放課後の校舎の屋上。

怖い位の夕暮れの中で、少女が1人泣いていた。


「――――っなんで」


どうしてこんな事になってしまったのか、わからない。

いや、わかりたく無かった。

傷だらけのココロとカラダに、熱い涙が次々に沁み込んでいく。

数ヶ月前まで優しく美しいと思っていた世界は、今は冷たく歪んで、とても醜く映って見えた。

フェンスに寄りかかって、ぎゅっと自分自身を抱き締める。

最早彼女のそばに、頼れる者はいなかった。

いや、大切な部活の仲間は沢山いたが、大事な大会を控えた彼らに、これ以上負担をかけるわけにはいかない。


「…それに、言ったって」


信じてくれるわけが、ない。

いや、自分がまだ信じたくなかったのかもしれない。

それだけ、信じた者に裏切られた事は、ショックだった。

不思議と怒りは感じない。

ただただ、悲しみだけが湧き出てきた。


「これから、どうしよう」


ため息と一緒に、そんな言葉をぽつりと吐き出す。

まだまだ気分は最悪だったが、泣くだけ泣いたら大分落ちついてきた。

しぶとい自分に思わず苦笑しながら、ふと昨日徹夜してまで書いた手紙の事を思い出した。


(そうだ、あのコに手紙を出そう)


あの真実を知った後、これまでになく最悪な気分で思う存分書き殴ってしまったため、過去最低な内容だったが、しかたがない。

部活の仲間に話せないなら、せめて彼女に自分が見てしまった真実を話したかった。

誰かに知って欲しかった。

文通相手である、大好きな少女の事を思い出す。

もしかしたら、彼女なら何か良いアドバイスをくれるかもしれない。

彼女に最後に逢ったのは、去年の夏。

気づいたら、もう1年近くも逢っていなかった。

思い切って、逢いに行ってみようか――――

ふと、そんな考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。。


(向こうだって忙しいんだし……)


だが、一度思いついてしまったら、なかなか振り払えない、魅力的な考えだった。

またあの綺麗な笑顔で、大丈夫だよって言って欲しい。

彼女が断言すれば、絶対にそうなるのだ。

幼い頃からの経験で得たそんな考えが、今更ながらに強くなる。


「…うん。やっぱり逢いに行こう」


たとえ解決策など見つからなくても、彼女の顔さえ見ればそれだけで安心できるような気がした。

今の自分には、良い気分転換かもしれない。

現に彼女に逢えるかもしれないと思うだけで、こんなにウキウキしている自分がいる。

彼女は変わっているだろうか。

また昔みたいにあの満面の笑みで、自分と遊んでくれるだろうか。

そんな楽しい考えに没頭するあまり、少女は気づかなかった。

後ろから忍び寄る、黒い影を――――


どんっ


「………えっ」


急激に近くなる地面。

とても短いはずなのに、長く感じる時間。

自分が屋上から地面に落ちていくという事が、なんとなく解かった。

そして、ほんの一瞬の出来事なのに、少女は屋上を顧みることができた。


そこには、自分を裏切ったあの女が――――

落ちていく自分を見て、笑っていた。


(……しぃ。悔しいよ!)


落ちていく自分。

笑っている女。

今まで感じた事のない激情と体中に感じる衝撃。

思わず彼女の名を叫ぼうとするが、口に出せたのか解からなかった。


(―――――ちゃんっ)


最後に浮かんだのは、彼女の笑顔だった。










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