はむ☆すたー
「………イザーク?」
「なんだディアッカ」
ディアッカは目の前の光景を見て驚いた。
ガモフの食堂。いつも通りの朝の風景。
のはずが
いつもとはありえない人物が、イザークの隣の席に座っていた。
「あ、ディアッカさん、おはようございます」
のん気にディアッカに挨拶をするのは、・。
昨日までイザークが心の底から嫌っていた少女である。
「本当に、どうしちゃったの?」
ディアッカは、イザークたちの目の前の席に腰を下ろしながら、再度問いかけた。
昨日までイザークはのことを、それはもう忌々しげに『イライラする』と言ってことあるごとにイジメていたのに。
そんな彼が、大嫌いな少女を隣の席に座らせるなんてありえない。
だがイザークは
「なにがだ?」
と、不思議そうに逆に訊いてきた。
しかも、隣の席に座っているに
「ほら、こぼすな」
と、の頬に付いてしまったケチャップを自らの手で拭い、かいがいしく世話を焼く始末。
周りを見渡せば、日頃を可愛がっている整備士たちが、はらはらしながらこちらを見ている。
他の兵たちは、現実の事として受け止められないのか、見て見ぬフリをしていて、天変地異の前触れかもしれないと、神に祈っているものまでいた。
それほどまでに異様な光景だった。
はといえば、いきなり一変したイザークの態度に多少は戸惑いながらも、いつものぽややんっぷりで、さして疑問を感じることも無く受け流していた。
(一体、何があったんだ?????!!!!!)
周囲の動揺もよそに、本人たちはいたって平和な空気を振り撒いていた。
「ちょっと待てって、イザーク!」
食事を終え、さっさと食堂を立ち去ろうとするイザークをディアッカは呼び止めた。
すでに食堂には、彼ら二人しか残されていなかった。
も他の兵たちも、自分の仕事場に行っている。
「なんだ?」
イザークは足を止め、ディアッカの方に体を向けた。
「『なんだ?』じゃないっての!どうしちゃったんだよ?!」
喰ってかかるような勢いのディアッカに、イザークは何を言ってるのか解からないという顔で、ディアッカをいぶかしげに見詰めた。
「ちゃんだよ!昨日まではあんなにイジメてたのに!!」
「だから、虐めてなどいない!!!」
イザークは否定したが、あれは絶対イジメていたと、ディアッカは思った。
「じゃ、なんだって急に態度変えたの」
あんなに嫌ってたのにと言うディアッカに、イザークはなぜか口ごもる。
「あいつはっ………」
「あいつは?」
「あいつはドジでノロマなハムスターなんだ!!!」
「……………………は?」
ディアッカは、自分の耳を疑った。
(ハムスターが…何だって?)
確かには、小動物のような可愛らしさだが……。
対するイザークは、大真面目な顔をしている。
本気で言っているらしかった。
「………何故に、ハムスター?」
「昔飼おうとしたジャンガリアンハムスターに、瓜二つだ」
「さようで……」
堂々と言い切るイザークに気の無い返事を返しながら、ディアッカは思った。
とうとうイザークがぶっ壊れた。
前からをイジメている時は壊れ気味なイザークだったが、とうとう本格的に壊れてしまった。
(っていうか、現実逃避しだしたな…)
流石に今までのことを反省して、反省しすぎて『はハムスター』という自己暗示をかけたのかもしれない。
もしくは、あんなに嫌っていたを急に可愛く感じ、イザークのあの性格では、何か理由付けしなければやってられなかった、とか。
かなり真実に近いことを予想したディアッカは、それ以上追求することも無く、イザークを残して食堂を後にした。
何だか拍子抜けだ。
これからのことを楽しみにしていた昨日の自分は何だったのだろう…。
まぁ、今考えれば、周囲の反応はかなり面白かったが。
(後の楽しみは、イザークvs整備士&その他一般兵たちかな…)
を実の娘や妹のように可愛がっている整備したちは、ことあるごとに邪魔をしてくれることだろう。
がイジメられてても、イザークが恐くてそっと見守るしかできないようなへタレ揃いのため、あまり期待できないが。
だが父親が娘を嫁に出す時のあの異様な抵抗くらいは、してくれる…はず。
っていうか、してくれ。
「もっと強敵が出てくれれば、さらに面白いんだけどなぁ…」
不謹慎なことを考えながら、ディアッカは自分の仕事に向かった。
(………そんなに変か?)
イザークは、のいるMSデッキに向かいながら、周りの反応を思い出していた。
イザークとしては、またの頬をプニプニしたり、髪を撫でたかっただけなのだが…。
ああも大袈裟に反応されると何だか面白くない。
確かに今までに対してはあまり良い感情を持っていなかったが、あれもハムスターだと思えば可愛いと思えるようになったのだ。
そう。ハムスターと思えばケチャップを頬に付けていても笑って許せる。
昨日までの自分だったら確実に殴りつけていただろう。
その辺、褒めてもらいたいものだとイザークは思った。
大変、自己中心的かつオレ様な考えである。
MSデッキに着き、イザークはの姿を捜した。
いた。相変わらず危なっかしい動きをしている。
「おい、…………!」
を呼び止めようとしたが、その前に別の声がの元に届いた。
その声に気付いたが、そちらに顔を向ける。
最初きょとんとしていたの顔が、声の主と2〜3言葉を交わすと、みるみる変わっていった。
元々大きなの瞳が、零れ落ちそうなほどさらに大きく見開かれる。
驚いた表情をしていたの顔が、みるみるうちに笑顔になっていく。
イザークも見たことが無い、心底嬉しそうな笑顔。
そしては、声の主に抱きついた。
声の主もそんなを嬉しそうに抱きとめている。
(何だ………?)
イザークはそんなの姿を見て、かなり面白くなかった。
自分には一度として向けたことの無い笑顔。
気に入らない。
なぜか、そう思った。
あのイライラが、またイザークの中を駆け巡る。
気に入らないっ!
の態度も気に入らなかったが、何よりと抱き合っている相手も気に入らなかった。
声の主は、緑の髪にイザークと同じ深紅の軍服を着た、ニコル・アマルフィだった。
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+++あとがき+++
前サイトの遺物。
ディアッカ…出張り過ぎ…。
ココまで読んで下さり、ありがとうございました。