「待ーーーてーーーー!!!」


ただ今、銀のおかっぱに追いかけられてます。


!待たんか!!」


「待てと言われて待てるかぁ!!!」


「どおいう理屈だぁ!!!!」


イザークは、物凄い勢いで追いかけてくる。

古き昔の大妖怪、山姥に追いかけられてる気がして、すんごく怖い。

捕まったら、まず殺られる!!!


「イヤー!何で追いかけて来るのよーーー!!!」


「何でお前は逃げるんだぁ!!!」


そんなこと、自分でも解からない。

ただ、いきなりイザークが『待てー!』とか叫びながら物凄い形相で突進して来たから、逃げるしかなかった。

大体、何でおかっぱなんかに追いかけられなきゃいけないんだろう。


「何?この前エビフライ盗ったことまだ根に持ってるの?!」


「違うっ」


じゃあ何だというのだ。

そういえば、前にもこんなやり取りがあったが、あの時は追い掛け回されてない分今よりはマシだと思う。


「待てぇぇ〜!」


「イ〜ヤ〜〜!!!」


私は自分の逃げ足の速さに感謝した。

足の速さでなら、あのイザークにも負けはしない。

何だかよく解からないが、とりあえず逃げ切ってやる!





「!?」


しまった。行き止まりに追い込まれた。

慌てて引き返そうと後ろを向いたら、そこにはすでにイザークがいた。


「……イザーク」


「はぁっ、はぁっ……っやっと…捕まえ、たぞっ!」


物凄く息を切らせている。

まぁ、あんなに叫びながら走っていたんだから当たり前だが。


イザークが一歩前に出る。

私が一歩後ろに下がる。

前に出る。

後ろに下がる。

前に出る。

後ろに下がる。

それを何度か繰り返したら、とうとう壁際にまで追い込まれた。


「………なぜ逃げた」


「…………イザークが追いかけたから」


「……………………」


沈黙が、怖いです。


バンッ!!!


「!?」


イザークが突然、私の顔スレスレに手を突き出し、壁を叩いた。

いや、もうホント勘弁して下さい。


「…………カツアゲですか?」


お金ないですよ?


「違うっ!!!」


至近距離で叫ばれて、耳がキーンとなる。

嗚呼、鼓膜が破れそう…。


「………


イザークが、真摯な瞳で私を見つめる。

どことなく潤んだ瞳と切ない眼差し。


、俺はっ…………」



これは、もしかして―――



『ディアッカと喧嘩しちゃって私たちもうダメかもしれないっ!』とか??」



私はありったけの期待を込めて、そう訊いた。



「ちっがーーーう!!!!何でそうなるんだっ!!!」



イザークは、力の限り否定した。

……ちっ。残念、違うのか。


ッ!」


「!?」


両肩を思いっきり掴まれた。

かなり痛い。


「ちょっ…痛いよイザーク!」


顔を顰めてイザークに訴えても、イザークはよけいにギリギリと指を喰い込ませてくる。


「痛いってば!」


……」


聞く耳もたないイザークは、さらに指に力を込めてきた。

マジで痛いっつうに!

乙女(?)の柔肌に傷がついたらどうしてくれるんだっ!!!


「…もうっ、イザークなんか大ッキライ!!!


私はかなりの怒りと恨みを込めてそう叫んだ。

そのとたんに、イザークの腕の力がふっと緩んだ。

イザークを見ると、顔を俯かせ小刻みに震えている。

そして、へなへなと座り込んでしまった。


「イザーク?」


彼らしくもない弱々しい姿に、つい声をかけてみるが、イザークは全然反応しない。


「お〜い、もしも〜し?」


何度か声をかけてみるが、変わらず反応しないイザーク。


よし


今のうちに、逃げるしかない!


私はこれ幸いとばかりに、イザークをすり抜けさっさと逃げ出した。

なんだか良く解からないが、逃げるが勝ちだ!
































その日の夜―――

イザークとディアッカの部屋では『愛の伝道師ディアッカの恋愛教室(仮)』が、またしてもひっそりと行われていた。


「落ち着けってイザーク!」


「うるさいっ!どうせもうダメだぁ!!!」


自暴自棄になったイザークが、狂ったように部屋を荒らす。

それをなんとか宥めようとするディアッカ。

その背には『苦労人』という目には見えない看板を背負っている。


「まだ完全に嫌われたワケじゃないって!」


「『大ッキライ』と言われたんだぞ!」


そう叫んで、イザークはへなへなとまた座り込んだ。


「だから、普段からには優しくしとけって言っただろ?」


力の限り追いかけ回した上、緊張のし過ぎで力加減もできず相手に痛い思いをさせたんじゃ、フラれもする。


「うぅっ………」


体育座りになって、部屋の隅で『の』の字を書くイザーク。

愛の告白の最中に『大キライ』と言われたのだ。

イザークの絶望は、果てしなく深い。


「ほら、今からでも遅くないから、謝ってきな」


「…………………」


イザークはふるふると力なく首を振った。

完全に、自信を喪失している。


「次は、ラブレターで確実に告れば良いじゃん」


ラブレターなら、もうこんな失敗もないだろう。


だがイザークは


「…んな女々しい事、できるか」


と、ぼそぼそと不貞腐れた声で反論する。


プライドが許さないのだろうが、今の方が女々しいのはディアッカの気のせいではないだろう。

ディアッカは、あえてその事には突っ込まなかった。

これ以上、この部屋を荒れさせるワケにはいかない。


「だったら、ちゃんと今度は紳士的にやるんだぞ」


山姥のように追いかけ回してたんじゃ、イジメにしか思われない。


「とりあえず今日の事は謝り倒しとけ」


今にもカビが生えてしまいそうなイザークにこれからのアドバイスをしながら、ディアッカは二人がさっさとくっつく事をひたすら祈っていた。

この調子では、ディアッカの部屋が崩壊してしまう。


「それで普段からにハッキリ『好きです』アピールをしておいてだなぁ……」


少しだけ回復したイザークが、ディアッカのアドバイスに聞き入っている。

新たに闘志を湧き返したイザークは、ここにはいないに向かって呟いた。


、次こそは、必ず…!」











イザークのリベンジは、まだまだ続きそうである。


















back/next





+++あとがき+++
一応『デュエル!』の続編です。
またしても続編…すみません;;
シリーズ化はしない…ハズ。
ひたすらへタレなイザークに、乾杯。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!