竹取
〜挑戦状を叩き付けろ!後編〜




父のお説教は、予想より遥かに少なくてすんだ。

が、次の日曜には強制的にお見合いをさせられることになってしまった。

どうやらこの前のパーティーよりも、こっちが本命だったらしい。

つまり、あのパーティでこの見合いから逃げられないようにされたのだ。



ハメられた…。



『良い見合い話がある』と言った時の父の表情を思い返す。

顔は不気味に笑っていたが、眼だけが本気で、ギラギラと輝いていてマジで怖かった…!

あれはもう、人を殺したことのある人の眼だ。


今度サボったら、間違いなく父に殺される!


見合い当日にサボるのは、すでに前科持ちの家のご令嬢であった。





































―――――そして次の日曜



(―――苦しいっ)

は、ギリギリと締め付けられる着物の帯に内心悲鳴をあげていた。

父は、余程今回の見合いに気合を入れているらしく、先祖代々伝わる着物まで引っ張り出してきた。

逃げ出さないようにあえて動きにくい服を選んだだけなのかもしれないが。

苦しい息をそっと吐き出す。

見合い相手はまだ来ていない。

(確かプラント最高評議会議員を母に持つ、ジュー…何とか家の御子息…だったけ?)

父の説明も、イマイチ頭に入っていない。

見合い写真も面倒臭くて見もしなかった。

(ま、どうせ見りゃ解かるし)

誰もが惹かれる整った顔を忌々しく顰めながら、はどうやって断ってやろうか思案していた。


「いいか、絶っっっっっっっ対に粗相の無いようにな!!」

「……へぇい」


見合い会場である豪華なホテルのレストランに着いてから、10秒ごとに言われ続けているセリフだ。

いつもより数割増の父の気迫に、押され気味のであった。

それだけで今回の見合い相手が身分の高い者だということが解かる。

これは、下手に相手に迫られたら断り切れないかもしれない。

(ってか、早く来いよっ!!)

見合い時間にはまだ時間があるが、こっちはもう一時間も前から着物の帯に苦しめられているのだ。

さっさと終わらせて、さっさとこの苦しみから解放されたい。

のイライラが臨界点を突破しそうになったその時―――


「待たせたな」


よく通る、綺麗で力強い女性の声が氏にかけられた。

「いや、久しぶりだな。エザリア」

父が椅子から立ち上がってエザリアという綺麗な銀の髪をした女性に挨拶をする。

「ああ。そちらが嬢か?」

エザリアがの方を見る。

年頃の子供がいるとは思えぬほど綺麗な人だ。

「初めまして、エザリアさま」

も父に倣って立ち上がり、優雅に挨拶をする。

先程までの仏頂面は何処に行ったのか、今は満面の笑みをその美貌に讃えている。

完全な、猫被りモードだ。

「初めまして。綺麗なお嬢さんで何よりだ」

エザリアも微笑み返す。

冷たい印象のアイスブルーの瞳が、それだけでずいぶん柔らかなものになる。

「紹介しよう。息子のイザークだ」

そう言ってエザリアは、後ろに控えていた少年をこちらに来させる。

銀の髪にアイスブルーの瞳をした少年は、驚くほどエザリアに似ていた。

そして、何故かものっそ見覚えがあった…。


「初めまして嬢。イザーク・ジュールだ」


肩口で切りそろえられた銀の髪をなびかせて、イザークが紳士的にに挨拶をする。

(この声は―――)

間違いない。

この間のパーティー会場で会った、あのいけ好かない少年だった。

































「―――ふん、かぐや姫にでもなったつもりか?」

『後は若いもの同士で…』と、お決まりの文句を言われ二人きりにさせられた直後、開口一番イザークはそう言った。

(やっぱりバレてる……)

暗闇で顔がよく見えなかったから、相手は自分だと気付いてないんじゃないかという淡い期待は、その瞬間粉々に砕かれた。

「…ではこのまま、月にでも逃げましょうか?」

なんとか表面上は笑顔を保ち、はイザークにそう言った。

「月には、今地球軍の基地があるぞ」

「……知ってます」

それでも逃げたい。今すぐこの空間から!!!



(………ん?でも、待てよ?)



こっちが婚約とか嫌がってんの、向こうだって知ってんじゃん。

それにこっちの性格だって知っているのだ。

こんな性格の悪い嫁は向こうだってイヤだろう(こっちもあんな性格の悪い夫もイヤだ)



「…………あのう」

「なんだ」

「この縁談、破談にして下さいますよね?」

はかなりの期待を込めてイザークに訊いた。

向こうから断ってくれれば父も文句が言えないだろう。


また命拾いできたと、は喜んだが―――


「無理だな」


そう、目の前の少年はコーヒーをすすりながらあっさり返した。

「こっちも、もう後が無いんだ」

イザークが忌々しげに言う。

「今度、縁談を断ったら母上に何をされるか……」

つまり、イザークもに負けず劣らず、数ある縁談を破棄してきたのだろう。

ジュール家は、ムカツクことに家より名家だ。

のお見合い・パーティー攻撃より、さらに凄まじいモノだったかもしれない。

それを思うと、少なからず同情めいたものが芽生えたが、こっちもそんなことで『はいそうですか』と言うワケには行かない。

「でも、だからと言ってそんなことで婚約したくありません」

「お前も、これを逃したらもうロクな縁談が残ってないんじゃないのか?」

「そりゃまぁ、そうですけど……」

確かに、これから先ジュール家以上の名家との見合いなんて、もう無いだろう。

ジュール家の御曹司が今まで売れ残っていたこと自体奇跡なのだから。

「恋愛結婚が夢でして……」

あながち的外れでもないことを、言ってみた。

「そんなガラか?」

「………さり気に酷いこと言ってますよ?」

すでにの本性を見抜かれている。

まぁ、それならそれでこっちもやりやすいが。


「私は、一生独身を貫くつもりです」


はイザークにきっぱりと言った。

こうなったらヤケだ。

「跡取りはどうするんだ?」

「弟がいますし、いざとなったらその辺で作ってきますから」

「………恋愛要素のカケラもないな」

本当に、身も蓋も無い。

「でも恋愛したいのは本当ですよ?」

愛の無い結婚が嫌なだけだ。

「なら、婚約した後恋愛しても良いだろう」

「それはまぁ、そうですけど―――」

「では決まりだな。今日から俺たちは許婚だ」

イザークが、何でも無いことのようにさらりと言った。

さらに、感情のまったく籠もってない声で『よろしく』と挨拶までしてきた。

「はぁ?!ちょっと、私は恋愛がしたいだけで結婚がしたいワケじゃあ……」

「なら、父親に殺されるか?」

「うっ………」

痛いところを突かれた。

確かに、この縁談を断ったら、今度こそ殺される。

「でっでも、私は貴方と恋愛できそうな気がしません!はっきり言ってイヤです!!」

こんな性格が捻くれてる相手に、恋なんて芽生えそうに無い。

「俺だって、お前となんてイヤだ」

「じゃあ、意見が合ったついでにこの話は無しってことで……」

「それは出来ない」

「何で!!」

「母上がいつになく乗り気だ。最初から俺たちには拒否権が無い」

ついでに、の父親も異様に乗り気だ。

最初から拒否権なんて、あるはずが無い。

「………子供って、不便」

「まったくだな」

「婚約しても、破談にしてやりますよ?」

こうなったら、向こうから断ってくれるように仕向ければ良い。

「望むところだ」

イザークは不適に微笑んでの挑戦を受け取った。

「俺は子供は産めんからな。なんとしてでも結婚してやる」

「月に逃げてでも、結婚してやんない」

「MSで追い掛け回すぞ」

「ストーカーで訴えますよ?」

「そんなもん、揉み消す」




「「上等」」




両者はにっこりと微笑み合った。

見目麗しい二人が微笑み合う姿は、本来微笑ましい光景だが、二人の空気はどこまでも冷たかった。

あのパーティー会場で微笑みあった時よりも凄まじかった。

すでに猫を被るのも忘れている。









次の週には、家の御令嬢とジュール家の御曹司は、正式に婚約発表された。


















こうして二人の戦いの火蓋は、切って落とされた。


















/






+++あとがき+++
前サイトの遺物。
甘さのカケラも無くてスミマセン;;

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
感想など頂けると、とても嬉しいです。