〜めぐり遭い、ソラ〜
は目の前に広がる景色に、眩暈を覚えた。
「………タマちゃん?」
本当に、ここにミゲルがいるんですか?
「ワウv」
の問いにハートマーク付きで応えた愛犬は、嬉しそうにブンブンと尻尾を振り回している。
これはアレだ。
ココに来た時の症状だ。
タマは興奮気味にぐいぐい綱を引っ張ってを先導してくれているが、果たしてミゲルの潜伏場所にたどり着けるのか、甚だ怪しい。
この地に足を踏み入れた瞬間から『遊んでくれ』と、愛犬のつぶらなお目目が懸命にに訴えているのだから。
は思わず天を仰いだ。
子供たちの楽しそうなはしゃいだ声がうざい位にそこかしこから響いていた。
周りは家族連れでそれなりに賑わっている。
ミゲル宅から徒歩約15分。
タマに連れられてやって来た場所は、いつものお散歩コースの公園だった。
「…まぁ、いる可能性は、あるっちゃあるんだけどねぇ?」
近所の公園と一言で言っても、ここは数あるプラントの中でも3つ指くらいに入るほど巨大な自然公園だ。
プラントだから、自然じゃないような気もするが、一応人々には『自然公園』と呼ばれている。
園内には様々な施設があり、それを目当てに他のプラントからわざわざ訪れるという人も、少なくない。
は逃亡中の従兄を思い浮かべた。
奴は、財布を忘れて所持金ゼロ。
どこか園内の無料施設に逃げ込んでる可能性もある。
だが…
(そんな家出した幼年学校生みたいなこと、するか?)
近所の公園に家出なんて、かなり間抜けで幼稚だ。
しかも、しょぼい。
むしろ、しょっぱい。
とても成人したコーディネイターの家出先だとは、思えない。
それに加えて、愛犬…いや、愛狼の態度。
先ほどからミゲル捜索の任務も忘れて、遊びに夢中だ。
自分が遊びたいがために、ここに主人を連れて来たとしか思えなかった。
「タマ…狼の威厳は何処に行った」
そもそも『タマ』なんて威厳のかけらも無い名前を付けた事自体が間違いだったのかもしれない。
だが、当時は猫が欲しかったのだ。
そんな飼主の勝手な理由で、にゃんこな名前になってしまった哀れな犬狼は、現在黄色い蝶々と追いかけっこをして戯れていた。
頭は悪くないのだ。
躾は一応ちゃんとできているし、こっちの言っている事も大体解かっているのだから。
ただ、性格が馬鹿なだけだ。
ちなみに、タマの親や兄弟には、もっとちゃんと立派な名前がついていて、狼らしく誇り高く生きている。
「…………やっぱ、名前か」
結局はそうさっさと結論付けた。
決して『飼主に似た』とは思わないだった。
「さて、どうするかな〜?」
とりあえず捜してみるにしても、広大な園内のどこから手をつけたら良いのか解からない。
頼りの愛狼も、あてにならないし…。
はその辺のベンチに腰を下ろして、愛狼を観察しながら思考を巡らせた。
タマが蝶々を喰うのも、時間の問題だろう。
と、
「ワン!」
「うぇ?」
突然、近くの茂みから見慣れない茶色い物体が飛び出してきた。
飛び出してきた茶色い物体…いや、茶色いワンコと目が合った。
ワンコは、尻尾を振ってを見ている。
もじっと見つめる。
よく見ると、ワンコの口にはオレンジ色のゴムボールが咥えられていた。
とことことに寄って来たワンコは、に自分の持っていたボールを渡した。
「いや、飼主に渡してよ…」
投げてくれるなら誰でも良いのか…。
明らかに先ほどまで飼主と一緒に遊んでいたであろうワンコは、次のターゲットをに定めたようだ。
尻尾を振って、がボールを投げてくれるのを待っている。
たちに気付いて猛ダッシュで駆け寄ってきたタマが、ワンコを嗅ぎ回す。
ワンコも懐っこくタマの匂いを嗅いで、色々と情報交換を楽しんでいるようだ。
2匹が友好的に接しているのを多少ほっとして眺めながら、不意にある考えが浮かんだ。
まさか、こいつのご主人も捜さなきゃいけないんじゃあ…?
ワンコのこの態度からして、充分ありえる話だ。
首輪もしているし、捨て犬じゃないことは確かだが…
は深々とため息を吐いた。
とりあえず、ワンコをよく観察してみる。
茶色いワンコと言っても、腹の部分は白い。
ワンコの犬種はアレだ、あの名犬……
「ラッシー!」
ワンコが飛び出して来た茂みから、男の人の声がした。
ガサガサと、茂みが揺れて、人が出てくる音がする。
どうやら、飼主が捜しに来たようだ。
「すみません、うちの犬が……」
「いえ…」
はほっとして茂みの方を振り返った。
「「あれ?」」
思わず声がハモってしまった。
「「なんでここにいるの?」」
またしても、見事にハモる。
はワンコの飼主をまじまじと見つめた。
この目立つオレンジの髪は、間違いない。
数日前にアカデミーで出逢った少年、ラスティ・マッケンジーだった。
「なんていうか…奇遇だねぇ」
「ですねぇ」
二人は現在、愛犬たちがじゃれ合っているのを眺めながら、のんびりとベンチに腰掛けていた。
は手に持っていたオレンジジュースをごくっと飲んだ。
またしても、『飼い犬が迷惑かけたお詫び』ということで、ラスティの奢りだったりする。
「ラスティって、この辺が近所なんですか?」
「うんにゃ、二つ向こうのプラントだから、近所ではないよ。ちゃんは?」
「ここの地元住民です」
「うわっ、羨ましい〜!」
ラスティは、心底羨ましそうにを見つめた。
「この辺って、愛犬家の憧れの地じゃん」
「はぁ…」
地元プラント内でのちょっとした散歩で、愛犬を満足させられる事ができるのだ。
ちなみにこのプラントは、愛犬家のみならず、園内の施設に遠くから日参している人々の憧れの土地でもある。
地元だからといって、全ての施設を有効利用しているというものでもないが、それでも羨ましがられるのは世の常だ。
「ねぇ、じゃあさ、この辺の穴場の店とかって知ってる?」
「そうですねぇ、う〜んと……」
二人はアカデミーでの時のように、のんびりと世間話を始めた。
本来の目的など、すっかり忘れている。
実のある話に、ついつい夢中になって話し込んでしまう。
「……ん?あいつら、何騒いでんだ??」
ふとラスティは、自分の愛犬たちの方を見た。
先ほどからワンワン吼えていて、かなり五月蝿い。
これは、他の利用者の方たちに迷惑だ。
「おい、少し静かに…って」
ラスティは、近づいて注意しようと立ち上がったが、何故か固まってしまう。
不審に思ってラスティの後ろから、ひょいと覗き込んだも、固まった。
愛犬たちは、黒光りしているまん丸の物体を小突き回していた。
見るからにつるつるの物体は、生物じゃない。
っていうか、明らかに怪しげな気を発している。
「「そんなモノ触るんじゃありませんっ!!!」」
我に返ったたちは、愛犬の首根っこを引っ掴んで、その物体から引き剥がした。
愛犬たちが抗議の声を上げても、徹底的に無視をする。
「………なんだろう、コレ」
二人は丸い物体を覗き込んだ。
丸い物体は小刻みに震えて、微かに機械音まで発している。
「…………爆弾、とか?」
「まっさかぁ」
ラスティの言葉に、明るく否定してみるが、絶対違うとは言い切れないのが悲しい。
「でも、ブルーコスモスのテロって可能性も…」
「怖いこと言わないでよっ!」
つい最近、プラント1つぶっ飛んだのだ。
あまりにもタイムリーで、よけいに恐怖が募る。
ブルッ
「「ぎゃあっ」」
突然物体がぎゅるっと回転して、思わずたちの口から悲鳴が出た。
「ハロ!」
「「………は?」」
丸い物体から発せられた間抜けな機械音声に、緊張感が一気に削がれる。
よく見ると、丸い物体には顔らしきものがあった。
「何コレ」
「…変なの」
「オマエモナ」
言葉が解かるとは到底思えないが、ペットロボットらしき物体は、耳をパタパタさせながらたちの会話に参加した。
異様にムカツクのは、何故だろう。
「ミトメタクナイ!ミトメタクナイ!」
「いや、それこっちの台詞だから」
ラスティの突っ込みに、も大いに頷いた。
こんな間抜けなペットロボット(らしきモノ)にビビってたなんて、自分が情けない。
「テヤンデイ!」
「「?!」」
突然ペットロボット(らしきモノ)は、ビュンという空気音付きでとラスティの頬スレスレを飛び去って行った。
「あ、危なかった〜」
あれは、当たってたらかなり痛い事になっていたんじゃなかろうか。
ドドドドドドドドド………
ペットロボットとは反対の方向から、何やら地響きらしきものが聞こえてきた。
それと同時に、地響きの原因であろう人物の声もぎゃーぎゃー聞こえてくる。
なんだか聞き覚えがある気がする声なのは、気のせいだろうか…。
ガサガサと茂みが揺れ、物凄い勢いで人が飛び出して来た。
「待ちやがれえぇっ!!!」
「「あ」」
やっぱり?
銀のオカッパが、キラキラと光に反射して目に眩しい。
案の定、大音量のシャウトと共に茂みから飛び出してきたのは、コケシこと、イザーク・ジュールだった。
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+++あとがき+++
ソラでも無いのにめぐり遭ってるのは、プラント(宇宙)だからです。
もしくはお空の下ってことで…!
タイトル考えるの毎回悩みます;;
やっと色々出てきました。
なんか、本当に色々と飛び出て来てますが、お気になさらず(笑)
またしてもワンコ登場です。
しかもラスティの飼い犬…犬になり隊
捻りの無い名前と犬種で申し訳ゴメンナサイ;;
名犬ラッシーの犬種って、何でしたっけ?
確か、コリーだったかコーギーだったか(曖昧
姿だけは思い浮かぶんですけど…。
ハロのカラーは、黒です。ブラックちゃんです。
なんか、凄いイヤな響きだ…!
こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!