そこから見下ろすと、だだっ広いグラウンドと、これまた豪勢な造りのテニスコートがよく見えた。

10年前に増築されたという新館の屋上に、今日転校してきたばかりである少女―――がいた。

現在封鎖されているはずの屋上に転校してきたばかりの人間がいるというのはおかしな事だが、幸い目撃者は誰もいなかった。

それ以前に、にはそんな事知ったこっちゃ無かったが。


「………ここか」


ちらりと下を覗き込めば、中々の高さだ。

約一ヶ月ほど前、丁度この場所でが転落したのだ。





















































現在、3時間目の授業中。

理科室に移動ということで、これ幸いにと迷ったフリして転校早々授業をサボったは、屋上へと足を伸ばしていた。

人目につかない給水タンクの裏で、すでにくつろぎモード満々で鼻歌交じりに自分の鞄をあさっている。


「――――さぁって、うちのクラスのテニス部は……」


鞄から取り出したノートパソコンで、ぱちぱちと何か打ち込んでいく

ちなみに、彼女のずっしり重い鞄の中身は、このノートパソコン1台とその他諸々の最新機器だけで、筆記用具はポケットに突っ込んだシャーペン1本とボールペン1本程度しかない。


「お、レギュラーいるじゃん。………『忍足侑士』?」


隣の席の似非関西弁使いの少年ではないか。

それに、1時間目の授業が終わると同時にやってきたおかっぱ少年―――あれもテニス部レギュラーの、向日岳人か。

忍足に紹介され、自分を見た瞬間明らかにがっかりした顔をした、おかっぱ少年を思い出す。

まさかこんなに早くレギュラーと接触できるとは、予想外だった。

こんな事なら、入れ替えの激しいというレギュラーの名前を覚えるのを後回しにしてしまわなければ良かった。


「でもまぁ、順調順調♪」


そう言いながら、先程クラスに早く馴染むようにと渡された名簿表を、独自のルートで手に入れた氷帝テニス部の名簿表と照らし合わせていく。

テニス部の名簿表といっても、色々な問題で3年生の分しか手に入れられなかったのだが、それでも200人を誇る氷帝学園男子テニス部の名簿表。

1学年だけといえども、そのデータだけでもかなりの量があった。

しかも、顔写真や学籍番号まで付いているわけではないので、かなりめんどくさい。

とりあえず自分のクラスの分だけは更なるデータを打ち込んでいるが、これが200人いるテニス部全員となると……気が遠くなる。

ましてや、1000人もいる男子生徒の中の200人の生徒を絞り込んでデータ化していくなんて、今日転校してきたばかりの自分には無理だろう。


「………やっぱ、まずはパソコン室攻略かな?」


テニス部に近づくにしても、情報が圧倒的に少な過ぎる。

それに、1番知りたい情報は、ここには無い。


ちゃん、絶対敵は取るからね」


自分が進入できるサーバー内に、求める情報がある事を祈りつつ、は持っていたノートパソコンをパタリと閉じた。





















「あ、いた!さ〜ん!!」


教室に入るなり小走りにの元に駆け寄ってきたのは、ふわふわの茶色い髪に真っ白な肌、桃色の頬と唇の美少女だ。


「もう、捜したんだからね!」


なんでも、が理科室に現れなかったので、先生に頼まれてずっと捜しててくれたらしい。

終始近寄るなオーラを放っていたからかクラスメイトは皆冷ややかな態度だったため、まさかわざわざ捜してくれていたとは思わなかった。


「すみません、道に迷ってしまって……」


ぼそぼそと言い訳すると、美少女は爽やかな笑顔で


「この学校、無駄に広いもんね、しょうがないよ。次は一緒に行こう?」


と言ってくれた。

の少ない良心が珍しくもちくちく痛んだが、心の中でそっと謝る他無かった。


「あ、あたし玉城美依奈。よろしくね!」


強引にぶんぶんと握手までされたは、「よろしく」と呟くしかなかった。










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+++あとがき+++
またテニスキャラ出ずに、今度はオリキャラ出てきましたね。
玉城 美依奈(たまき みいな)さんです。
同姓同名の方、いらっしゃったらすみません;;
彼女がどんなポジションになるのかは……これからのお楽しみって事で!

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!