その日、私立氷帝学園中等部……特に3年生の間では、こんな話で持ちきりだった。


『3年に、転校生が来るらしい』


5月半ばの中途半端な時期に転校生がやってくるなんて、退屈な学生生活において格好の噂の種だった。

それに、あんな事件があった後なのだ。

久々の良い話題に、学園内は盛り上がった。





















































「一体どんな奴が来るんだろうなー」


朝練の終わったテニス部レギュラー専用部室。

そう騒ぎ出したのは、氷帝学園3年の向日岳人。

ここ数日の塞ぎっぷりもどこへ行ったのやら、ぴょんぴょん飛び跳ねながらここ最近一番の話題を、ダブルスの相方である同じく3年の忍足侑士に振った。

季節外れの転校生は、物凄い美少女だとか美少年だとか、すでに根拠の無い噂まで出回っている。


「あー、その転校生なぁ、なんかうちのクラスに来るらしいで」

「マジかよ!」

「おう。担任情報やから、間違いないで」


朝担任に捕まってなーと、気だるげに答えながら、黙々とジャージから制服へと着替える忍足。

同じく制服に着替えながら、岳人はぶつぶつと「納得いかねー」などと呟いていた。


「でも、この時期に転校生って、珍しくないですか?」

「まぁ、3年では中々いないよな」


氷帝学園は全国でも有名な私立校なためか、中途編入に挑戦してくる者も多い。

だが、流石に受験のある3年生の…しかもこんな中途半端な時期で、超難関とされている編入試験を受けてまで、わざわざ転校してくる者は、あまりいなかった。


「なー、跡部ー何か情報無いのかよ?」


生徒会長様だろーと、今度は氷帝学園テニス部部長であり生徒会長でもある跡部景吾に話を振る岳人。

よっぽど転校生の事が気になるらしい。


「アーン?どうでも良いだろ、そんな事。……まぁ、女だってのは聞いているがな」

「へー、女…頭は良くても物凄い不細工だったりしてなー」

「夢壊すようなこと言うなよ!」

「おい、それよりもう予鈴鳴ってんだから、早くしろ!」


珍しく跡部が部長らしくそう注意をして、氷帝学園テニス部の朝練が終了した。



































――――そして、生徒たちの期待の高まった朝のHR。

担任が来て朝の挨拶を軽く済ませ、早速転校生が教室に呼ばれた。


「よーし、入っていいぞー」

「……はい」


女と聞いて期待の眼差しでその短いやり取りを見ていた男子生徒たちは、次の瞬間あからさまに落胆した。


「――――です。よろしく」


分厚い眼鏡、ぼさぼさの野暮ったい黒髪、ぼそぼそとした喋り方。

一目で、自分たちが期待していたような美少女ではないことが分かった。


(あらら、こら岳人がっかりするで…)


忍足は、問題の転校生をまじまじと観察した。

一言で言えば、地味。

スカートまで今時の娘らしくなく、膝丈という長さ。

しかも、クラスに入ってきてから表情を全く動かしてないところから、暗くて無表情という印象だ。


「―――じゃあ、席は忍足の隣で。おーい、忍足!」

「はーい!こっちやで〜」


内心はともかく、笑顔でぶんぶんと手を振る忍足。

ずっと下を見て俯いていた転校生が、一瞬だけ顔を上げ忍足を確認し、また床を見つめながらゆっくりとした足取りで空いていた忍足の隣の席に着いた。

学園内でも1、2の人気を争う忍足の隣というポジションにいきなりついてしまった転校生だが、クラスの女子たちはこんな地味なのがライバルになるとは思うわけも無く、冷ややかな視線で見る以外には特に何の反応も無かった。


「俺、忍足侑士ゆうねん。よろしくな、さん」


笑顔で挨拶する忍足にもぺこりと軽く会釈だけし、すぐに黒板へと視線を戻す転校生。

これからしばらく、教科書を見せてもらう相手だというのに、にこりともしない。

忍足としては、別に気にならない態度だが、これが岳人あたりだったら怒り出すかもしれんなと思いながら、1時間目の教科書を用意する。

まだざわついた教室に、授業開始の本鈴が鳴り響いた。










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+++あとがき+++
キャラがいまいち偽者っぽいですね;;
おっしー……大阪弁が解かりません。。。
生まれも育ちも関東なので。
おかしい所あってもお許し下さい;;
あまりにもおかしいよって所があれば、遠慮なくご指摘して下さい!
なるべくすぐに直しますので…!

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!