〜ベスト・フレンズ〜
傍目にも解かるほど、銀髪のおかっぱ少年、イザーク・ジュールはかなりイラついていた。
それはもう、すれ違う人々まで心底怯えるほどに。
だが、例外もいた。
「おい、待てよイザーク」
早足で道を突き進むイザークの後をついていく色黒少年の名は、ディアッカ・エロ…もとい、エルスマン。
イザークのイライラの、元凶だったりする。
もうすぐ軍のアカデミーに入学する事となるイザークは、しばらく堪能することはできないだろう趣味の民俗学にこの休暇を全て捧げようと決心していた。
だから、早速実家のあるマティウス市から、プラント屈指の図書館のあるプラントにまで来たのだ。
ここの図書館は、巨大な公園の中の施設だけあって人はそれなりに多いが、周りは木々に囲まれていて、静かでゆったりとした時間が常に流れている。
もちろん、本の量も豊富で、数あるプラントの中でもここでしか閲覧することのできない資料も、山ほどある。
そのため、イザークの特にお気に入りの場所だった。
今日も、一日中ここに引き篭もる気満々だったのだ。
お邪魔虫さえいなければ。
「ったく、よく飽きないよな〜」
お邪魔虫ことディアッカ・エルスマンは、目の前の巨大な建物を見て、ぶちぶちとそう呟いた。
この巨大な建物一杯に、本がみっちりと詰まっているのだ。
綺麗なお姉さんの絵が載っている本しか読まないディアッカにしてみたら、文字しかない本なんて、想像するだけで頭痛がする。
そんなディアッカに読書狂であるイザークはイライラするしかない。
だが、ここはすでに図書館の中。
煩くしたら、自分まで締め出しを喰らってしまう。
イザークは、今すぐど突き倒して追い返したい気持ちを懸命に抑えつつ、目当ての本を探した。
ディアッカは、そんなイザークを眺めつつ、盛大なあくびをかます。
彼は『暇だから』という理由で、朝っぱらからイザークの家へ上がりこんで朝食まで食べ、図書館にまで行くというイザークに引っ付いてきたのだ。
イザークが何度怒鳴り散らしても、彼の扱いを熟知したディアッカは平然と受け流し、今に至る。
(エロスマンがっ!!!)
イザークは目からビームが出そうなほどディアッカを睨み付けたが、周囲の人々が怯えただけだった。
「クソクソクソクソクソ〜〜〜!!!」
図書館を出た瞬間、イザークは盛大に叫んだ。
「イザーク、落ち着けって…」
今までの鬱憤を晴らすかのように、後ろから付いて来たディアッカを、ギロリという効果音付きで睨み返したイザーク。
もし小さなお子様が回りにいたら、確実に泣き出していただろう。
いや、大人でも泣き出すかもしれない。
「ディアッカ、貴様のせいだぞっ!!!」
あまりにも理不尽な八つ当たりに、ディアッカは力無く呟いた。
「なんでだよ……」
お目当ての本が貸し出し中だったくらいで自分のせいにされるなんて、大人気無いにもほどがある。
しかも、貸し出し中だったのは、大量にある目当ての本の中のたった一冊だけだ。
他の本はばっちり借りて、全てディアッカに持たせている。
「うぅ、荷物持ちまでしてるってのに……」
「自分から言い出した事だろ」
ディアッカは、追い返そうとするイザークに『荷物持ちでもするから』とか適当な事を言ってここまで付いてきてしまったことを、心底後悔した。
まさか、ここまで分厚い本をこんな大量に容赦無く持たされるとは、思ってもみなかった。
貴重な休みに何やってんだと、泣きたくなってくる。
自分だって、野郎とデートなんて本来なら遠慮したいのだ。
だが、本日のディアッカのラッキーカラーは『銀』
そして、ラッキーアイテムは『コケシ』
これは、一緒にいろという神様のお告げだろう。
きっと、何か、イイ事があるに違いない。
そして、ディアッカはそれを実行した。
イザークに本当の事を言えば殴られそうなので絶対言えない不純な動機だった。
だが、それももう限界に近い。
本が重い。重過ぎるっ…!
腕の感覚が無くなるほど重かったが、『落としたら殺す』という厳重注意をイザークから事前に受けているので、放り投げるわけにもいかない。
「嗚呼、ここにちゃんがいればなぁ…」
ディアッカは現実逃避をするように、青い青いおソラを眺めながら妄想を巡らせた。
白いレースのお洋服に、白い日傘を差した。
あんなに可愛いのだ。
私服も絶対、可愛いに違いない。
そして、オプションとして白い仔犬か仔猫、もしくはうさぎが付いていたりして…。
「「………イイッ!」」
いつの間にかディアッカの妄想に引き込まれたイザークまでもが、ガッツポーズする。
「お、社長さん、あんたもイケる口だね〜」
「う、うるさいっ///」
ディアッカにからかわれたイザークは、真っ赤になりながら必死に反論した。
そこがまた面白くて、ディアッカの悪戯心がくすぐられ、更に追い討ちをかけていく。
「恥ずかしがって、ちゃんに中々話しかけられなかったクセにな〜?」
「ディアッカ、いい加減にしろっ!あれは別にっ……」
恥ずかしさも手伝い、イザークのテンションがまた急激に上がり、ぎゃーぎゃーと弁解する。
ディアッカにしか意識を向けていなかったから、イザークは気付かなかった。
背後に近づく、黒い影に。
「ハロハロ〜」
ごいんっ!!!
黒い物体は、間抜けな音声と共に、イザークの後頭部に物凄い勢いで突っ込んだ。
「おい、大丈夫かよ?!」
その場にくず折れたイザークに、ディアッカが慌てて声をかける。
「……い…たい…痛いっ…!」
後頭部に手を当ててもんどりうつイザーク。
やはり、相当痛かったらしい。
「ハロ、ゲンキ!オマエ、ゲンキカ?」
「元気じゃねえよっ!!!」
丸くて間抜けな外見をした黒い物体の言葉に、イザークは痛みも忘れて突っ込んだ。
かなり、哀れな姿だ。
「ハロ!」
黒い物体は、今度はディアッカの頭スレスレを飛んでいき、茂みの中へと消えて行った。
「わっ」
ディアッカは、慌てて避けてなんとか難を逃れる。
一体アレは、何だったのだろう…。
「………………か」
「…イ、イザーク?」
ゆらりと立ち上がったイザークに、ディアッカは恐る恐る訊ねた。
オーラが、物凄い色をしているのは、気のせいだろうか…。
「この俺をおちょくるとは、イイ度胸じゃないかっ!!!」
ぐわっと物体の消えていった方向へ顔を向けたイザークは、猛ダッシュで物体を追いかけて行った。
「待ちやがれえぇぇっ!!!!」
走る大魔神と化したイザークは、瞬く間にディアッカの視界から消えた。
ディアッカをおいて。
「俺をおいて行くなよ……」
ディアッカの声が、青い青いおソラに虚しく響いた。
back/next
+++あとがき+++
ディ、ディアイザじゃありませんよ?(何
ヒロインが出てこないからこんな事になるんですね、ごめんなさい。
でも、異様に楽しかったです…!(コラ
次はいよいよ、黒ハロの親玉が登場(予定)です。
またしても、ヒロイン出てきません;;
宜しければ、お付き合い下さい。。。
それでは、こんな駄文をここまで読んで下さり、ありがとうございました!