総合病院の簡素な一室。 そこに、彼女は眠っていた。 「―――ちゃん」 呼びかけても、何の反応も無い。 運ばれてからずっと、意識の無い状態だった。 ![]() 「今にも起きてきそうでしょう?」 花瓶の花を変えながら、彼女の母親が見舞い客である少女に話しかけた。 「まったくこの子ったら、大好きなちゃんが来てくれたんだから、起きたって良いのに……」 「おばさん……」 『ちゃん』と呼ばれた見舞い客である少女―――は、整った顔を顰めて眠ったままの幼馴染の顔をもう一度覗き込んだ。 「おばさん、ちゃん学校の屋上から落ちたって……」 「ええ。傷はもう大分良くなって……お医者様の話では、もうとっくに目覚めても良いはずなんだけど」 4階建ての建物の屋上から落下したのだ。 普通なら大怪我どころじゃなく命まで危ないのだが、下に植わっていた木々がクッションとなり、彼女は運良く大怪我にもならずに、打身や擦傷だけですんでいた。 だが、彼女―――が運ばれてから、もう1ヶ月は経っているという。 その間、彼女はずっと意識不明……目覚める気配さえなかった。 医者の話では、何か心因的な事で患者が目覚める事を拒否している…という事も考えられるそうだ。 「あの、屋上から落ちた原因って……」 言い辛そうにが切り出すと、の母は静かに首を横に振った。 「……確かにしばらく前から少し様子がおかしかったけど、自殺ではないわ」 「ええ。自殺なんかするようなコでは無いですね」 あんなに明るく、前向きだった少女が、いきなり自殺はありえないと思った。 ずっと逢っていなくても、小さい頃から知っていれば、何となくだがその人の本質は解かる。 ましてや、ずっと手紙のやりとりをしていた相手だ。 には、が自殺などするはずがないと、断言できる自信があった。 そうなれば、が落ちた原因は―――― (………事故) だが、事故といっても、屋上から落ちるなんて、そうそうありえない……極めて不自然な事故だ。 そうなると、後は人為的な原因しか残されていない。 は、誰か…そう、学園内にいた誰かに突き落とされた。 とは言っても、が事故にあった瞬間の目撃証言は、無かった。 (――――知りたい) に一体何があったのかを。 彼女が目覚めない原因は、そこにあるのだろう。 だったらその原因を排除して、彼女をを起こさなければ。 そうしなければ、いくら今は命に別状はなくても、意識不明のままではどんどん衰弱していくに決まっている。 それにもう一度、の笑顔が見たかった。 その為にも真実が、知りたい。 この目で、確かめたい―――― (ちゃんが通ってた学校って…確か氷帝学園だっけ?) 氷帝学園といえば、幼稚舎から大学まである、全国でも有名な超金持ち校。 小学校まで普通の公立校だったは、中等部からそこに通っているはずだ。 ちなみに、敷地面積も広ければ、生徒数や教員数も、そこらの公立校じゃあ考えられないほど、多い。 (せめて、犯人の手がかりでもあれば………) 教師か生徒か…いや、男か女か解かるだけでも良い。 傷だらけで眠るの姿を目に焼き付けながら、どうするかと思案していると、の母がに声をかけた。 「ちゃん、おばさんこれから家に戻って、この子の身の回りのものとか取りに行かなきゃいけないんだけど……」 「あ、すみません。じゃあ私もそろそろお暇します」 「ええ。わざわざ来てくれてありがとうね」 気がついたら、随分と長居をしてしまった。 快く自分を歓迎してくれたおばさんに挨拶を交わし、『また来るからね』とに囁きすぐに病室を出ようとする。 「―――あ、そうだ、ちゃん!」 病室を出る寸前、を止めたおばさんは、の求めていたモノを、ぽんっという擬音が付きそうな位簡単にくれた。 「もしかしたら、あの子がちゃんに書いてた手紙が何かあるかもしれないから…家に寄る?」 「――――っ!ええ、もちろん!」 元気良く答えたは、この病室に来て初めての、満面の笑みを浮かべた。 なぜだか確信に近い予感があった。 (重大な…特大のヒントが、きっと絶対にある!) そして、一週間後―――― その確信が見事に的中したは、氷帝学園中等部へと転校する事になる。 back/next +++あとがき+++ キャラが誰も出てなくてすみません;; 次にはきっと出てきます……多分(コラ 長くなりそうですが、お付き合い頂けたら嬉しいです。 こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました! |