ふれんど
「…………おい」
イザークは、いまだに抱き合っている二人に声をかけた。
「あ、イザークさん」
がやっとイザークに気付いた。
の顔を見て、イザークはまたイラついた。
食堂では、全然感じなかったイラつき。
それが、ニコルと嬉しそうに話すを見て、一気にイザークの中で湧き上がった。
自分でも原因の解からないイラつきに、イザークは顔を顰める。
「あのっ、あのですね、イザークさん…」
が嬉しそうにイザークに話しかける。
「うるさい」
イザークはそう言って、の言葉を遮った。
どうせニコルの事だろう。
イザークは、なぜかの口からニコルの事は聞きたくないと思った。
ついでとばかりに手を取り合っている二人をべりっという効果音付きで引き離す。
「さっさとデュエルの整備をしろ」
イザークはの首根っこを引っ掴むと、デュエルがある方向へ力一杯を放り投げた。
「うえぇええぇぇぇ??!!」
無重力ということもあり、は勢い良く飛んで行った。
「!!」
ニコルが心配してデッキから身を乗り出したが、は近くの整備士たちに慌てて受け止められ、なんとか無事だった。
「イザーク!何てことするんですか?!」
ニコルが抗議の声を上げたが、イザークはそっぽを向いて完全無視を決め込んだ。
そんなイザークに、ニコルは溜息を吐いた。
「ーーー!また後で!!」
ニコルがに向かってそう叫ぶと「は〜い」と手を振りながら、嬉しそうにがそれに答えた。
そんな二人に、イザークはまたもイラついた。
何でそんなに親しいのか気にはなったが、イザークは決してそれを口にすることはなかった。
(誰がこんな奴に訊くもんかっ!!!)
イザークがニコルを睨み付けると、ニコルはにっこりと微笑みを返してきた。
「イザーク、覚えてて下さいね?」
背中に暗黒のオーラを纏ったその笑顔は、に向けたモノとは180度違っていた。
イザークの背筋に冷たいモノが流れたが、なんとか踏み止まる。
(こんなことで、負けるもんかっ!)
何に負けるのかも解からなかったが、イザークはそう思うことで、自分に勇気を持たせていた。
実に、何に対しても対抗意識の強いイザークらしかった。
「へぇ〜、幼年学校が一緒だったんだ」
「そうなんですよ。前からちょっと似てるなぁと思ってたんですけど、今日声かけたらやっぱり本人で……」
昼休みの食堂。
ディアッカはとニコルに捕まり、事の顛末を強制的に聞かされていた。
誰かに話したくてしょうがなかったのだろう。
もニコルの言葉に、力一杯頷いた。
「いきなりニコルくんに声かけられて、すっごいびっくりしました」
「それはこっちの台詞ですよ。まさか、がこんな所にいるなんて……」
ぽややん娘のが軍にいるなんて、想像もできなかったに違いない。
ディアッカは、の左隣に陣取っているイザークにちらりと目を向ける。
イザークは、仲の良い二人にすっかりハブられ、不機嫌顔で二人の会話を聞いていた。
「そういえば、なんだってちゃんは軍に入ったんだ?」
ディアッカは、かねてからの疑問を口にした。
こんなほんわか空気を放っている子が軍にいるなんて、かなり意外だった。
「えっと、両親に『お前は無重力じゃないと生きられそうに無いから』って言われて……」
強制的に入れられたんです。
本人はえへへと笑っているが、笑い事じゃない内容だ。
だが、これまたの右隣に陣取っていたニコルはポンと手を打って
「ああ、なるほど」
と、妙に納得していた。
「昔から、階段から落ちたり、何も無い所で転んだりして、よく怪我してましたもんね」
階段から転げ落ちるの姿は、容易に想像できた。
「『コーディネイターじゃなかったら、首の骨折って死んでる』って、何度もお医者様に言われました〜」
「………よく、今まで生きてこれたな」
確かに、それなら強制的に軍にも入れられるだろう。
今まで生きてこれたのは、奇跡と言っても良いかもしれない。
「!時間だぞ〜!!」
「は〜い。それじゃあ、私はもう行きますね」
先輩の整備士に呼ばれ、は食堂を後にした。
「、頑張って下さいね〜」
地球軍が攻めてこない限り暇なパイロットたちは、そのまま残る。
「それにしても、まさかニコルとちゃんが知り合いだったなんて、世の中狭いもんだね〜」
「ですよね。幼年学校と言っても、10歳位でが転校して離れてしまって、もう逢えないと思ってましたから」
「へぇ。そうだったんだ」
ふむふむと、ディアッカが頷く。
同じクラスで席まで隣同士だった二人は、かなり仲が良かったらしい。
「で、ちゃんって昔からあんなカンジだったの?」
「はい。今より酷いかもしれませんね〜」
本人がいないのを良い事に、ニコルは笑顔で辛口の評価を下した。
「やっぱ、イジメられたり?」
ディアッカは、ニヤニヤとイザークを見ながら問いかけた。
(なぜオレを見ながら言うんだっ!!!)
突っ込みたかったが、ニコルたちの醸し出す場の空気がそれを許さない。
ニコルも、イザークをちらちら見ながら言葉を返す。
「本人気付いてませんでしたけどね…」
はたから見れば、イジメに近い事をされていたそうだ。
「まぁ、そういう人たちはすぐに態度を改めさせましたけど」
「……ナニやったんだ?」
ニコルは、にっこりと微笑んだ。
「知りたいですか?」
「いや、やっぱいいっ!」
何やら黒いモノを感じ、ディアッカは力一杯遠慮した。
絶対に、知りたくない!
「そういえば、イザーク……」
ニコルが、何かを思い出したかのように、先程まで完全にハブっていたイザークに声をかけた。
「さっきのアレ、覚えてて下さいね?」
そう言ったニコルの顔は、微笑んでいたが底冷えするほど冷たいモノだった。
顔は笑っていても、目が笑っていない。
まだ先程をブン投げた事を根に持っているらしい。
イザークは、先程より数倍も強烈な悪寒が全身を駆け巡ったが、堪える他無かった。
その晩、ディアッカは奇妙な呻き声に起こされた。
「…うぅっ……いた…い、痛……いぃ〜〜〜…」
同室のイザークが、脂汗をかいてベッドでうんうん唸っていた。
「イザーク、どうした?どこが痛いんだ?!」
イザークに声をかけて、揺すってみるが、イザークは一向に起きない。
「……うっ、このっ…ダチョウごときが〜〜〜!」
「ダチョウがどうしたんだっ?!」
ワケが解からない。
「このっ、腰抜けが〜〜〜!!!!」
さらに解からない。
ディアッカは、さらに意味不明な事を口走るイザークを放って、また自分のベッドに戻った。
アレは、ただ単に夢にうなされているだけだ。
夢の内容は気になるが、心配するだけ損をする。
ディアッカはまた眠ろうとベッドに横になったが、イザークの唸り声がうるさくて、結局眠れなかった。
次の朝、夢の内容をイザークに問いただしたが『覚えてないっ!』の一点張りで通された。
ディアッカにでさえ、言えないような悪夢だったのだろう。
心なし、やつれているような気がする。
そしてその悪夢は、三日三晩続き、イザークを苦しめる事となる。
ついでに、原因不明の悪夢にうなされているイザークの声でディアッカも眠れぬ夜を過ごすのだった。
とばっちりを受けたディアッカだが、今まで散々イザークとで遊んでいたのだから、罰が当たったと言えなくも無かった。
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+++あとがき+++
前サイトの遺物。
ココまで読んで下さりありがとうございました。
まだまだ続きますが、どうか見捨てずお付き合い下さい;;