![]() 「――――ん?」 カチカチと、マウスを操っていた右手が止まる。 「この名前って………」 はパソコン画面の一点を凝視した。 画面には、放課後にPC室から落としてきたデータが映し出されている。 「ねーちゃん、風呂空いたよー!」 「りょーかーい!」 階下からの弟の声に反射的に反応するも、の目は画面に吸い付けられたままだった。 「………っははは!」 急に笑いが込上げて来た。 だが、声まで上げて笑ってはいるが、その目は笑っていなかった。 その笑い顔は、笑っているのに心底怒っているという、実に複雑な表情だ。 の本性を知るものが見れば、震え上がって泣き出すほどのものだろう。 だが、今この部屋にはしかいない。 視線をちらりと横に向けると、鏡に映る自分が目に入った。 学校にいる時と違い、分厚い眼鏡を外し、ぼさぼさの髪も整っている。 顕わになった容姿も……誰が見ても、昼間の地味な少女と同一人物には見えないだろう。 「なるほど……意外に近くにいたか」 また画面に向き直り、作業に戻る。 慣れた手つきで、マウスを操っていく。 「――――必ず、追い詰めてあげるからね」 うっすらと笑みすら浮かべながら、画面に映る人物にそう宣言した。 「ー!風呂入んねーなら俺が先入るからな!!!」 「うわっ、ちょっと待ってよ!……今入るー!!!!」 慌ててパソコンを閉じ、「せっかくシリアスやってたのにー」と文句を言いつつ、どたばたと階下へと降りていく。 いまいちシリアスになりきれないのは、彼女の魅力の一つなのかもしれない。 「さんはぁ、前の学校で部活なにやってたの?」 そうに話しかけてきた美少女の名は、玉城美依奈。 先日話しかけられてから、音楽室の場所はどこだとか、何かと世話を焼いてくれるようになったのだ。 ノリ悪く対応しているにもめげず、にこにこと話しかけている。 昼休みの今だって、半ば強引に一緒に昼食を食べていた。 「前は…陸上部………の、マネージャーでした」 「え、マネージャー?」 口の中の玉子焼きを嚥下し、こっくりと頷く。 「最初は選手で入ったんですけど……向いてなくてマネージャーに」 「ふ〜ん、じゃあ氷帝でもマネやるの?」 その言葉に、は困ったように首をかしげた。 「サポートするの好きだからできればやりたいんですけど、転入生で3年だし……受験に専念した方が良いですよね」 「そんな事ないよ!」 「え?」 「転入生で3年だからこそ、部活もやって内申上げとかなきゃ!高等部に推薦入学できないよ?」 美依奈が身を乗り出してそう力説する。 はそんな美依奈の迫力に押された―――フリをして、弱々しくも反論した。 「で、でも……今更受け入れてくれる部なんてあるんでしょうか?」 「だーいじょうぶ!美依奈にまかせてv」 にっこりと微笑んだ美依奈は、天使のように微笑んだ。 back/next +++あとがき+++ 短いですが、今回はここまでです。 いつもいっぱいいっぱい詰め込んじゃう自分にしては、本当に短い! そしてまたしてもキャラが出てこないよ;; ごめんなさい、次こそは…! こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました! |