらしいが、全員体験入部の時点で辞めたかクビになったそうだ。

去年も同様で、辞めたうちの何人かは現在、めげずにフェンスの外でレギュラーに向かって黄色い声を上げているらしい。


(まぁ、それはそれで賢いか……)


マネージャーの仕事なんて、ほとんどが裏方の仕事で、手は荒れるしこき使われるし……よほどこの仕事が好きじゃなければやってられない。

もしくは、みたいに何か他に目的がなければ………


さーん、ドリンクはー?」

「……冷蔵庫の中です」


美依奈の問いかけに、は内心呆れながらも答えた。

ここ1週間、は洗濯、掃除、ドリンク作りに追われている。

が、マネ先輩であるはずの美依奈は、が洗濯したタオルとが作ったドリンクを準・正レギュラーに渡すだけで、他の仕事は一切していない。

後はレギュラーに声援を送ったり、部室でと二人きりの時は、ひたすら携帯を弄っていたりするだけだ。

見事なサボりっぷりだが、他の部員たちはそれに気づかないらしく、鼻の下を伸ばしてタオルを受け取っている。


(突っ込んだら逆ギレされて、こっちが仕事してないって事にされそう……)


今まで部員の目に映らない部室内や洗濯機置き場で仕事をしていたのだ。

その可能性は、十分ある。

そして、そうなったらの味方は誰もいない。

今だって、部員との交流殆ど無しのほぼ孤立状態。

完全に孤立するのは、目に見えている。


(う〜ん……まぁ、いいか)


自分からそうなるように仕向けた部分もあるのだ。

ここは、相手の計画に乗ってやろう。

むしろ、これもこっちの計画の内だ。


「あのっ、玉城さん!」

「なぁに?」

「あの…ドリンクを配るだけじゃくって、玉城さんも……たまには作ってもらえませんか?」


恐る恐るといった感じでそう口にすると、美依奈はみるみるうちに顔色を変えていった。


「美依奈が…仕事してないって言うの?!」

「いえ、そういうワケじゃ……!ただ、私だけじゃなくって、玉城さんも洗濯とか掃除とかした方が……」

「ひどいっ!」

(いや、酷いのそっちじゃん……)


心の中で冷静に突っ込みを入れつつも、美依奈の様子を観察する。

美依奈の顔は、茹でた蛸のように真っ赤で、鬼のような形相でを睨んでいる。


「……せっかく美依奈が声かけてマネにまでしてあげたのに、そんな反抗的な態度とるなんて、ひどいよ」


1週間前のフレンドリーな好感度抜群美少女は、どこへいったのか。

少し突付いただけで、天使のような微笑みは、悪魔のそれに変わっていた。


「そんなひどい人には、お仕置きしなくっちゃ」


バシッ


「!」

「………っ!」


何を思ったのか、美依奈は自分で自分の頬を、思いっきりひっぱたいた。

ついでとばかりに、まだ蓋も閉めていないスポーツドリンクを、バタバタと床になぎ倒していく。

机に置いておいた、蜂蜜の大瓶まで割ってしまった。


(こりゃ、掃除が大変なんてもんじゃないな)


スポーツドリンクに蜂蜜なんて入れてやるんじゃなかったと、後悔する。

床がベトベトになって後始末が大変じゃないかと、大人しく美依奈の行動を見ていたは思った。

瓶が割れる大音響が聞こえたのか、ようやく跡部を中心としたレギュラー陣たちがわらわらと部室に集まってきた。


「どうしたんだ?!」

「けいごぉっ!」


涙をぽろぽろと流した美依奈が、跡部に抱きつく。


さんが……さんがぁっ……!」


見事な女優っぷりだ。

美依奈のその言葉と部室内の様子だけで、勝手に状況を把握してくれた跡部やその他レギュラーたちは、を睨み付けた。


「おい、どういう事だ?」


跡部の怒りの篭った声が、静かに部室内に響き渡った。










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+++あとがき+++
今回もキャラが一瞬しか出てきませんでしたが、いよいよです…!
ずいぶんと唐突な気もしますが、気にしない!(コラ
バレバレだったかもしれませんが、美依奈さんは、こんな役でした。。。
この先イジメ描写もありますので、苦手な方はお気をつけ下さい。
ヒロインの性格上、酷い事にはならないと思いますが、どうなる事やら……;;

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!