学園天国〜入学試験編〜
五日目:グループ戦・午前
朝もまだ早い食堂。
は目の前にある食事を、もくもくと胃の中に収めていた。
爽やかな朝に反比例するかのように、に纏わりつく空気は重かった。
目玉焼きを突きながら、気だるげに溜息を吐く。
明らかに落ち込んだその様子に、彼女の周りを取り囲むように一緒に食事を取っていた少年たちが、心配そうに声をかける。
「、具合でも悪いんですか?」
皆を代表するかのようなニコルの問いかけに、ははっと我に返った。
「え?あぁ、大丈夫ですよ……」
「大丈夫って顔色じゃないぞ?」
「もしかして、昨日の傷が痛むんですか?!」
身を乗り出すようにして問いかけるニコルに、は慌てて否定するが、少年たちは信用してくれない。
「本当に大丈夫ですよぉ…。ただ、ちょっと昨日のテストのことで落ち込んでただけです」
「テスト…悪かったのか?」
「確か、166位でしたよね?」
「えぇ…」
少年たちは顔を見合わせた。
確かに、150人ほどしかとらない、このパイロット専門のアカデミーで、166位というのはかなり痛い。
だが、男性の受験者の多いアカデミーの試験の中でも、女性であるは、よくやっている方だ。
それに昨日の試験は特に女性受験者には不利な科目だったのだ。
見るからに華奢ながキツイ試験に耐えられただけでも凄いことだと、アスランたちは感心している。
「そんなの、気にすることないよ」
「そうですよ!他の教科はほとんど問題ない点数ですし」
「ペーパーテストなんて、イザーク抜いて2位だったしな!」
「ディアッカ貴様ぁ!!!」
懸命に励ましの言葉を紡ぐアスランたちに、は弱々しくも微笑みを返した。
憂いを帯びたその表情に、青少年たちの心臓は大きく跳ね上がる。
思わず顔を赤くして固まる彼らに、は不思議そうに小首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「い、いや、何でもない///」
そう言っている割には、顔が赤い。
は益々不思議そうに眉根を寄せた。
対する少年たちは、なんとも気まずい。
「あ〜、そういや今日のテストはグループ戦じゃん!」
「確か、5人1組のサバイバル戦だったよな?」
「ええ。受験番号順に班分けされるんですよ。もうすぐ発表されるんじゃないですか?」
ディアッカが上手く話をそらし、アスランとニコルもすぐさまその話に乗っかった。
普段仲が悪いクセに、こういう時のコンビネーションは異常に良い。
「あ、発表ってあれじゃないか?」
アスランがそう言い、食堂の入り口辺りを指差した。
事務らしき人が、食堂の掲示板に丁度大きな模造紙を貼り出しているところだった。
この掲示板には、その日の予定や連絡事項などが貼られる。
廊下の掲示板などにも貼られるのだが、朝食のついでに見ていけるので、ここの掲示板は受験生や入学後の生徒たちに大変重宝されているのだ。
現に今も、周りの受験生たちの注目の的だ。
今日はグループに分かれるだけあって、皆興味津々に貼り出される模造紙に見入っている。
ようやく事務の人が模造紙を貼り終え、食堂を去って行くと、瞬く間に人垣ができてしまった。
これでは、今5人が座っている位置からは、全くもって内容が窺えない。
「僕、見てきますね」
ニコルが素早く立ち上がる。
大変良い子な行動だが、その大きな瞳にはしか映っていなかった。
いそいそと掲示板の方に向かって行くが、まだ成長途中のニコルの背丈では、人垣の外から掲示板が見えるはずもない。
ニコルはしばらく背伸びをして頑張ってみたが、そんな事で見えるはずもなかった。
仕方なく諦め、その場で顎に片手をあて小首を傾げて考える仕草をしたニコル。
なにやら妖しげなオーラが漂い出したのは、気のせいだろうか。
そして、ニコルはぼそりとナニかを呟いた。
ザザァッ…………
その瞬間、人垣がまるでモーゼの十戒のように割れ、ニコルの前に掲示板が現れた。
((((ま、魔王っ……!))))
鼻歌交じりに掲示板を当然のように眺めるニコルに、たちはそんな感想を脳裏に記すしかなかった。
ニコルの魔法の呪文を聞いたであろう人々は、真っ青な顔をしてニコルと目を合わせまいと視線をあちこちにずらしている。
味方で良かったと、たちは心底そう思った。
「――――あっ!」
掲示板を眺めていたニコルは、何を発見したのか急に声を上げ、たちの方に慌てて駆け寄ってきた。
「どうしたんだ、ニコル?」
「凄いですよ、!」
何気なく訊ねたアスランの言葉は綺麗にスルーして、ニコルは興奮した口調でに話しかける。
哀愁を帯びつつ薄くなったアスランの影に、ディアッカは手を合わせるしかなかった。
「何が凄いの?」
「僕たち全員、一緒のグループなんです!!!」
爛々と目を輝かせて、ニコルが掲示板の内容を口にした。
今日のグループ戦は、アスラン、ニコル、イザーク、ディアッカ、が同じ班だと。
「え……」
「お、俺たちもか?」
「そうですよ」
実力別ならバラバラにされてしまったかもしれないが、今回は受験番号が近い者達が自動的に同じグループになる。
運命の悪戯か、偶然にもトップを競う者たちが同じグループになってしまった。
その中に一人混ざってしまった自称・一般人のは、今だ状況が飲み込めずにいる。
いや、飲み込みたくなかった。
「これならうちのグループ、間違いなく1位ですよ!」
「ふん、足を引っ張るなよ」
「ちゃん、オレが守ってやるからなv」
「俺たちに任せておけば、大丈夫だから」
の本音にも気づかず、口々に無責任なことを言う彼らの言葉は、の耳をただ通り過ぎていくだけだった。
(こいつらと、同じ?1位、確実??)
「楽勝だな」
「そうだな」
「ああ」
「ですね」
朝の食堂で、不敵に微笑みあう、美少年4人組。
ようやく事態を悟ったは、どこか引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
(…………………………マジで?!)
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+++あとがき+++
またしても午前・午後分けます(吐血
さて、無理矢理全員同じグループにしました(笑)
ドリームチームってことで(何
一日目の白ニコルは、どこへ行ったのか(遠い目
っていうか、ラスティはどこにいるのか(更に遠い目
そのうち出てくる…かも?
こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!