竹取
〜決戦・仁義無き戦い 後編〜




華やかなパーティー会場。

プラントの権力者達が集まるその会場には、限りない贅を尽くした大変豪華なものだった。

男女ともそれに見劣りしない衣装を身にまとい、優雅に歓談を楽しんでいる。

庶民には、想像もつかないような華やかな世界だ。

その中でも、特に目立つ一組の若いカップルがいた。

少年のさらさらと流れる真っ直ぐな銀糸の髪は、肩より上で切り揃えられていて、瞳は冷ややかとさえ言えるアイスブルー。

ある程度整えられた容姿が一般的であるコーディネイターの中でも、トップクラスの整った顔立ち。

その少年に寄り添うように隣にいる少女もまた、美しかった。

少女の髪と瞳は少年とは対照的な漆黒。

すらりとした肢体に少年同様、コーディネイターでもトップクラスの美しい容姿。

周りにいる他の女性と比べ、遠目ではシンプルと思える白いドレスは、近くで見ると所々細かい細工が施されていて、決して見劣りなどしない。

少年と少女の正体は、イザーク・ジュールと嬢。

二人は本日の婚約披露宴の主役であった。

すなわち、イザークとは本日より、公式の許婚として世間から認められたのだ。

遺伝子の問題もあるが、大部分が親同士の政略的な婚約だと言うのに、二人は幸せそうに見つめあい、微笑みあっていた。

さらに追い討ちをかけるかのように、手まで握り合っている始末。

そのあまりの似合いのカップルっぷりに、それぞれを狙っていた数多くの男女は、大量の悔し涙を流したとか。





























そんな見方をされているとは露とも知らぬ当事者達は――――


「………イザーク様」


「なんだ」


「いい加減、その手を離して下さいますか?」


にこにこにっこりと愛想を周囲に振り撒きながら、絶対零度の声音でイザークに抗議するのは、本日の主役の一人である嬢。

その完璧なる猫被りモードは、ある意味尊敬に値するとイザークは密かに思った。


「離したいのは山々なんだがな」


大衆の前で堂々と手を繋いでいる今のこの状況は、イザークとしても大変不本意であった。

だが、の手を離せば彼女はすぐさま逃亡を謀るだろう事が十分予測できる。

婚約早々体裁が悪いというのも理由の一つだが、『こんな所で一人にされてたまるか!』というのが、イザークの切実な心境だ。

なので、の抗議は聞いてやりたくともやれない。


「お前が逃亡を謀らないと言うのなら、すぐにでも離してやる」


「………無理な相談ですね」


やはり、手を離せば逃げる気満々なようだ。


「いざとなったら、気分が悪くなって退出という手もありますし」


周囲に笑顔を振り撒きながらも、その目は語っていた。

手はいくらでもある…と。


「おいっ…!」


「まぁ、今日の所は我慢してあげますけど」


そう言ったの視線は、出入り口に張り付く警備員達に向けられていた。

どうやら、抜け目の無い彼女の父が逃亡防止のために警備をことのほか強化しているらしく、通常のパーティーよりもかなりの数の警備員達がいた。

しかも、仮病作戦もお見通しとばかりに、の動向を逐一チェックしている、大変優秀な警備員ばかりが。

そのおかげで、本日の逃亡は断念したらしい

流石のでも、武器も無い生身の身体でコレを突破する事はできないだろう。


「今日だけですけど、ね」


は恨みがましい視線を警備員達に送りながら、心底悔しそうにそう吐き出した。

その姿に、イザークはほっと胸をなでおろす。

今回だけは、本当に何事も無く済みそうだ。

つい数刻前、椅子をぶんぶんと素振りしていた婚約者の事は、あえて考えないようにするイザーク。

余計な事は考えなくて良いと、自分を誤魔化す。


「イザーク様」


不意にが、にっこり笑顔付きで話しかけてきた。

こんな風に笑いかけられたことが無いだけに、ぶっちゃけ気味が悪い。


「何だ」


嫌な予感しかしなかったが、イザークは律儀に返事を返した。

この辺、根が真面目なイザークらしい。


「ダンス、踊りません?」


の繊細な指が、ホールの中央で踊ってる集団の方を指し示す。

にこにこと、邪気の無い…ように見える笑顔で所望されては、イザークに否やは言えなかった。




























「っつ……!」


「きゃっ、すみません。イザーク様」


案の定と言うか何と言うか、ダンスホールにてに足を踏まれまくっているイザーク。

踏みまくっているは、踏むたびに今にも泣き出しそうな表情で心底すまなそうに謝っている。

だが、先程ヒールでぐりぐりとえぐるように念入りに踏まれたため、絶対にワザとだと、イザークは確信していた。


「……いや、いい」


まさかこんなにも(表面上)謝っている婚約者に、怒鳴り散らすわけにもいかず、イザークはひたすら痛みに耐えるしかなかった。

広い場所でなら、イザークもの攻撃を上手く避ける事ができたが、狭さと人口密度によって全ての攻撃を避けるのは流石に不可能だった。

も、それを狙っているようで、他のカップルを上手く死角にして攻撃するという強者っぷりだ。

イザークの全身に、殺気が迸る。


「良い度胸、してるじゃないか……」


「まぁ、どうかされまして?」


イザークの静かに燃える闘気を挑発するかのように、平然と笑顔で受け止める

両者の間にはバチバチと、目には見えない火花が飛び交っていた。

その姿は、周囲からは情熱的に見詰め合っていると思われていることを、二人は露とも知らなかった。













表面上は何食わぬ顔で、水面下では激しい攻防が繰り広げられていたその夜のダンスは、巧みなステップな上情熱的と素晴らしく評価され、プラントの社交界での伝説となったそうな。

そして、イザークの足には名誉の青痣がくっきりと残ったらしい……が、これはイザークだけの秘密だ。

に不意ににっこりと笑いかけられた時、気味が悪いと思いつつ一瞬心臓が高鳴ってしまったのも、イザークだけの秘密。


――――絶対に、秘密だ。














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+++あとがき+++
や、やっとできました…!
毎度の事ながら、お待たせしてしまい、本当にすみません;;
婚約披露宴は、これにて強制終了です。
晴れて正式カップルの誕生!……です(多分)
とことん腹黒いヒロインは、夢小説としてやはり何かが間違っていると思いますが、こんな作品でも気に入って下されば嬉しいです。

それでは、こんな駄文をここまで読んで下さり、ありがとうございました!