〜イジメじゃないよ、だよ〜





「タマーーー!」

「ラッシーーーー!」


愛犬がいなくなったのに気が付いて、早数分。

とラスティは、アスランたちにも事情を話し、愛犬捜索を手伝って貰っている。

ミゲルを捜索するはずが、何故捜索犬…いや、捜索狼であるはずのタマを捜索するハメになるのか…。

帰ったらおやつ抜きと、タマへの判決を下す

これで人様に迷惑もかけていたりなんかしたら……。

ミゲルと一緒に、私刑決定だ。


「タマタマタマタマタマーーー!」


「ワンッ!」


「タマッ?!」


声の方を見ると、紛れもない愛狼タマが走ってこっちにやって来る姿が見える。

その後ろには、ラスティの愛犬ラッシーの姿もある。


「タマ!」

「ラッシー!」


夕陽を背に二組の飼い犬&飼い主が走り寄る。

映画やドラマで言うならば、感動のご対面シーンだ。

だが……


「「どこ行ってたんだこのアホ犬っ!」」


「「キャインキャインッ!!!」」


それぞれの飼い主は、飼い犬の頭を引っ掴んでぐりぐりと制裁を下した。

飼い主なだけに、弱点をよく知り尽くしているらしく、それぞれ愛犬の嫌がる事をしながら叱り付けている。

事情を知らない人に目撃されたら、動物虐待として訴えられそうな勢いだが、二人にしてみれば充分躾の範疇だ。

むしろ、ここで甘い顔なんてしたら、つけ上がるに決まっている。


「み、見つかったみたいだな……」


アスランが恐る恐る声をかける。


「あ、アスランも皆もありがとうVv」

「おかげで見つかりました〜」


と、犬とは180℃違う態度でにこやかに対応された。

変わり身の早さでは、両者イイ勝負かもしれない。


「そのコがの犬ですか?」

「うわ〜、でっけーな!」


ついさっき怒られた事ももう忘れたのか、タマは自分を取り囲む少年達を興味津々な顔で見返した。

普通狼とは警戒心がべらぼうに強い生物なのだが、タマは例外らしく、人懐っこく尻尾をパタパタ振っている。


「この犬…犬種は何だ?」


眉間に皺を寄せながら、イザークが訊いてきた。


「雑種です」

「………狼っぽくないか?」

「よく似てるって言われますが、その辺にいるただの駄犬です」


そうきっぱりと答えつつも、の背中には嫌な汗がダラダラ流れていた。

タマは、が父と共にプラントに帰る時に一緒に連れてきた地球生まれの狼だ。

流石にそんな危険生物をすんなりとプラントにお持ち帰りなどできるはずもなく、表向きは『犬』として通してきた。

ちなみに父は、ライオンか虎かダチョウをお持ち帰りしたいと駄々をこねたが、即却下されたらしい。

狼をお持ち帰りなんて、まだまだ可愛い方だ。


「……そうか」


元々狼なんて見た事も無いプラント育ちのイザークは、の言葉だけですんなりと納得した。

まぁ、たとえ地球出身であろうとも、狼なんて見たことも無い人が大半だろうが。


「そうそう、こんなとこに狼なんているわけないじゃん」

「そうですよ。イザークの考え過ぎです」


タマやラッシーを撫でながら、ディアッカとニコルが暢気に加勢する。

知らぬが仏とは、この事だろう。


「……ん?」


ふとの目に映ったのは、草むらに落ちている黒光りする塊。

何だろうと近くによってよく見てみると、どこかで見た間抜けな顔…。

先程とラスティの顔スレスレに飛んでった、あのペットロボット(らしきモノ)だ。


「ハロじゃないか!」


アスランがそのペットロボット(らしきモノ)を躊躇うことなく抱き上げる。

『ハロ』と呼ばれたペットロボット(らしきモノ)は、間抜けな声を発する事も無く、大人しくしていた。

いや、大人しいと言うよりは、電池切れなのか、すでに生きている気配が無い。


「それ、ハロっていうんですか?」

「ああ。こんな所にいたのか……」


アスランが心底ほっとしたように呟く。

先程『自作ペットロボの試運転』と言っていたが、このハロがどうやら試運転の対象らしい。


「それ、アスランが作ったの?」

「ああ」

「……あ、それっ!」


アスランとのやり取りに気付いた面々が、集まって来た。


「見つかったんですか?」

「へ〜、アスランが作ったんだー」

「アスラン、貴様が元凶かっ…!」


ハロに気付いたイザークが、アスランに詰め寄る。

すっかり忘れていたが、彼はこの黒い物体を追いかけてここまで来たのだ。

後頭部に激突された時の痛みが、イザークの脳裏に蘇る。


「よくも俺をキズモノにしてくれたな〜!」


何やら誤解されそうな事を大声で叫びながらアスランに飛び掛ろうとするイザークを、ディアッカは必死で止めた。

ここは公共の場、ちびっ子達の楽園である公園。

軍に入る前にブタ箱に入るハメになったら、笑うに笑えない。

イジメはロッカールームか、放課後の裏庭でやりましょう。


「それにしても……壊れたのかな?」


まだまだ電池切れからは程遠いはずなのに、さっきからピクリともしないハロを不審に思ったアスランは、ハロに異常が無いか確認した。

黒いから解からなかったが、新品だったはずのハロをよく見れば、何故だかボロボロだ。

ひときわ酷い箇所は、穴まで開いている。

まるで大きな獣か何かにでも噛まれたような歯形まで、所々にくっきりと……


「タマちゃん?」

「わう?」

「お前かーーー!」

「ギャインギャイン…!」


そういえば、タマがこっちに駆け寄ってくる時になにか黒い物体を咥えていた気が…したようなしないような。

ハロに多大なる興味を示していた愛犬たちだ。

多分、脱走目的もハロを追いかけるためだったのだろう。

タマに充分な制裁を与えながら、そうはそう結論付けた。


「ご、ごめんねアスラン!うちのバカ犬が……」

「い、いやいいよ!大丈夫、全然気にしてないから!!それより早く手を離した方がっ……」


アスランは青くなりつつもを止めた。

すでにキュウキュウ言っているタマに、これ以上叱るのも可哀想だ。

むしろこれ以上は、本当に動物虐待になってしまう。


「本当にごめんっ!」

「いいよ。ハロなんていくらでも作れるし」


不安そうな顔をして、上目遣いにこちらを伺うに、苦笑しながらアスランは応えた。

実際飛行タイプでないハロは、彼の婚約者の屋敷にて日々増殖されているのだ。

これくらい、どうってことない。


「じゃ、一件落着ってことで…折角だから遊ぼうぜ!」


嬉々としたラスティの提案に、皆思わず顔を合わせる。


「遊ぶったって……何でだよ?」


ここは公園。若者達の好む店も何も無い。

あるのは遊具やだだっ広い野原とその他の施設だけだ。


「だから、たまには童心に戻ってみるのも良いんじゃない?」


鬼ごっことか、かくれんぼとかさ〜。

今よりも若かりし頃、誰もがやったであろうお遊びを並べ立てるラスティ。

すでに童心に戻りつつあるのか、瞳がキラキラと眩しいくらいに輝いている。


「面白そうですねv」

「ま、たまにはイイかもな〜」

がやるなら、僕もやりますv」

「じゃあ、俺も……」

「ワン!」

「ワンッ!」


ディアッカやが賛成し、ニコルやアスラン…それに犬2匹も食い付いた。


「ふん、くだらん」


予想通りというか何というか…コケシことイザークは、絶対やらねぇというオーラを周囲に発しまくっている。

別にハブっても良いのだが、それでは今のほんわか空気がぶち壊しだ。

だが最後の砦、イザークはの一言で片付いた。



「イザークさん、一緒に遊びましょ?」


「………………………………今回だけだぞ」



イザーク・ジュール、あっさり撃沈。






























「は〜、楽しかったぁ……」


結局あの後、日が暮れて真っ暗になるまで夢中になって遊んでしまった。

ドッチボールもといハッロボール(当たるとイタイ)、缶蹴りならぬハロ蹴り(蹴るのがイタイ)など、何故か壊れたハロ大活躍だった。

大人気なくムキになって最期まで真剣勝負の灼熱激闘ゲームを終え、皆ヘロヘロになって先程解散となった。

この燃え尽きた感が、なんとも心地良い…と、無理矢理思い込んでおく。


「でも、結局ミゲル見つかんなかったしな〜」


遊んでる最中もさりげなく目を光らせておいたのだが、残念ながらの目の届く範囲にミゲルの姿は見当たらなかった。

ミゲルの休暇は、今日で終わりだ。

そうなると明日には、宇宙に高飛びできてしまう。

ここで逃したら、こっちも軍のアカデミーにぶち込まれ、多分卒業するまで逢えそうにない。

さてどうするか…と、思考を巡らせた時、タマのリードが急にぐいっと引かれた。


「タ、タマ?」


問い掛けても、強い力でをぐいぐいと引っ張っていくタマ。

尻尾をぶんぶん振り回す後姿は、かなり嬉しそうだ。

これは…………


「ワンッ!」

「……あ」


の視線の先にいたのは、彼女の従兄であり私刑の対象となっているミゲル・アイマンその人。

ミゲルはまだこちらに気づいてないらしく、がさごそと新聞紙とダンボールを駆使して、お家を作っている最中だ。

その見事な世捨て人っぷりに、は一瞬他人のふりをしたくなったが、そういうワケにもいかない。

待ちに待っていた、この瞬間が来たのだ。

それはそれはご機嫌に、にっこりと微笑む

その笑顔を誰か他の人が見たなら、間違いなく見惚れてしまうだろう。

だが、その姿を見たのは、彼女の獲物であるミゲルだけだった。


「タマ、ミゲル捕獲!」

「ワウ!」


今頃の存在に気付いたミゲルが、慌ててダンボールを放り出し逃げようとするが、時すでに遅し。

野生の狼の血を引くタマに当然敵うはずも無く、あっという間に地面に倒された。


「ひぃっ!ゆ、許し……!!!」

「覚悟は出来てんでしょうねぇ?」


ポキペキと指を鳴らす音が、ミゲルの恐怖を更に煽る。

ミゲルの悲鳴は真っ暗になった公園に、低く高く響き渡った。






恐怖と絶望と苦痛に満ちたその声は、遠く離れた彼の弟のもとまで届いた……らしい。















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+++あとがき+++
休暇編、もひとつエピローグっぽいのが付きますが、とりあえずこれにて終了です…!
学園生活編を考える間の繋ぎで書いたハズなのに、ぶっちゃけまだこの先どうするか考えてません(コラ
う〜ん、最近連載はコレばっかだったので、しばらくは他の連載とかに力入れようかと思います。。。
なので、学園生活編は気長にお待ち下さい。
皆様に見捨てられないように、頑張ります…!
……ダメ人間で、本当にごめんなさい;;

それでは、こんな駄文をここまで読んで下さり、ありがとうございました!