国〜学試験編〜
六日目:MSシュミレーション





『イイモノ見せてやるから、な?』

数年前、地球からプラントへと出戻ったばかりの頃、むくれっぱなしだった自分に、父が見せてくれたモノ。

10メートルは軽く越えるほど巨大な、『動くお人形』――――

間近で観る迫力に、目が離せなかったのを覚えている。

今思えば、アレがまだ『ジン』という名も無かった軍用MSの試作機だったのだ。

当時軍の最高機密として扱われていたハズなのに、よく見学が許されたなと、思わずにはいられない。

まぁ、テストパイロットとして搭乗していた父がゴリ押ししたのだろうが…。

その頃から、ずっとMSに憧れてはいたのだ。

正式発表より前から知っていたのだから、他の子供よりも憧れにも年期が入っている。

だから、現在搭乗しているシュミレーション用のMSコクピットの中で、はぽつりと呟いた。


「どうせだったら、本物が良かったなぁ…」


まだアカデミーの生徒ですらない自分が乗れるハズは無い。

本来なら、一般人でシュミレーション装置を使わせてもらえるだけ凄い事なのだ。

の本音は、誰に聞かれる事も無く、一人きりのコクピットの中をこだまするだけだった。

それにしても、解かっちゃいたが、MSの操縦というのは見るのとやるのとでは大違いだ。

先ほどから、の搭乗しているMSは、の意思に反してとんでもない方向に行ったり来たりしている。

それでも敵の攻撃をすべて紙一重で避けている所が、の凄い所なのだが『本物が良い』発言は、かなり無謀な事だと思えた。

「おっかしいなぁ…これか?」

ぶつぶつと独り言を呟きながら、緊張感も無くその辺のボタンをぽちぽちっと押す

ちなみに彼女は、数時間にわたって行われた、教官による『正しいMSの操縦操縦方法』の講習を120%理解していなかった。

教官の説明を3分間だけ真面目に聴いて思った事は『文明なんてクソ喰らえ』だ。

だが、MSに憧れているは、恐ろしいほどの野生のカンで、知識ゼロでもなんとか意地と根性で乗りこなしていた。

「おっおおおぉ!!!」

先ほど押したボタンが、どうやら武器の発射装置だったらしく、敵MAにバカバカと弾丸が当たっていく。

こうなってくると、段々面白くなってきた。

もう、順位なんてどうでも良い。

どうせ下手糞なんだから、下位から上がる事もないだろう。

シュミレーションとはいえ、MSを操縦する事なんて滅多に無いチャンスだ。

ここは、思いっきりやってしまおう。

「よし、次は戦艦だっ!

非常に無謀な事を口走りながら、はふらふらと全く持って安定しない操縦で、このステージの大ボスである戦艦に近づいて行った。










































(――――ビッミョ〜に、消化不良?)

ふらふらと先ほどのMSの如く休憩室に入りながら、はそう思った。

どさっと、その辺のベンチに腰掛ける。

まだ休憩時間には早いのか、人はまばらだった。

アスランたちも、見当たらない。

は深々と溜息を吐いた。

ずっと、自分の下手な操縦のせいで画面が揺れっ放しだったのだ。

その上、普段触らないような機械類に触れて、頭痛までしてきた。

目の前が、まだぐらぐらしているような気がする。

おかげで、自分の父や親戚たちを、ほんの少しだけ尊敬してしまった。

(よく、あんなもん乗れるよなぁ……)

あの、自分より野性味溢れる人々が、エースパイロットとして最新鋭のMSを乗り回しているのだ。

一応、あれでも一般兵たちの憧れの的なのも解かる気がする。

本人たちは、暴走族と同じようなノリで乗り回している気がしないでもないが。

(でも、関係ないも〜ん。どうせ軍になんて入らないんだから)

昨日つい弾みで一位を取ってしまった事も、もう気にしない。

ここは、MSのパイロット専門校なのだ。

昨日の明らかに反則的な班分けでのグループ戦より、今日の試験の方が重視されているに決まっている。

今日と、明日の総合テスト(筆記オンリー)で下位を取ってしまえば、絶対に落ちる……ハズだ。

かなり無理のあるような話の気もするが、もうには、それに賭けてみるしか道が無かった。


「おつかれさんv」

突然背後から声をかけられ、同時に何か冷たいモノがの首筋に触れた。

「――――ひゃっ」

びっくりして後ろを振り返ると、そこには見慣れない少年が立っていた。

両手には、ジュースの缶が一本ずつ握られていた。

これがの首筋に触れた冷たいモノの正体なのだろう。

缶の周りには水滴が付いていて、見るからに冷え冷えだ。

少年はそのうちの一本を「はい」という声と共に、に持たせた。

「………え〜っと?」

これは、どういう事なのだろうか。

は眉を寄せて、訝しげにオレンジ色の髪の少年を見た。

少なくとも、初対面の人間にジュースを奢って貰う義理は無い。

だが、当の少年は気にするそぶりも見せずに、にこにことしている。

そしての隣のベンチにちゃっかりと座る少年。

「差し入れ。君、昨日のグループ戦で1位だったコでしょ?」

「ええ。まぁ、一応……」

「俺、最後の決勝の対戦相手の一人」

さらに少年は『一番最後に撃たれました〜』と陽気に続けた。

負けた事に微塵も悔しさを感じていないのか、どこまでも明るい。

「一緒の班だった奴等、えばり腐ってて大ッキライだったんだ。だからそのお礼も込めてるから、遠慮せずどーぞ」

の持っている、まだ蓋も開けていない缶を指差しながら少年は続けた。

チームワークは良かったが、内情は激悪だったらしい。

あっさり笑顔で言う少年のその言葉を聞いて、はついつられて笑みをこぼした。

中々の美少年(←この辺重要)だし、まぁ良いか。

喉も渇いていたし、丁度良いから好意に甘えてしまおう。

「じゃあ、遠慮なく頂きま〜す」

「どーぞどーぞ」

ぷしっと蓋を開けて、ごくごくとジュースを飲む。

なんのつもりか少年の髪とと同じ色をした、オレンジジュースだった。

「俺、ラスティ・マッケンジー。君は?」

です」

ちゃんか〜。宜しくねv」

ラスティは、人懐っこい笑みで次々と話しかけてきた。

遠慮なく話しかけられても嫌な感じがしないのは、彼の魅力なのだろう。

テンポ良く会話を進めていく。


「MSって、結構操縦難しいよね〜」

「ですねぇ。私なんて、ふらふらしっ放しで、落とされてばっかり」

「あ、俺も!照準もブレまくるし、操作もど忘れするし」

「さっき、戦艦に突っ込んだんですけど、5秒で落とされちゃいました」

「戦艦?!アレは数人がかりじゃないと、初心者には無理だって」

「そ、そうなんですか?」

「とりあえず、MAを撃ち落として点数稼ぐしかないよ」


試験の話から世間話まで、途切れることなく会話は続いた。

人懐っこくて底抜けに明るいラスティとの空気は、非常に友好的なモノだった。


「それじゃ、またね〜」

「ええ。試験頑張って下さいね」

「そっちもね」


結局ラスティとは、互いの休憩時間いっぱいまで話し込んでしまった。







































、プリンいりますか?」

夜の食堂でいつものメンバー(アスラン、ニコル、イザーク、ディアッカ)がを囲むようにして座っていた。

すでに、このメンツで食事を摂る事が日課となりつつある。

「本当?良いの??」

「はい。どうぞVv」

と、あ〜んとスプーンを差し出すニコル。

どうやら自分の手で食べさせたいらしい。

アスランとイザークはそのニコルの行為に目をむいたが、は気にする事なくニコルの手からプリンを食べた。

「ん〜vありがとうVv」

「どういたしまして」

まるでどこかのバカップルのような行動だ。

が、少女のようなニコルが相手なため、女同士でやっているように見えてしまう。

、俺のも食べて食べてv」

「ディアッカは黙ってて下さい」

便乗しようとしたディアッカは、ニコル大魔王様の一言で一蹴された。

アスランとイザークの眼光も、殺気混じりでディアッカに注がれているため、それ以上何も言えない。

いじいじとミニトマトを突付くディアッカを無視して、食事を再開する美少年たち。

華麗にスルーする気、満々だ。

「いよいよ明日で終わりですね」

「入学したら毎日こんな生活か〜」

もうすぐ面倒な試験から開放されるだけあって、彼らの話は弾んでいく。

入学したらまた寮生活が始まるが、その前に準備期間という名の休みがある。

ようやく、思いっきり休むことが出来るのだ。


はいるか?」

そんな声が食堂の入口付近で上がった。

呼ばれたの周りのアスランたちは、一斉に声のした方を振り返る。

そこには、事務員のおじさんがいた。

「は〜い」

何だろうと思いつつ、立ち上がって返事をする。

個人的な呼び出しなんて、される憶えがない。

「至急事務室まで来なさい」

その一言で、事務の人はすたすたと行ってしまった。

事務室の場所を知らないは、慌てて立ち上がる。

「ごめん、トレイ片付けておいてくれない?」

すでに9割方食べてしまったため、特に未練も無く夕食を終了することにした。

「分かりました。いってらっしゃい」

ニコルがすぐに、了解する。

それに手を上げて応えると、は小走りで事務のおじさんの後を追いかけて行った。


































「通信が入っている」

事務のおじさんは事務室の入口の脇にあるモニターの場所まで案内すると、誰からとも言わずにさっさと事務室に入っていってしまった。

(あ…なんか、嫌〜な予感)

だが、ここで勝手にに切ってしまうわけにもいかないだろう。

通話相手が嫌な(というか恐ろしい)人だったりしたら、尚更やめといた方が良い。

とりあえず、恐る恐る待機から通話ボタンに切り替えてみる。

です…」

『やだ〜!ホントにいたのぉ?!』

(げっ…!)

画面に映し出された人物を見て、は自分のカンが的中したことを知った。

その人が、赤味がかった琥珀の瞳を細めて、にっこりと微笑む。

『数日ぶりね、

「おっ………」

――――叔母さん

あまりの衝撃に、言葉が続かなかった。














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+++あとがき+++
微妙な所で六日目終了です。

やっとラスティ出てきました〜v
っていうか、無理矢理出したんですけどね(笑)
ラスティの性格、こんなんで良かったでしょうか?(不安
とにかく、後一日で入学試験編は終了ですv
ここまで来るのに、一体何ヶ月かかったんだ、自分…!
前のサイトから数えて…○ヶ月?!
お付き合い下さった方、本当にごめんなさい(土下座
学園生活編は、一体どの位かかるんでしょうか?(訊くな
その前に、まだ全然考えてなかったりするんですが(吐血

次回はちょっと(?)オリキャラの叔母様が出張る予定です。
では、こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!