竹取
〜決戦・仁義無き戦い 前編〜















今宵、決戦の火蓋が、切って落とされる――――




















その日マティウス市の住民は、皆一様に浮かれていた。

なぜなら、彼らの市を代表する最高評議会議員、エザリア・ジュールの息子が婚約発表のパーティーを行うのだ。

相手は最高評議会とまではいかないまでも、かなりやり手と噂のマティウス市評議会の議員の娘だ。

しかも、彼女の美貌と秀才ぶりはプラントの中でも有名だった。


イザーク・ジュールと


この二人の婚約は、プラントの人々にアスラン・ザラやラクス・クラインの婚約とと同じくらいの希望をもたらした。

すでに公表もされているて周知の事実ではあるが、今夜は公式でのお披露目パーティーである。

最近は戦争などあまり良いニュースがなかったため、久々の嬉しい出来事で皆が皆浮かれているのだ。




そう、当の本人達の意思とは関係なく―――



































今夜の主役の一人である、嬢は今は控え室に待機させられていた。

すでにドレスにも袖を通し、化粧も施されている。

もういつ会場へ赴いても良い状態だった。

は自分の姿を鏡越しに静かに見つめていた。

必要最低限にされた化粧はケバケバしくもなく、彼女の美貌をより一層惹き立てている。

長い黒髪は高く一つに纏められていて、ところどころに可愛らしい小さな白い花が留められて見る者の目を楽しませる。

ここまでは良い。

としても、かなり気に入っていた。

だが、問題はドレスだった。

白を基調とした、シンプルではあるが、すでに花嫁衣裳のようなドレス。

ワンポイントとして所々の布に使われている淡い水色は、まるで誰かさんの瞳のような色をしている。

その色が、気に入らない。

それに、花嫁衣裳という時点でお終いだ。

は深く深く溜息を吐いた。

鏡の中の自分は、この世の終わりというような顔をしている。

むしろ、自分の浅はかさを悔いていた。

昨日実行するはずだった脱走計画は、見事に父の手によってひねり潰された。

彼女の父は、自分の娘が脱走する事を予想して、彼女を一晩中部屋に監禁したのだ。

ドアも壁も窓も、ことごとく破壊に失敗したは、こうして披露宴会場に連行されてしまった。

すでに、準備までばっちり整っている。

は、この婚約には最初から反対だった。

結婚など、さらさらする気が無かったのだから。

生涯独身が、のアコガレだ。

だが、家のためにいずれは誰かと政略結婚しなければいけない事も、聡い彼女はよく解かっている。

そして婚姻統制なる憎ったらしい制度があるのも、もちろんよ〜く解かっている。



そんなのはの中ではまだまだ先の話だ。

彼女の人生計画では、あと十年は婚約者もいない気ままな独身生活を送るつもりだった。

それに、あんな性格と相性の悪い夫は、絶対にイヤだ。

はまた溜息を吐き、ふと目に止まった椅子をまじまじと見つめた。

豪奢な作りのそれは、なかなかに丈夫そうだ。

シュカはそれを無造作に掴み、ぶんぶんと素振りをしてみる。

多少重いが、これならなんとか武器になるだろう。


「――――良し」


「何が良しだ、何が」


突然背後から声がかかり、はびくりと肩を震わせて後ろを振り返った。

そこには、正装した麗しき銀の髪の婚約者殿が立っていた。


「まぁ、イザーク様…」


はにっこりと微笑みながらイザークに向き直った。


ノックもせずに女性の部屋にお入りになられたのですか?」


あからさまな嫌味を爽やかな笑顔で言ってみるが、向こうも流石に慣れたのか、平然と応対してくれる。


「何度もノックしたが、応えなかったお前が悪い」


「それでも入らないのが一般常識でしょう…よほど、面の皮がお厚いのですね


機嫌最悪のの嫌味は、尽きる事無く饒舌に、その美しい唇から紡ぎ出された。

普通の男だったなら、とっくにギブアップしている事だろう。

だが、髪型からして普通ではない婚約者様は、何処吹く風でこちらの痛い所を逆に突いてくれる。


「堂々と逃げる算段していた奴ほど、面の皮は厚くないな」


しかも、明らかに破壊行為もしくは暴力行為に突入しようとしていた。

もう少し来るのが遅かったら、素振りをしていた椅子で、部屋に入るなり殴りつけられていたかもしれない。


「人間、諦めてばかりいてはお終いですもの」


「大変イイ意見だが、今回ばかりは諦めろ」


そうじゃないと、こっちの身が持たない。

イザークのうんざりしたような顔は、そう如実に物語っていた。


「あら、そんな利益にも何にもならない事で、私が諦めるとお思いですか?」


つまり、イザークの身なんて知ったこっちゃない。

むしろ、ざまぁみろバーカか。

なんでこんなに目の前の少女の思考が読めるのだろうか。

イザークは考え、すぐに理由らしきものを思いつく。

お互い、思考が似ているのだ。

だが、似ているからといって相性が良いわけではない。

むしろ、似ているからこそ、相性最悪だったりする。

それに自分は、こんなに腹黒でもなければ、嫌味の塊のような奴でもない。

普段紺と緑の髪の同僚に散々嫌味連発していることをすっかり棚に上げて、イザークは思考を巡らせた。

がずっとこの調子で、果たして今日のパーティーは無事に終わるのだろうか…。

イザークは、嫌な想像を払いのけるかのように首を振った。

そんな事を考えても、どうしようもない。

すると、先ほどから何か考え込んでいたが、イザークに声をかけた。


「………イザーク様」


「なんだ」


「たとえ正式に発表されて、もう逃げられなくなっても、私は逃げますから」


改めて、堂々と宣戦布告する

不敵な笑みまで浮かべている。


「たとえ、月だろうが地球だろうが木星だろうが、私は逃げ切りますから」


の言葉に、イザークも不敵な笑みを浮かべた。


「ああ。その時は、宇宙の果てまでだろうが追いかけてやる」



「「上等」」



不適に笑いあう二人の背景には、目に見えぬ炎が揺れていた。


「では、そろそろ会場へ行きましょうか。婚約者殿?」


優雅かつ優美な紳士っぷりで、に手を差し伸べるイザーク。

完璧な、嫌がらせだ。


「…そうですわね」


はさして抵抗も見せずにイザークが差し伸べた手に自らの手を重ねた。

が、

イザークは、手を重ねた瞬間の腕いっぱいに立った鳥肌を見て、自分の嫌がらせが成功した事を悟った。

成功したは良いが、かなり気色悪がっている事が解かるだけに、複雑だ。


「馬子にも衣装だな」


「イザーク様こそ。衣装立派ですね」


嫌味の応酬を、世間話でもするかのように語り合い、歩いて行く二人。

二人の空気は、周りの者を瞬時に凍りつかせるような、氷点下の温度だった。

だが、遠くから見れば、寄り添って歩く二人は、大変仲睦まじく見えてたりする。

しかも、本人たちは気付いていないが、しっかりと手を握り合っているため、かなりラブラブに見えてたりなんかする。

実際には、逃亡防止のために彼女の手を掴んだイザークと、その手をかなりの力でつねっている

二人とも、笑顔が引きつっている。

そして二人は、決戦の地であるパーティー会場へと足を踏み入れた。

















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+++あとがき+++
かなり久しぶりの『竹取』です;;
待っていて下さった方、ごめんなさい。
しかも前編・後編に分かれるという切腹モノな事態に(土下座
久しぶり過ぎて後編どうなるのか自分でも解からなくなってきました(オイ
本当はここで終わらせようかと思いました。
が、前回のサブタイトルが『決戦前夜』だった事に気付き、「全然決戦じゃ無いじゃん!」という事態になり、後編も書く事に。。。
見通し甘過ぎにも、ほどがあります;;
プロットらしいプロットも書いてないから、こんな事になるんですよねぇ…。
駄目作者でごめんなさい。
そしてまたかなりお待たせしてしまうかもしれません;;
本当に、駄目駄目です。。。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!
後編(もしくは中編)も見捨てずにお付き合い下されば幸いです。。。