ピンチ!
・、只今人生最大の大ピンチです。
「!待てえぇぇぇ」
弓矢を構えた銀のおかっぱことイザーク・ジュールが、鬼の形相で追いかけてくるのです。
捕まったら、確実に殺される!
「ぎゃーー!イヤーーーー!!!!」
びゅん
イザークの放った弓矢が、私の頬スレスレで通り過ぎ、目の前にあった壁に突き刺さった。
どすっ
どれ位の力で放ったのだろうか、本来丈夫にできているはずのコンクリート製の壁に、矢がめり込んでいる。
「ひいっ!」
こ、殺す気ですか?!
…殺す気ですね。
弓矢を構えながら、なおも私にギラギラと殺気立った眼で狙いをつけているイザークを見たら、そう思うしかない。
お母さん、ごめんなさい。
は先に逝きそうです。
でもっ…
おかっぱに殺されるなんて、死んでも死にきれねぇよ!
それに私が死ぬ時は、萌え死にか、笑い死にって心に決めてんだよっ!
それか、安楽死が良いんです…!
串刺しなんて、死んでもイヤだ!!!
私はまた全力疾走で逃げる他なかった。
「あ、待て!ッ!!!」
「待てるかぁっ!!!!」
またイザークが追いかけてくる。
前回より、怖いです(弓矢持ってるし
「俺の気持ちを受け取れえぇ!!!」
イザークがそう叫びながら矢を放ってくる。
「受け取れるかあぁ!!!!」
そんなモン受け取ったら、確実に死が待っている。
大体、私が何をしたっていうんだ。
「何?この前ケーキ盗った事まだ根に持ってるの?!」
「違う!」
だったらなんなんだよっ!!!
「『ディアッカがまた浮気しちゃった!やっぱり私たちもうダメなんだ…』とか?!」
イザークが放つ矢を避けつつも、私はありったけの期待を込めて、そう叫んだ。
「違うっ!!!だから何でそうなるんだぁ!!!!」
……ちっ。残念、違うのか。
何でそれで私が攻撃されなきゃいけないのか知らないが、それはそれで期待していたのに。
「……あっ!」
とうとう行き止まりになってしまった。
「……はぁっ…はぁっ…、いい加減…観念、しろっ!」
イザークが、息を切らしながら私に詰め寄ってきた。
その手には、まだ弓矢が握られている。
まずい。
このままじゃ、確実に仕留められるっ!
「な、何でもしますから、命だけはご勘弁をっ!」
とうとう命乞いまでする私。
プライドなんて…逃げてる間にどこかに置いてきましたさ。
「……何を言ってる?」
イザークが不思議そうに呟く声が聴こえたが、パニクっている私には聴こえていないも同然だった。
イザークが一歩一歩私に歩を進めている。
迫り来るおかっぱに、恐怖だけが募る。
「ひぃっ!近寄らないでよ!!!」
その言葉に、なぜかひるむイザーク。
イザークの動きが、ピタリと止まった。
その瞬間を逃さず、私は力一杯叫んだ。
「だ、誰か、助けて〜〜〜!!!」
その絶叫は、アカデミー中に響き渡った。
我ながら良い声量だ。
「?!」
その絶叫にすぐ反応して駆けつけてくれたのは、アカデミーでも学年トップのアスラン・ザラ!
「アスランッ!助けて、イザークに殺される!!!」
アスランが、イザークの持っている弓矢に気付く。
「何やってるんだ!イザーク!!!」
咄嗟に、私を背にかばってくれるアスラン。
後ろから覗くその凛々しい横顔は、当社比三割増でカッコ良く見えますっ!
普段ヅラとか言ってごめん。
ちゃんとまだ充分ふさふさしてるよ!
「アスラン!貴様には関係ないっ!!!」
イザークの形相が、当社比五割増で恐くなっていく。
…マジで、恐いです。
イザークが、ギリギリとアスランに向かって構える。
本気で殺す気だ…!
「あ、アスラン……!」
思わずしがみつく私に、アスランは優しく笑いかけてくれた。
「大丈夫だ」
私を安心させるためなんだろうけど…アスラン、ごめん。
普通に盾にする気満々です。
「アスラン!から離れろっ!!!」
なぜかイザークがぎゃんぎゃん喚いている。
……ああ、そっか。
イザークってアスランも好きなんだ!
普段はライバル同士でいがみ合ってても、実は愛情の裏返しv
本当はディアイザ推奨なんだけど、やっぱイザアスも捨て難い…!
「……?」
ニヤニヤしながら頷いている私に、アスランが声をかける。
「ん?ああ、なんでもないなんでもない!」
いかんいかん。つい顔が緩んでしまう!
「…とりあえず、逃げるぞ」
アスランは訝しがりながらも、深く突っ込まずに現状況の打開策を提案してくれた。
「うん。でも、どうやって?」
すでに狙いを定められたあの矢からは、逃げられそうにない。
「こうやってさ」
アスランは、懐から無造作に取り出した丸い物体を、素早く投げた。
「行け!ハロ!!」
「テヤンデーイ!」
可愛らしい機械音声と共に、丸い物体がイザークに突進する。
「ハロ!」
ハロの掛け声と共に、真っ白い煙幕がそのまん丸ボディから噴射された。
ブッシューーーー!!!!
途端に周囲の空間が真っ白になる。
「うわっ、なんだこいつ…!」
視界が悪くなり、イザークの狙いが定まらなくなった。
「よし、今だ。逃げるぞ、!」
「う、うん」
アスランと私は、この隙を逃さずに一目散に逃げ出した。
『逃げるが勝ち』という昔のことわざも、捨てたもんじゃない。
なんとか私とアスランは、おかっぱの魔の手から逃げ切ることが出来た。
その日の夜―――
イザークとディアッカの部屋では毎度お馴染み『愛の伝道師ディアッカの恋愛教室(仮)』が、ひっそりと行われていた。
部屋には重い空気が垂れ込めていた。
イザークとディアッカは、正座をして向かい合いながら、お互い先程から沈黙を保っている。
「………で、なんだって弓矢でを殺そうとしたんだ?」
『お前は、よけい嫌われたいのか?!』と、怒鳴りつけたいのを堪えながら、ディアッカは静かに訊いた。
流石にイザークも気マズイのだろう。
正座をしたまま縮こまっている。
「別に殺そうとしたわけじゃないっ!」
イザークは言い訳がましく叫んだが、に誤解されたことはまず間違いない。
前回は山姥、今回は殺人鬼のレッテルを貼られた。
「それで、何をしようとしたんだ?」
ディアッカは溜息を吐きつつイザークに話の先を促がす。
イザークは手に握りしめていた矢をディアッカに突き出した。
よく見てみると、矢には紙切れがくくられている。
ディアッカは、まさかと思いつつ恐る恐るその紙を矢から外した。
『好きだっ!!!』
でかでかと紙一杯に筆で書かれている内容に、目眩がした。
「古今東西、『恋文は弓矢で』と相場が決まっている」
イザークは、踏ん反り返って自信満々に言い切った。
「決まってないっ!!!」
そんなもん、決まっているわけが無い。
一体どこから得た情報だ?!
「ニッポンの古文書には、そう書いてあったぞ」
「それは敵に果たし状を送りつける時の手段だ!」
「……そうなのか?」
「そうだっ!お前、古文書の内容ちゃんと読んだか?」
「………挿絵を一目見た瞬間、『これだ!』と思ったんだが」
つまり、内容は一切読んでなかったということだ。
襲い来る頭痛に耐えながら、ディアッカはイザークに『ラブレター』のなんたるかを説教を織り込ませつつ切々と教え込んだ。
正座をしながら真剣に聴くイザーク。
足がしびれているのも気付いていない。
「いいか、次は絶っっっ対に手渡しで渡すんだぞ?いいな?!」
「くっそぉ、、アスラン!次こそは覚えていろよぉ!!!」
今回邪魔をしてくれたアスランにまで闘志を燃やしつつ、イザークは吼えた。
ディアッカはイザークが今の言葉をちゃんと聴いているのか心配しつつも、闘志を燃やし続けているイザークをそっと見守ることにした。
のピンチは、まだまだ続くかもしれない。
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+++あとがき+++
前回『シリーズ化はしないはず』とか言っていたのに…ごめんなさい、シリーズ化です…!
シリーズ名は『放課後の決闘!』になります。
まさか『デュエル!』書いた時点でシリーズ化まで行くとは思ってませんでした。
これもシリーズ化を希望して下さった皆さまのおかげです。ありがとうございます。
さて、今回アスランまで出張ってくれました。
「行け!ハロ!」は「行け!モン○ターボール!」の勢いで(何
ヒロインもいつになく腐女子っぷりを発揮してくれました。
イザアスは久留里の趣味です(オイ
苦手な方、ごめんなさい;;
そしてネタを提供して下さった魅拿畝さま、ありがとうございましたv
本当に使っちゃいましたよ(笑)
このシリーズは、皆さまが下さったネタをベースにやっていきたいと思ってます。
なので、何かネタがあれば、是非ご提供下さい…!(切実
それでは、ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
新シリーズ、見捨てずにお付き合い下されば幸いです…。