国〜学試験編〜
一日目:一般教養・基礎知識



出題された問題を見て、黒い髪の少女は考えることを放棄した。

ワケの解からない言葉の羅列に、目眩がする。

『んなもん、解かるか!!』と心の中で悪態をつく。

何で自分がこんなことしなきゃいけないんだと逆ギレしたかったが、何とか自分を抑える。

学校といえど、一応ここは軍の施設なのだ。

ちなみに今は軍のアカデミーの入学試験の真っ最中だ。

試験を受けている少女の名は(16)

漆黒の長い髪に、琥珀の瞳の美少女だ。

の父はザフトの軍人だが、は軍とは全くもって関係ない
自称・一般市民として暮らしてきた。

軍に入ろうなどと、考えたことも無い。

そんなが、なぜアカデミーの試験を受けているのかというと
話は数週間前に遡る―――






































、アカデミーは良いぞ」

ある日の夜、家の夕食に招待された母方の従兄、ミゲル・アイマンは、スープをすすりながらそんなことを言い出した。

「はぁ?アカデミーって、軍の?」

ミゲルは去年、ザフト軍のアカデミーを卒業し、晴れて軍人になっている。

「ああ。制服はカッコ良いし、食堂の料理は美味しいし……」

ミゲルはアカデミーの良い所を、次々に並べ立てる。

「実習でMSも動かせるんだぞ」

「へぇ……」

はMSという言葉に、少し惹かれた。

コーディネイターの子供ならば、誰でも一度はMSに乗ってみたいと憧れるものだ。

男勝りな性格のも、小さい頃から一生に一度は乗ってみたいと夢見ていた。

だが次の瞬間、それよりも興味を惹かれるものがミゲルの口から発せられた。

「男ばっかりだから、女子はモテまくるぞ〜」



女子はモテまくるぞぉ ぞぉ ぞぉ―――



ミゲルの声がエコーする。

「それ、ほんと?」

「ああ。お前、黙ってればもの凄い美少女だからな。ほっといても男が次々告ってくるぞ」

は『黙ってれば』の部分に反応して、テーブルの下から目の前に座っているミゲルの足を蹴り上げた。

苦悶の表情をするミゲルを無視して、は想像を巡らせる。










美少年をはべらせた、女王様な自分。




























イイ!!!




















すでに美少年と決定しているのは、実にらしかった。

妄想がどんどん暴走していく中、はつい呟いてしまった。



ほんの軽い気持ちで



「アカデミーかぁ…イイなぁ。入ってみたいかも」



この一言が、の運命を決めた。



「本当か?!!!」

椅子をひっくり返す勢いで立ち上がり、の方に身を乗り出したのは、軍人である父だった。

「と、父さん?」

はその勢いに思わず後ずさる。

父の目は爛々と輝き、を見つめていた。

「よし!さっそく入学試験に申し込まねばな!」

「良かったわねぇ、あなたv」

父の声に、心底嬉しそうな顔をした母が、手を合わせて賛同する。

「まずは書類を作成して―――」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

どんどん話を進めていく父を、は慌てて止めた。

「なんだ?」

父は不思議そうにを見つめる。

は確信した。



ヤバイ



このままじゃ、本当にアカデミーに入れられる!!!




しかも強制的にだ。

は軍人になる気なんてさらさら無かった。

だが両親は違うらしい。

明らかにを軍に入れる気満々だ。

「実の娘を軍に入れるなんて、どういう神経してんのよ!」

コーディネイターとナチュラルの関係が危ういこのご時世

『軍に行け』と言うことは『死にに行け』と言っているようなものだ。

はまだまだ死にたくなかった。

「あたしが死んでも良いの?!」

は両親に向かってそう叫んだが


「大丈夫、お前の生命力はゴキブリ並だ


殺しても死なん。


そうあっさりと返された。

こうも自信満々に言い切られると、妙な説得力がある。

「それに父さんはなぁ、お前に後を継がせるのが夢だったんだ!」

つまり、自分と同じMS乗りにさせたいらしい。

そんな夢は初耳だ。

「あたしはイヤだからね!!」

は力の限り叫んだ。

規則だらけの軍など、自分の性格なら三日ともたないだろう。

「ミゲルも何か言ってよ!」

は年上の従兄に助けを求めた。

可愛い従妹が戦場に行かされるのだ。

きっと、絶対、両親を説得して止めてくれるはず。

だがは、パニックのあまり忘れてしまっていた。

最初にアカデミーの話をしたのは、ミゲルだということに。

ミゲルは懐からテープレコーダーを取り出し、スイッチを押した。

『アカデミーかぁ…イイなぁ。入ってみたいかも』

テープからは、先ほどの会話が流れてきた。

は呆然とする。

「ほら、もこんなに乗り気だったじゃないか」

「ミゲル!!テメェ裏切ったな!!!」

激怒するに、ミゲルは爽やかな笑顔で言葉を返す。

「わりっ、今月金欠でさぁ……」

父が財布から取り出した数枚のお札を、ミゲルの懐に滑り込ませる。

最初から、仕組まれていたのだ。





「このっ、裏切り者ーーーーーー!!!」










その後、の抵抗も空しく、話はとんとん拍子に進み
は一週間もあるアカデミー入学試験を受けることになり、今に至る。































いくらアカデミーで新兵を募集していても、入学試験で合格しなければアカデミーには入学できない。

軍は優秀な人間が欲しいのだ。

戦場でもたついてすぐに死ぬ新人より
すぐに活躍してくれる優秀な新人の方が良い。

そのためにアカデミーでみっちり技術を身に付けさせるのだ。

だからアカデミーの授業にもついていけないような人間は、最初からいらないのだ。

アカデミーではそんな人間は、すっぱりと不合格にしている。

命をかける仕事のため、合格ラインはかなり高い。

アカデミーの一週間の入学試験は、全員寮に泊り込みでさまざまなテストを行う。

体験入学も含まれているので、入学後の学園生活がどんなモノかも解かるのだ。

それに合わない人間も、自然と減らしていく。

余計な手間が省けるのだからアカデミーとしては一石二鳥だろう。

戦争は金が要るのだ。

余計な人件費にに予算を割いている余裕は無い。










絶対に、落ちてやる―――


はそう心に固く決心していた。

間違って入学なんてしたら、もう後戻りできないような気がするから。

だが家は軍の関係者が多い。

一族は権力があるわけではないが、戦場での実力だけならかなり有名だ。

アカデミーの入学試験なんかであっさり落ちたら、一族の恥になってしまう。

そんなことになったら、は猛将で知られた親戚全員を敵に回すことになる。

それだけは、絶対に避けたい。

クセ者揃いの一族なのだ。報復攻撃はさぞ凄まじいものだろう。

だからは、一か八かで『合格ラインギリギリで落ちる』ことにした。

一応、一生懸命やってみたことを見せれば『惜しかったなぁ』で許されるかもしれない。

『この程度の入学試験で落ちてんじゃねぇ!』とキレられるかもしれないが。

これは一種の賭けだ。






だがその賭けも、もう負けたかもしれない。



問題が、全然、全く、解からない。





試験初日の今日は、一般教養・基礎知識などのペーパーテストだ。

は出題された問題のどれ一つとて解からなかった。

問題のレベルが高い。高すぎる。

合格する気の無いは、試験の傾向・対策など全くもって勉強していない。

それに元々は、勉強は得意ではなかった。

日常生活でも、興味のあるものしか記憶しないに解かるはずがない。

このままだと、『合格ラインギリギリで落ちる』どころか『最低点で落ちる』ことになってしまう。

とりあえず、解答欄を埋めることに専念した。

幸い、マークシート方式だ。

数字の一つに丸をつけていけば、どれかしら当たっているだろう。

下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。

(これはB、次はD。また次もD………)

ヤケっぱちで問題も見ずに適当に答えていく。

数字をグリグリと塗りつぶしながら、は『ミゲルのアホ、ミゲルのアホ』と口の中で呟いていた。

微妙に当たってて欲しいと願いながら、はすべての問題をカンだけで埋めた。














































「あ、アスラン!もう掲示版にさっきの試験結果の順位が張り出されてますよ」

「ああ」

アスラン・ザラは、友人のニコル・アマルフィと共に張り出された掲示板を覗いた。

「流石ですね。アスランが1位ですよ」

かなりレベルの高い問題だったのに。

ニコルは尊敬の眼差しでアスランを見ながらそう言った。

「そんなこと、ないよ」

アスランは苦笑しながら返す。

「でもイザークが3位だなんて、意外ですね」

ニコルは掲示板を見ながら呟く。

ちなみに彼は4位だった。

上位の人間は、上流階級の子息達が並んでいる。

彼らもその中の一人だ。

ゆえに、ほとんどの人間が彼らの知り合いだった。

「そうだな。2位は?聞かない名だな…」

「女の人みたいですね。どんな人なんでしょう……」

今回の問題はアスランでさえてこずった。

それなのに自分に続いて、かなり僅差の点数で2位になっている。

アスランとニコルは、顔も知らぬという女性に、少なからず興味を覚えた。



























そしてここに、二人よりもさらにという少女に興味を持った者がまた一人―――

(3位?!この俺が3位だとっ!!!)

銀髪の少年、イザーク・ジュールは掲示板を見て愕然とした。

並みのコーディネイターより優秀だと自負している彼に、この結果はありえないことだった。


自分が許せない


アスランに勝てなかったことも許せないが
名前も顔もも知らない女に負けたということが何より許せなかった。

…!)

必ず見つけ出して、徹底的に負かしてやる!

イザークは顔も知らぬ相手に、無駄な闘争心を燃やしていた。
















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+++あとがき+++
前サイトの遺物。
ヒロインさんは『楽園シリーズ』と同一人物です。
彼らとヒロインさんの『出会い編』ってやつですね。
『楽園シリーズ』は短編でほぼ逆ハー、『天国シリーズ』は連載で相手はまちまちです。
『楽園シリーズ』を読んで下さった方なら解かると思いますが、最終的にヒロインさんはクルーゼ隊の赤になってます。
こっちは『楽園〜』よりちょっとシリアス含むかもしれませんが、基本的にギャグがベースです。
ヒロインさんの性格が個人的にお気に入りだったから書いたんですが…
『楽園〜』書いてた頃は、全然シリーズ化するはずなかったのに;;
ミゲルと従兄妹なんて設定もなかったのに…!
ある意味最強のヒロインです。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました!