学園天国〜入学試験編〜
三日目:情報処理
ピ――――――
(…………あれ?)
パソコンの画面の前で、はどうすることもできなくなった。
画面にはひたすらErrorの文字が浮かんでいてピーという不吉な音まで出ているが、何でそうなったのかさっぱり解からない。
ピ――――…ガッガガガガガガガガ……
(ガガってナニ?!ガガって!!!)
終いには、明らかにヤバイ系の音がパソコンから漏れてきた。
ガガガッガガガガガガガガッガガガガガガガッ……
もはや、大破10秒前といったカンジだ。
(きょっ、教官っ……!!)
先程講義をしてくれた教官を仰ぎ見るが、他の受験者に捕まっていて助けてくれそうにない。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう!!!)
もはやにはどうしようもなかった。
はコーディネイター…と、いうより、この時代の人間にしては珍しく、あまりパソコンなどの機械類をいじったことが無かった。
なので、今自分のパソコンに何が起きているのかさえ解からない(ひたすらヤバイことは解かったが)
誰か助けてと心の中で叫んでも、誰も助けてくれるはず無い。
皆自分のことに必死なのだ。
だが救世主は思わぬ所にいた。
―――――――ッピ
突然横から伸びてきた手が、のキーボードに触れた。
すると、キーを一つ押しただけなのに、あの破壊音がピタリと止んだ。
さらにその手はカチャカチャと淀みなくキーボードを操作していく。
と、画面に浮かんでいたErrorの文字が瞬く間に消えていった。
「―――はい、これで大丈夫」
「あ、ありがとうございます」
がそう言うと、救世主は美しく微笑んだ。
救世主の正体は、隣の席に座っていた濃紺の髪に翡翠の瞳の、昨日の目立つ4人組の一人の美少年だった。
「それにしても…機械、苦手なの?」
アスランは、右隣に座っていた黒髪の少女に尋ねた。
簡単なプログラムのハズなのに、あまりにもおかしなエラー音を発していたため、つい助けてしまった。
「……ええ、まぁ」
少女が苦笑しながら答える。
少し細められた琥珀の瞳を見て、アスランはこの少女が昨日の少女だったことに、今更ながらに気づいた。
「実はあまり、機械に触ったことがないんです」
だから全然解からなくて………
「え?でも、幼年学校とかでも習うはずじゃ……」
アスランは、途中で口を閉ざしてしまった。
少女が困ったように弱々しく首を横に振ったからだ。
何か、悪いことを訊いてしまったのかもしれない
「……ごめん」
「いえ」
少女は優しく微笑んだ。
アスランはその儚げな笑みに、自分の顔が熱くなるのが解かった。
伏せ目がちな長い睫毛に縁取られる、光の加減で金にも見える琥珀の瞳。
滑らかな、シミ一つ無い象牙色の肌。
やわらかそうな薄桃色の唇。
さらさらと背中に流れる純黒の綺麗な髪。
本当に、綺麗なコだとアスランは思った。
「あの、解からないなら教えてあげようか?」
自然と、アスランの口から言葉が漏れた。
ちょうど今日のテストは情報だけなので、講義を受けた後は午後のテストの時間まで自由練習ができる。
まだ充分時間はある。
その間に、みっちり教えれば良い所までいくかもしれない。
「でも……」
少女が申し訳なさそうな顔をした。
アスランの練習時間が減ってしまうのを、気にしているのだろう。
「あぁ、俺は大丈夫だよ。こういうのは得意な方だから」
この程度の問題なら、特に練習しなくても大丈夫だという自信は、それなりにある。
少女は少し考えてから
「……えっと、それじゃあお言葉に甘えて…よろしくお願いします!」
と、笑顔で言った。
先ほどまでの弱々しい表情はどこにも無く、今はただ生き生きと輝いた表情をしていた。
それにつられてアスランも、満面の笑顔で返す。
「こちらこそ、よろしく」
そういえば、親友のキラと離れてからここ数年、他人にこんな笑顔を向けたことは無かったと思うアスランだった。
『機械が苦手か』と訊かれて、は曖昧に頷くことしかできなかった。
それもこれも、あのふざけた父のせいだ。
父は昔、コーディネイター(プラント)とナチュラル(地球)の関係がどんどん悪化しているのにもかかわらず、あろうことか彼は年端も行かぬ実の娘を地球に放り込んだのだ。
実際は軍人である父が、地球にあるどこぞのザフト駐屯軍基地に移動になり、ついでとばかりに幼いを地球にある自分の実家に預けたのだ。
それにしてもアレは、完全に親としての責任を放棄していたと思う。
の母は、今はピンピンしているが、当時はを出産してから産後の肥立ちが悪く、よく体を壊していた。
そのため一人プラントに残った母はしょうがない。
だが父は―――
父は娘を実家に預けた後、またプラントに移動になり、娘を迎えに来るまでの5年間、一度も娘に逢いに来たことが無かった。
手紙の一つすら、本当に一通も寄越さなかったのだ。
後でブルーコスモスに襲われないようにするためだとかもっともなことを言っていたが、ただ単にめんどくさかっただけだろうとは確信していた。
あんな田舎に、ブルーコスモスなんているはずがない。
それどころか、人間すら滅多に見かけなかった。
しかも物凄い山の奥で、数件の家しか建っておらず、そこの人間はナチュラルしかいなかったが皆一族の者で身内だった。
がコーディネイターだとかにこだわることも無く、皆普通にに接してくれた。
もしかしたら、ナチュラルとかコーディネイターとかの言葉の意味も知らなかったのかもしれない。
テレビも電話も無く、かろうじて電気が通っている程度で、唯一の外の世界との交流は徒歩で半日かけて下山して、近くの町まで行くくらいしかなかったのだから、無理もないが。
それほどまでの、田舎だった。
なぜ自分の子供をコーディネイターにする気になったのか、ふと疑問に思って祖父に訊いたら『面白そうだったから』という、なんともふざけた答えが返ってきた。
あの男の親なんだ…と、素直に自分の父親と祖父の血の繋がりを感じた幼いだった。
うざいくらいの大自然と、閉鎖的な空間でふてぶてしく育った。
当然プラントに還ってきた時には、人類の進歩を突然宇宙に連れてこられた原始人並に驚いた。
そしては、それに付いて行くことができなかった。
幼年学校も『今さら行けるか!!』と言ってほとんど行かなかったのも、悪かったのかもしれない。
それまで散々地球で自由な生活を送ってきたのだ。
今さら集団生活に馴染めるはずも無かったし、規則だらけの学校になんて、行きたくも無かった。
親しい友人がいなくても、ミゲルがいたのでさして不便には思わなかったし、勉強も、地球で祖父母に何気にみっちりと仕込まれていたのでこれ以上必要無かった。
は、単位を落とさない程度に、必要最低限にしか学校に行っていなかった。
ようするに、サボリだ。
この辺あまり突っ込まれたくなかったので、さっき訊かれた時はいかにもワケ有りっぽくしておいた。
は今の自由な生活に、満足していた。
それなのに―――
父に対する怒りが、改めて沸々と湧き上がる。
自分を子牛のように売り飛ばしてくれたミゲルもろとも、この借りはきっちり100倍にして返してやる。
かなり物騒なことを心に固く決意しただった。
濃紺の髪の少年は、実に丁寧に、根気良くにプログラミングのノウハウを教えてくれた。
流石にこれ以上成績を落とすワケには行かないは、ありがたくそれを素直に習った。
パソコンに触れたことが無いだけで、元々才能があったのか、はたまた少年の教え方が良かったのか、の情報の成績は、101位という自分では驚きの結果だった。
今度こそ最下位かもしれないと、内心冷や汗タラタラだったにしてみれば、予想外の良い結果で、かなり満足していた。
そんなこんなで、無事(?)三日目のテストが終了した。
は助けてくれた濃紺の髪の少年に、心の底から感謝した。
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+++あとがき+++
前サイトの遺物。
ちなみにコレ、ほとんど学校でやりましたv(授業やれよ…
情報の授業って、内職に最適なんですVv
夢小説用のフロッピー持参でやってます(待て
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
まだまだ続きますので、見捨てずに引き続き読んで頂ければ幸いです。