国〜学試験編〜
四日目:格闘術・午前





「………あちゃ〜」

ついにやっちまったよ。

目覚し時計を見て、は溜息を吐いた。

本来定められた起床時間にはまだ多少余裕があるが、自分的にコレは寝坊だ。

試験の疲れが、次の日にまで影響するようになったいい証拠だ。

「…いつもなら、まだ夢の中なのにぃ」

ぶつぶつ文句を言いながらも手早く着替え、顔を洗い、歯を磨く。

本当はシャワーも浴びたかったが、時間が無い。

は急いで食堂に向かった。



























「……………ちっ」

食堂を覗いた瞬間、は舌打ちを抑えられなかった。

まだまだ早い時間なのに、食堂は満員御礼とばかりに賑わっていた。

すでに席もほとんど埋まってしまっている。

普段より多い人間が一同に集まるのだから、しょうがないっちゃしょうがないが…

あまりの密集率に、うんざりする。

コレがあるため、はここ数日、慣れない早起きをして、まだ人が少ないうちにさっさと食事を済ませていた。

でなければ、確実に食いっぱぐれる。

受験生達もいい加減学習したのだろう。

だんだん、のように早いうちに食事をすませてしまう輩が、増えてきた。

いや、増え過ぎた。

「これだからコーディネイターは……」

学習能力が高いのも考えモノだ。

空いてる席も、もうほとんど無い。

とりあえず、食事を取りに行く。

こうなったら、席が空くまでトレイを持ってうろうろするしかない。

いざとなったら立ち食いか、外のベンチに陣取るか。


……どれも切ない。


トレイから漂ってくる朝食の匂いに鳴りそうになるお腹を片手で抑える。

席が空いたら、逃さずに座ってやる。

と同じように空いている席を捜している者たちを牽制しながら、は空いてる席が無いかキョロキョロと見回していた。

すでに席を捜し求めている者たちの目は、肉食獣のように血走っていた。

彼らに『譲り合い精神』という言葉は無い。


リストラされたサラリーマンのような、惨めな気分には浸りたくないっ!


朝の食堂は、すでに戦場と化していた。



































ジュール家のお坊ちゃまは、今日も朝から不機嫌丸出しだった。

それもそのはず。

目の前には普段から目の敵にしている、濃紺の髪の少年と、年下のクセに生意気な緑の髪の少年がいた。

それに加えて、この人口密度。

ぎゅうぎゅうに詰められた椅子に、それでもあまってしまう者たちが恨めしそうな目をこちらに向けてひしめき合っている。

朝の食堂には、異様な熱気が立ち込めていた。

「なんでこのオレが貴様らと食事をせねばならんのだっ!」

「仕方ないでしょう。席が取れただけマシなんですから」

年長者らしく、少しは我慢も覚えて下さいよ。

二つ年下のニコルは、そんな目でイザークをじとりと見ていた。

そんな黒い視線から逃れるように、イザークはぷいと横を向いた。

と、長い漆黒の髪が目に映る。

イザークは、ほぼ無意識にそちらに視線を移した。

間違いない。あの少女だ。

席が無いのだろう。少女はきょろきょろと辺りを見回していた。

満席に近いこの食堂で、空いている席を捜すのは不可能に近い。

イザークは、自分の右隣をちらりと見た。

偶然にも、そこは空席だ。

本当は不機嫌丸出しのイザークが怖く、誰もその席に座ることができなかったのだから、偶然というワケでもないが、そんなことイザークには関係ない。

これはもう、声をかけるしかない。

だが、どうやって誘うべきか……。

視線をまた黒髪の少女に戻しながら、イザークは悶々と悩んだ。

左隣に座っている軟派男(ディアッカ)なら、簡単だろうが…普段こんなことをしたこともないイザークは、勝手が解からない。

どうしようかと頭をこれでもかってほど悩ませていると、濃紺の髪の少年に先を越された。

「あ…ねぇ、君!」

その言葉に、少女がきょろきょろと声の主を捜す。

「こっちこっち」

アスランが、目立つようにと立ち上がった。

突然のアスランの行動に、一緒にいた少年達は度肝を抜かれた。

ニコルが『アスラン?』と問いかけてみるが、アスランは全く気にしていない。

少女の琥珀の瞳が、アスランを捕らえる。

「あ、昨日の……」

そう呟きながらアスランたちの方に笑顔で歩み寄ってきた少女と、同じく笑顔のアスランを交互に見詰めることしかできないイザークたち。

何が何だか解からない。

っていうかこいつら知り合いだったのか?

完璧に出遅れたイザークは、ギリギリとアスランを睨みつけるしかなかった。































「あ…ねぇ、君!」

聞き覚えのある声に呼び止められた気がして、は声の方へ視線を彷徨わせた。

「こっちこっち」

声と共に、濃紺の髪の少年が立ち上がる。

その姿を認めて、は声の主が誰であるかようやく理解した。

「あ、昨日の……」

昨日、にプログラミングなどを懇切丁寧に教えてくれたあの少年だ。

彼の周りには、あの目立つ美少年達もばっちりいる。

は命の恩人と言ってもいい人物に、笑顔で近づいていった。

少年も笑顔で応える。

「席、取れなかったの?」

「ええ、ちょっと寝坊しちゃって…」

後で席を譲ってくれないか頼もうかと思ったが、少年のトレイの中身はまだほとんど手をつけていない状態だった。

これでは、空いている席を捜した方が早い。

だが

「ここ、空いてるぞ」

という声が、前方から突然上がった。

声のした方を見れば、あのコケシ少年がいた。

確かに、少年の隣の席はきちんと一人分のスペースと椅子がある。

あえてそちらを見ないようにしていたのに…。

は込み上げる笑いを力ずくで抑えた。

こうなったら、背に腹は変えられない。

今は腹を満たすのが最優先事項だ。

そして何食わぬ顔でコケシ少年に微笑みを向ける。

「お邪魔しても良いんですか?」

「ああ」

『それじゃ、お邪魔しま〜す』とか言いながら、はコケシ少年の隣に腰を下ろした。

ようするに、見なければ良いのだ。

「一体どういった知り合いなんですか?」

緑の髪の可愛らしい顔をした少年が、濃紺の髪の少年に問いかけた。

少年達の視線が、一斉に濃紺の髪の少年に向けられる。

「えぇっと…昨日の情報処理で席が隣同士で……」

しどろもどろに答える少年。

うまく言葉が見つからないのだろう。

「パソコンが壊れて困っているところを助けて頂いたんです」

が濃紺の髪の少年の後を引き継ぎ答える。

「しかもその後、プログラミングとかも色々丁寧に教えて頂いて……」

本当にありがとうございましたと、改めてお礼を言うに、濃紺の髪の少年は慌てて手を振った。

「いや、別にそんなたいした事もしてないし……」

「でも、教えてもらっていなかったらきっと最下位でしたし…射撃のテストも散々で、崖っぷちだったんですよ」

本当に、情報のテストで最下位なんて取った日にゃ、間違いなく殺されるところだった。

目の前の少年には、感謝してもし足りない。

「あ、俺はアスラン・ザラ。改めて宜しく」

なぜか唐突に自己紹介を始めた濃紺の髪のの少年に、周りの少年達が一斉にこけた。

「って自己紹介もまだだったんかいっ!」

見事な突込みをする色黒の少年。ビシッと手までそろっている。

「あ〜、そういえば、まだでしたね」

お互い名乗るのを完全に忘れていた。

「あ、僕はニコル・アマルフィって言います。よろしくお願いします」

緑の髪をした可愛らしい顔の少年が、そう自己紹介をしたのと同時に、色黒金髪の少年もはいはいと名乗りをあげた。

「オレはディアッカ・エルスマン。よろしくな」

愛想良く笑いかけてくるディアッカの隣のコケシ少年は、対照的に仏頂面だ。

「…イザーク・ジュールだ」

それだけ言うと、ぷいと目線をそらしてしまうイザーク。

そんな態度をとられても、コケシと目が合わなくって良かったと、ほっとしただったりする。

「よろしくお願いします。えっと、って言います」

がそう名乗ったとたん


「お前がだとぉ?!」


隣でイザークに思いっきり叫ばれて、思わず顔を顰める。

(うわっ、うるさっ!!!)

アスランたちも一斉に驚いた顔をしている。

自分の名前がどうしたというのだ。

「…って、筆記テストでイザーク抜いて2位だった?」

「一言多いぞディアッカ!」

なおもギャンギャン喚くコケシ。

うるさいが、ここでキレるわけにもいかない。

「あれはたまたま適当に答えたら点数良かっただけで…ほとんど問題も解からなかったんですよ」

というか、問題自体見ていなかった。

「でもかなり難しい問題でしたから……」

って頭良いんですねぇと、にこにこと言ってくるニコル。

完全に、誤解です。

「いや、本当にまぐれで…っていうかここの試験、レベル高過ぎませんか?」

それに倍率も異様に高い。

今は戦争中なのだから、もう少しレベルを低くしてほとんど入れちゃっても良いんじゃないかと思う。

普通試験なんてあってないようなモノで、志願してきた者はどんどこ軍に入隊させてしまうだろう。

そんなことされたらこっちはひとたまりも無いが、かねてからの疑問だったのでそれを口にしてみる。

「…そりゃあ、そんなにパイロットばっかいたって、しょうがないからだろ」

「ここは一応、パイロット専門ですし」

パイロット専門。つまりはエリート限定。

その事実を聞き、は数秒固まった。

「…はい?」

なんですと?!

パイロット、専門?

?」

アスランたちが不思議そうにの顔を覗き込んでいる。

は慌てて『なんでもないです』と答え、平静を装うしかなかった。

アスランたちとわりと穏やかに世間話をしていても、内心はパニック状態だった。

万が一アカデミーに入ってしまった時の保険(明らかに楽そうな通信士などの後方支援に回る)も利かない事が判明したのだ。

やばい。やばすぎる。

このままでは本当にアカデミーに入ってしまうかもしれない。

そういえば、親戚も会うたんびに『軍には入らないのか?ってか入れや』とかほざいていた。

階級など無いのが売りのザフトだが、の一族は新人以外のほぼ全員が隊長格以上の職務に就いている。

今さらここから逃げ出すこともできないだろう。

逃亡なんてしたら、確実に親戚に殺されるっ!

そんなことしたらMSで追い掛け回された上、コンクリート詰めにでもされて、宇宙に放り出されるのだ。

なんてヤクザな一族なんだろう…。

やらないとは言い切れない。

ってか、奴等ならやりそうだ。

たとえ合格ラインを満たしていなくても、コネを最大限に使って入れられそうな気がする。

小娘一人アカデミーに入れるくらい、朝飯前な連中だ。

なんだか、どんどん逃げられない状況に追い込まれていく気がする。

はこれ以上深く考えないことにした。

とりあえず、最初の目標通り『合格点ギリギリで落ちる』を目指そう。

最初からこの作戦は賭けだったのだ。

もしかしたら、めんどくさがって何もしないかもしれないし。

それもかなりありえる話だ。

今日の試験は格闘術だ。

これを乗り切ればすべてうまくいく…かもしれない。

は、決意を新たに朝食のトーストを頬張った。




















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+++あとがき+++
長いので前編・後編分けました。
やっと自己紹介&会話。
昨日アスランとは名前も名乗りあってなかったのです。
書いてるうちに設定がどこどこ増えていくので、つじつま合わせが大変です;;
何も考えずに連載やっちゃったからですね(アホ
今は良いんですが、この後予定しているアニメ長編になると一族の方々が出張ってくるので、今のうちから一族のことを色々と書かせて頂いてます。
アニメ長編にこぎつけることが出来るのかは…人気と気力次第です。
かなり無理っぽいですが、書きたい話なのでもそもそ頑張ります。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!
見捨てずに後編も読んでいただけると嬉しいです。。。