国〜学試験編〜
七日目:総合テスト





カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…………


静寂に満ちた教室の中で、ひたすら筆圧の音だけが響く。

時には消しゴムをかける音や咳払い、うなり声などの音も混じるが、テスト中なので基本的に静かだ。

最終試験だけあって、皆真剣に取り組んでいて、空気がピリピリと張り詰めている。

その中でも、一際気合(というより念力)を込めてテスト用紙と睨めっこしている少女がいた。

少女の名前は

大きな琥珀の瞳をさらに大きくさせて、試験問題を真剣に見詰めていた。

目からビームが出せたなら、確実に穴が開いているだろう。

試験内容はこの一週間の総復習で、習った事がほぼ全て出される筆記試験。

かなりの、ハイレベルな問題だった。

今までの試験が良くても、ここで気を抜けば一気に順位を下げてしまう難関中の難関だ。

は昨日のMSシュミレーションで、200位という順位をとってしまった。

他の教科も、一日目のペーパーテストと五日目のグループ戦以外は、かなり宜しくない成績だ。

入学を目指す者として、かなり崖っぷちな状況だろう。

だが、入学を目指していない彼女にとって、この状況は好都合だった。

だから後は、これ以上解答用紙に何も書かず、試験終了を待てば良いだけだ。

それで、この学校ともおさらばできる。

だが、何を思ったのかはおもむろにシャーペンを握り、ガリガリと解答用紙を埋めだしだ。

試験問題も見ずにひたすら適当にマークシートの数字を塗りつぶしているだけなのだが、それだけで一日目に2位をとってしまった前科のある彼女。

このままでは、上位をとってしまうかもしれない。

それを一番解かっているであろうは、それでも手を止めることなく、ガリガリとひたすらに数字を塗りつぶす。

数日前では考えられないような単語が、彼女の脳裏を占めていた。

(当たれ当たれ当たれ当たれ当たれっ!!!!)

そしてピンときた数字をどんどん塗りつぶしていく。

彼女は本気だった。

180度方向転換して、本気で入学しようと決意していた。

我が身の可愛さ故に――――


























それは昨夜の出来事だった。




























『数日ぶりね、

画面に映し出された叔母は、そう言うと鮮やかに微笑んだ。

「おっ………」

――――叔母さん

思わずそう続けようとしたが、あまりに衝撃が強過ぎて、うまく口が回らない。

目の前の画面に映し出されている女性はシュラ・

の叔母で、女だてらに隊長まで務め上げるザフトのMSパイロットだ。

『阿修羅』という通り名は、ザフト軍のみならず地球軍にまで知れ渡っている。

その無慈悲で、非情なまでの戦いぶりは、あまりにも有名だ。

『お?…何かしら??』

一瞬鋭くなったシュラの眼光に、はようやく我に返り、慌てて言葉を続けた。

「お姉さまっ!」

シュラは自らの黒い髪をかき上げ、良く出来ましたとばかりに微笑んだ。

彼女の呼称は『お姉さま』だ。

『叔母さん』『叔母さま』などと呼ぼうものなら、血の海を見ることとなる。

(さっき叔母さんって呼ばなくて良かった…)

ある意味救われたであった。

確かに『若いんだから良いの』という言い分も、通用するほど若々しい外見だが、実情は30代後半だ。

しかも、婚姻統制は何処へ行ったのやら、いまだに独身…。

『何か言った?』

「う、ううん。何でも無い!」

ギロリという効果音付きで睨まれ、はぶんぶんと力いっぱい首を振った。

数日前、空中殺法を喰らわされた腕がズキズキするのは、きっと気のせいではないだろう。

『――――で、試験はどんな感じ?』

「あ〜〜〜、う〜〜〜〜」

まさか、落ちる気満々とは面と向かって言えない。

『まさか、『落ちる気満々だ』とか言わないでしょうね?』

「まままさかっ!!!!」

は、ぶんぶんと先ほどよりも更に力を込めて否定した。

首の振り過ぎと心労で、目の前がくらくらしてきたが、なんとか堪える。

『もしアカデミーの入学試験なんかに落ちたら…どうなるか解かってんでしょう?』

コレは、この、何かを含んだような口調と仕草は……。

明らかに、脅しだ。

しかも、逆らえば容赦無く殺られるだろう…!

は内心恐怖に慄きながら、恐る恐る言葉を紡いだ。

「……え〜っと、参考までに…どうなるんですか?」

『そうねぇ、色々あるけど…最終的にはデブリベルトに自らの肉塊が浮くわね

(ひぃいぃぃぃぃっ!!!!)

あまりにも想像したくない自らの末路に、は背筋を凍らせた。

身内だからとか、そういう甘い考えはもうできない。

この人ならやると言ったらやるっ!絶対にっ!!!!

彼女に逆らってそういう末路を辿った人間は、掃いて捨てるほどいるのだ。

『阿修羅』の通り名は、伊達ではない。

『よ〜く考えなさい?』

このまま入学して面白おかしく極楽浄土を生きるか

それとも地獄の苦しみの果てにデブリベルトの塵となるか

『Dead or Alive?』

『生か死か』まさに究極の選択を迫られた瞬間だった。

そして自殺願望など欠片も持ち合わせていないの選択は、一つだけだった。

「…やだなぁ、お姉さまv最初から合格する気満々に決まってるじゃないですか〜」

グレてやる…そう内心で呟きつつもは精一杯の猫被りの笑顔で答えた。

プライドなんて、一山10円で売ってやる。

『それでこそ私の姪っ子』

シュラはのその答えに満足そうに頷いた。

そして

『上手く出世すれば美少年はべらせる事も夢じゃないんだから、頑張りなさいよ』

そんな、実にの叔母らしい台詞を残して、通信を切られた。

ちなみにシュラは、隊長であるのを利用して、すでにそれを実現していたりする。

自分なんかより立派な女王様な生き様をしている叔母に、密かに尊敬していたりするであった。





































、テストどうでしたか?」

「ん?まぁ、多分結構良いはずだよ…」

ニコルの問いに、は正直に答えた。

自分の悪運には、かなりの自信がある。

ただでさえ一日目だって適当に答えて上位に入ったのだ。

当たれ当たれと念じたなら、さらに良い点が取れるはず。

っていうか、そうじゃないと殺される。

カンに頼るしか方法が無いのはなんだか悲しいが、自分の知識をあてにするよりは、遥かにマシだ。

「そうですか。じゃあ、入学式で逢えますねv」

僕、楽しみにしています。

ニコルの心からの言葉に、はにっこりと微笑んだ。

「私も、楽しみにしてるよv」

こうなったら、学園生活というやつをとことん楽しんでやろう。

すっぱりと開き直ったは、そう心に硬く決意していた。

「俺も俺もVv」

会話に無理矢理割り込んできたディアッカが、ニコルにまたしても一蹴される様子を眺めながら、は用意していた荷物を肩にかけた。

試験が終わったため、後は直に家に帰るだけだ。

試験結果はまだ出ていないが、合格していれば2、3日後に家に書類やら何やらが届くらしい。

「それじゃあ、またな」

「ええ」

イザークの言葉にも、笑顔で頷いた。

ここ数日のおかげで、だいぶコケシにも耐性がついたようだ。

アスランが、イザークの後ろで控えめに微笑みながら手を振っている。

それにも応えて、はアカデミーの門をくぐり抜けた。

やはり、中と外とでは開放感が全然違う。

人工的な青空が、目に眩しい。

は大きく伸びをして、深呼吸をする。

これからの事を考えると気が滅入ってくるが、楽しみな事も一つだけあった。


「さて、ミゲルでも殺りに行きますか


の弾んだ声が、雲ひとつ無い青空によく響いた。





























数日後、合格通知と共に入学に関しての書類等が家に送られてきた。






























ちなみに、最終日の総合テストの結果は


(1位)

アスラン・ザラ(2位)

イザーク・ジュール(3位)


だった。












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+++あとがき+++
や、やっと試験編が終わった…!
最後の最後でオリキャラが乱入しちゃってごめんなさい;;
すんなり合格させるには、こうするしかなかったんです…!
でもお姉さま書くの異様に楽しかった〜vvv

さて、やっと一区切りつきましたv
今後の予定は、一応『学園生活編』が控えているのですが、その前に閑話として入学直前の話を書きたいなーと思ってます。
ちょっとした連載になりますが、上手くやれば5話位で終わる予定です。
そして、その間に『学園生活編』のネタを色々と考えます(オイ
本当はアニメに沿った長編とかやりたいけど、一体いつになる事やら;;

長い間お付き合い下さり、本当にありがとうございました。
まだまだ続きますが、引き続き読んで下されば、幸いです。