国〜学試験編〜
二日目:体力測定・射撃








―――ウソ



昨日のペーパーテストの順位を確認し、は愕然とした。


 498点 2位


思わず目を擦り何度も確認するが、数字はいっこうに変わらなかった。



500満点中、498点……


ありえない。



カンだけでこんな点数取れるなんて……


絶対に、ミトメタクナイ!!(←ハロ


は後悔した。

『平均点取れると良いな』と思って、自分のカンについ頼ってしまったことに。

それほど、の野生のカンと悪運は強烈なものだった。

は今更ながらに思い出していた。

自分は、テストの山カンは外した事が無いのだ。

その上、○×問題の抜き打ちテストでも、カンだけで満点を取ったこともある。

あの時は、自分の悪運の強さに心の底から神に感謝したが、今は全然、嬉しくない。

ここまで強運だと、悪魔にでも憑かれているんじゃないかと思う。



―――どうしよう



このままだと『合格点ギリギリで落ちる』が『余裕で受かる』になってしまう。

これからの試験で調整していくしかない。

今日の試験は、午前が体力測定で午後が射撃だ。


入学試験を受けるのは、約300人


その中でも受かるのは、半分の約150人程度だという。

これからは、確実に落ちるように全教科250位以下を目指そう。

筆記試験で2位だったのだから、それ位でちょうど良いだろう。

は心の中で、もの凄く低レベルな目標を立てた。

体力測定も射撃も、の得意分野だ。

本気を出せばかなり上位に喰い込むことは解かっている。

だが、そこまでの実力を持ちながら、はアカデミーに、軍に入る気にはなれないでいた。

はもう一度掲示板を見上げるが、やはり順位が変わることは無かった。



































午前の体力測定は、ほぼ順調に過ぎていった。

100m走、持久走、腹筋、走り幅跳び、垂直飛び…等等、かなりハードなスケジュールだ。

他の人の記録より下を目指しているが、手を抜いていることがバレない程度にやるため、かなり調整が難しい。

少し本気でやれば上位になってしまうし、逆に手を抜き過ぎると最下位になってしまう。

一番最初に受けた100m走などは、どの位手加減すれば良いのか解からなくて、結局56位になってしまった。

なんとか他の種目で調整して、最終的に体力測定の総合順位は252位になった。





































100m走の待ち時間、イザークはある少女から目が離せなかった。


滑らかな象牙色の肌。

すべての闇を吸い取ったかのような漆黒の長い髪。

瞳の色は光の加減で金にも見える琥珀色の、どこか意志の強そうな大きな瞳。

すべてのパーツが絶妙なバランスで配置された美しい、というよりはまだまだ幼さの残る可愛らしい顔。

軍隊になど堪えられそうに無いと思うほど小柄で華奢な体。

思わず護ってやりたくなるほどの条件を備えた美少女なのに、儚げな印象など微塵も無く、少女は堂々と屈伸運動をしている。


すべてがイザークの好みをついていた。

黒髪の少女から、どうしても目が離せない。

普段女性には興味のカケラも抱かないイザークにとっては、大変珍しいことだった。

少女が走る番がきた。

少女が位置につく。

前を見据える姿がとても凛々しく感じる。

合図が出て走り出す。

少女は一着ではなかったが、とても綺麗な走り方をするとイザークは見惚れた。

割と良いタイムなのに、少し悔しそうな少女の表情を見て
少女の向上心の強さを感じ、イザークは更に少女への好感度が上がる。

これを一目惚れと言うのかもしれない。

イザーク・ジュール、17歳。

モテまくるのに女など興味の無い彼に、遅まきながら春が来た瞬間だった。










































(―――あぁ、疲れた)

射撃場に向かいながら、は盛大な溜息を吐いた。

本気を出していないため体は全然疲れていないが、精神的にもの凄く疲れていた。

全然本気を出せないのだ。

体を動かすことが大好きなは、中途半端な運動で、かなりストレスを溜めていた。


思う存分動きたいと、体が疼く。


この疼きは中々取れないものだということはよく解かっているので、かなりイライラする。

いつ自分を抑えきれなくなって本気を出してしまうか、解からない。

次は簡単な銃の講義を受けた後、射撃の試験だ。

こんな調子でこれから先大丈夫なのかと、は自分の未来に不安を覚えた。

父の高笑いが、聞こえてくるような気がした。






































「アスラン貴様ぁ!!」

射撃場に入ろうとするアスランを、イザークはケンカ腰で呼び止めた。

「…何だよ?」

アスランが『またか』という表情で振り返る。

「次は絶っ対!負けないからな!!!」

先ほどの体力測定で、イザークはまたしてもアスランに負けた。

しかも、密かに闘争心を燃やしていたは、252位という結果で、かなりの肩透かしを喰らい、イザークはすこぶる機嫌が悪かった。

更に喰ってかかろうとするイザークに、ニコルとディアッカが止めに入る。

「ほらイザーク、もう言うこと言ったんだから、さっさと中入ろうぜ」

「うるっさい、ディアッカ!!」

「これ以上の発言は、負け犬の遠吠えですよ?

「何をっ…………!」

ニコル強し。

黒い笑みを浮かべながら言った一言に、イザークは言い返すことができなかった。

「ニコル貴様っ……」

「なんですか?」

イザークがニコルを般若の表情で見詰めるが、ニコルはどす黒い笑顔でそれを受け流す。


まさに一触即発。


「おい、お前ら………」

ディアッカが、ヤバイ空気を振り撒いている二人を止めようと口を開いたが、軽やかなソプラノの声に遮られた。


「―――あの、すみません」


アスランたちの目が、一斉に声のした方へ向く。

声の主を見て、イザークの心臓が一気に跳ね上がる。

長い漆黒の髪に琥珀色の瞳をした、あの少女だった。

少女は困ったように微笑み、口を開いた。

「すみません、中に入れないのですが……」

どいて頂けませんか?

イザークたちは一つしかない射撃場の入り口を塞いでいる状態だった。

これでは後ろの者が中に入れない。

かなりの迷惑行為だ。

「あ、すみません」

ニコルが慌ててその場を退く。

「いえ―――」

少女はにっこりとニコルに笑いかけ、射撃場に入って行く。

イザークの前を通り過ぎる時、少女と目が合った。

少女はイザークにも笑いかけ、ペコリとお辞儀をして射撃場に入って行った。














「―――すごく可愛い人でしたね」

ニコルが溜息交じりにそう呟いた。

先程までの黒さはどこに行ったのか、今はほんのりと頬を染めて、少女に負けず劣らずの、可愛らしい表情をしている。

「ああ。後数年もすれば、すげぇ美女になるんじゃないか?」

ディアッカが、喜々としてニコルの呟きに賛同する。

「あの子も同じクラスなんだな」

ニコル同様ほんのりと頬を赤く染めながら、アスランが言った。

試験は受験人数が多いため、受験番号順にいくつかのクラスに分かれて行われる。

受験番号の近かった彼ら4人は、自然と同じクラスになった。

彼女も同じ射撃場に入って行ったということは、自分たちと同じクラスなのだろう。

一度決められたクラスは、試験が終わるまで変わることが無い。

つまり、後の試験もずっとあの少女と一緒ということだ。

もしかしたら、彼女と話せる機会があるかもしれない。

イザークは高鳴る胸を抑え、射撃場へと足を踏み入れた。



































ダンッ ダンッ ダンッ…………



簡単な銃の扱い方の講義を終え、1時間ほどの練習時間を与えられた。

は、幼い頃から軍人である父や親戚たちに銃の扱い方や格闘技などを仕込まれていたため、さして練習する必要も無いのだが、怪しまれるとマズイのでバカバカと撃ちまくっていた。

ワザと外しまくっているが、腹の奥にまで響く銃の震動は心地が良く、午前中からの体の疼きが収まっていくのが解かった。


「―――ふう」


思う存分撃ち終え、は少し休憩することにした。

休憩用のベンチに体を預ける。

チラリと他の人たちの様子を見たら、何人かの人もと同じように休憩に入っていた。

皆、朝からの激しい運動や慣れない銃の扱いでかなり疲労の色が濃い。

はまだ練習している人たちへと目を向けた。

(―――あ、あの人たちだ)

の目に、濃紺、緑、銀に金の髪の少年たちが映る。

射撃場の入り口を塞いでいた目立つ四人組の少年たちは、まだまだ元気に銃の練習をしていた。

ストレスが溜まっている時の迷惑行為に、は内心腸が煮えくり返る想いをしていたが、にこやかに愛想を振り撒いたのは、彼らが滅多にお目にかかれないであろう美少年たちだったからだ。

もし彼らが美少年でなかったら『どけよテメェら』くらい言って、殴りつけているところだった。

美少年のハーレムに惹かれて試験を受けるハメになった、実にらしい考えだった。

あまり目立ちたくも無いので実際にはやりもしないが、一度キレたら何をしでかすか自分でも解からない。

この先、自分のその性格はかなりの不安材料だった。

そんな不安を払うように、は少年たちをじっと見詰めた。


(―――へぇ、結構やるじゃん)


彼らはほとんど的を外さずに、ほぼ中心に打っていた。

特に、濃紺の髪の少年と銀の髪の少年は、さっきから物凄い勢いで撃ちまくっているが、全然中心を外していない。

姿勢も基本に忠実で、しっかりと落ち着いている。

美少年たちが奮闘しているのを観察するのは、かなり良い目の保養だった。







は爆笑したいのを必死でこらえていた。

琥珀の瞳に捕らえているのは、銀髪の少年。

肩より少し上で真っ直ぐに切りそろえられた髪型。

あれはどう見ても―――


おかっぱ…かっぱ!!!は、初めて見たっ!!!!)


先程目が合ってしまった時も周りを気にせず爆笑しそうでかなりヤバかった。

俯くことでなんとか防いだが、顔がにやけてしまった。


(っていうか、家にある『コケシ』に似てるっ……)


玄関先に飾られている、東洋にある小さな島国の伝統的な木の人形を思い浮かべ、さらに肩を震わせた。

黒い髪をした人形を、銀髪に塗り直せば完璧だ。(何が
















結局射撃の試験は、おかっぱが頭にちらついて集中できず、290位だった。















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+++あとがき+++
前サイトの遺物。
どうしても自分はおかっぱを出張らせたいみたいです。
イザークがっ…おかっぱが乙女だよ(爆笑)
そしてどこまでも憐れ(失笑)
果たして彼らは『楽園〜』のような関係になるんでしょうか?(訊くな

次は他のキャラとも絡ませたいな…。