〜ブラック×ブラック〜





事の始まりは、婚約者の一言だった。


「ピンクちゃんたちが空を飛んでいる夢を見ましたの」


本当にそうなったら、素晴らしいと思いません?


「……はぁ」


にっこり言われ、ほわんとした空気に感染していたアスランは、ついつい生返事をしてしまう。

ぽかぽかとした陽気は頭の中にまで浸透し、日頃の疲れもあってかすでにアスランは半分夢の世界へと足を踏み入れていた。

目の前にいるピンクの婚約者の話も、先ほどから右から左へと流れている。

「まぁ、ではアスラン!空飛ぶハロを作ってくれますのね?!」

「…………はぁ?!」

ぱっちりと現実世界に引き戻されたアスランは、一瞬何を言われたのか解からなかった。

「ですから、空飛ぶハロを作ってくださるのでしょう?」

「いや、あの、それは」

「作ってくださいますわよね?」

「………………はい」

普段からは考えられないブラックな空気を帯び始めた婚約者に、アスランは大人しく従うしかなかった。

こうしてアスランは婚約者の願いを叶える為、『空飛ぶハロ』の開発に勤しむのであった。













































『空飛ぶハロ』の開発は、思いのほかはかどった。

軍に入る直前の休暇に何をやっているんだという気もしないでもなかったが、これで良いという気持ちの方が強かった。

余計な事を、考えないですむ。

アスランは黙々と、『空飛ぶハロ』を作り上げていった。

だが気軽に作ると言っても、仮にも婚約者に送る代物だ。

しかも、婚約者はプラント一のアイドル、ラクス・クライン。

モノがモノだけに、危険が無いとも言い切れない。

もし『空飛ぶハロ』が彼女に突進して行って、怪我をさせてしまったら……

そんな事になったら、彼女の熱狂的ファン(ラクス様親衛隊)の手によって戦争に行く前に自分の身体が宇宙に浮かぶ事になる…!

万が一の事を考え、出来上がった『空飛ぶハロ(試作品)』を携えて、アスランはテスト飛行をするために、プラントでも有数の自然公園へと足を踏み入れた。











































平日なだけあってか巨大な園内は人もまばらで、アスランの立つ原っぱには全然人がいなかった。

おまけに、天気もすこぶる良好。

絶好の、テスト飛行日和だ。

アスランは自分を落ち着かせるかのように深く深く息を吸い込んだ。

爽やかな風が、気持ち良い。

そして、ちらりと自分の隣にいる人物に目をやり、恐る恐る疑問を投げかけた。

「……なんで、お前がここにいるんだ?」

爽やかな風に揺れている、ふわふわとした文字通りの緑の髪。

「気にしないで下さい」

きっぱりとそう言い切った少年――――アスランの友人であるニコル・アマルフィはにっこりと微笑んだ。

その笑顔に黒いオーラが滲み出ていたような気がするのは、アスランの思い違いでは無いハズ…だ。

ニコルは、アスランがこの公園に入った瞬間にどこからともなく突然現れた。

今日の予定は誰にも教えてなかったのにだ。

気配も無く後ろから声をかけられて、ガラにも無くマジでビビッた。

今でも心臓がドキドキいっていたりする。

「ちょっとお告げがあっただけですから」

誰からの?!

フフフフフ…と、不気味に笑うニコルに、そんなこと訊けるはずもなく、アスランは『試作品・空飛ぶハロ』に意識を向けた。

本日のハロのカラーは、黒。

ラクス風に言えば、ブラックちゃんか。

………元凶は、こいつのせいかもしれない。

自分で作ったモノにもかかわらず、怪しく光るハロに、ついついそんな思いを抱いてしまう。

目標を見失わないようにと目立つブラックカラーにしたのだが、やはりオーソドックスにピンクちゃんかブルーちゃんにしておくべきだったか。

「さぁ、さっさとやっちゃいましょうよ」

ニコルは悶々と思考を巡らせるアスランからブラックちゃんを奪い、ぽちっと起動させる。

「あぁ!ちょっと待て……」

何故か必死なアスランを無視して、そのまま天高くブラックちゃんを放り投げた。

「テヤンデーイ!」

ぎゅんっ

「わっ」

ブラックちゃんは、ニコルの顔スレスレに、猛烈な勢いで何処かへと飛んで行った。

「………まだ、微調整がすんでなかったのに」

「そういう事は早く言って下さいよ!」

言う前に勝手に飛ばしたんじゃないかと目で訴えるアスランを完全無視して、ニコルはブラックちゃんが飛んでいった方へと走った。

あの勢いで誰かに特攻をかけたら、とんでもない事になる。


それに

それに


「あっちの方角にはがいます!」


ブラックちゃんが過ぎ去った南の方角、半径5キロメートル圏内にがいます!

きっぱり言い切ったニコルに、アスランは驚愕する。

「なっ何で解かるんだ?!」

アスランを置いて行く勢いで、ニコルは猛ダッシュでがいるであろう方向へと走って行った。

ニコルが走る方角には、確かに愛狼を引き連れたがいたが、二人はまだ知らない。

ついでにその近くにはラスティ、イザーク、ディアッカもいるのだが、そんな事はニコルの知ったこっちゃない。

よって、その辺の事はニコル内蔵レーダーは見事にスルーしていた。

ブラックちゃんの事も忘れ、最短距離、一直線にの元へと走って行くニコル。

ニコルのシックス・センス、恐るべし。


















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+++あとがき+++
お、お待たせしました…;;
今回、ブラックづくしで何が起こるかちょっと怖かったです。
ラクス嬢は初出場&友情出演です。
そして天然オーラとブラックオーラを使い分ける彼女。
尻に敷かれるアスラン、結構好きかも。
とりあえず、予定通りこぎつけて良かった良かった。
今後予定通りいけば、この話は後1〜2話で終わりです。
……学園生活編まだ何も考えてないんですがね(コラ

それでは、こんな駄文をここまで読んで下さり、ありがとうございました!