「イザークさぁ、なんでちゃんイジメんの?」


と別れた後、ディアッカがそう訊いてきた。

「虐めてなどいないっ!」

イザークはすぐに否定した。

別に虐める気なんてない。

すべてあいつが悪いのだ。

そう、あいつがオレやデュエルにぶつからなければ、こっちも完全にその存在を忘れられるのだ。

だが奴は毎回毎回狙ってんじゃないかと思うほど激突してくる。

おまけにあの緊張感の無い顔。

思い出しただけでイライラする。

だからつい手が出てしまうのだ。




それを世間一般的に『イジメ』と言うのだが、ディアッカはあえて突っ込まないでいた。

イザークが恐いから。

「別に俺は楽しいから良いんだけどね〜、周りがなぁ…」

日頃を実の娘や妹のように可愛がっている同僚たちは、が虐められている姿を見ては心を痛めていた。

実際、イザークを止めてくれとディアッカに泣きついてきた整備士もいる。

小動物のような愛くるしさのあるは、この艦内では密かに癒し系アイドル(?!)としてかなりの人気があった。


そう、は可愛い。


パッチリとした大きな瞳に、ほんわかとした空気。


軍には似つかわしくないその暖かい笑顔に、兵士や整備士たちは心が和むのだ。


少し…いや、かなり天然ぽややんな所も、の可愛らしさを引き立てる。


それが、イザークにとってはすべてイライラの元になっていた。

確かに、軍には規格外な緊張感の無さがあるが―――

ちゃん見て可愛いとか、護ってやりたいとか思わないの?」

「あいつが可愛いだぁ?思わん。んなワケあるか

イザークはすぐさま完全否定した。

男としておかしいんじゃないかとディアッカは思ったが、あることを思いつき、そうでもないと思い直す。

(イザークのは多分アレだ。アレ)

好きなコほどイジメたいってヤツだ。

こういうことは、なんとなくカンで解かってしまうディアッカだった。

しかも、イザークはこの事を全然自覚していない。


自然とディアッカの顔がにやける。

「……なんだ?ディアッカ」

「ああ、なんでもない。じゃあなイザーク。あんまちゃんイジメんなよ」

ディアッカはとっととイザークから離れた。








何やら面白いことになってきた。

に対する想いを自覚した後のイザークの姿が楽しみだ。

きっと、絶対、面白いモノが見られるハズ。

この分だと、意外に恋愛ごとには鈍いイザークが自覚するのは、まだまだ先の事だろう。

そしてその後、今まで虐めてきた代償として、イザークはあの天然ぽややん娘に散々振り回されるのだ。

なにせあのなのだ。天然ぽややんな上に激ニブ娘の。

恋愛ごとに関してはとことん鈍いイザークよりも、輪をかけて鈍いのだ。

しかも、周りの男どもには可愛がられ、大人気だ。

見るからに独占欲が強そうなイザークが黙っているハズがない。

今まで以上に壊れてくれるだろう。

(ま、今はこの状況を楽しみますか…)

今は今で二人のやりとりが面白い。

(いざとなったら、けしかけてやれば良いんだし)


とりあえず今は、飽きるまで傍観していよう。




そう自分勝手な事を考えるディアッカだった。







































イザークは先ほどの、ディアッカとの会話を思い出していた。

ちゃん見て可愛いとか、護ってやりたいとか思わないの?』

思わない。思うワケが無い。


だが―――

の姿を思い出してみる。


健康的な色をした象牙色の肌。


フワフワと宙を漂う、少しクセのある灰色がかった黒髪。


黒目がちな大きな漆黒の瞳。


ピンク色のふっくらとした唇。


間の抜けた笑顔さえ見せなければ、まあ見れた顔だとは思う。


だが、イザークがイラつくのは顔では無い。

あの間の抜けた動きだ。

わたわたもたもた動く姿を思い返したイザークは、何かが引っ掛かった。

何かに似ている。

そう思った。

だがその何かが解からない。

しばらく立ち止まって考えてみるがやはり思い出せない。

「………くそっ、なんなんだっ」

思い出せないと余計に気になる。

そして、すっきりしない気分のまま声をかけられた。

「イザークさーん!」

通路の奥からが駆け寄ってくる。

「あの、再度OSのチェックをお願いしま……すうぅう?!

案の定、バランスを崩してイザークに突っ込んできた。

今回は予想していた事なので、イザークもを受け止めてやる。

「ったく、気を付けろっ!!!」

「すっすいません…」

が上目遣いにイザークを見つめる。

そんなを見て、イザークは先ほどの疑問がストンと解決した。



解かった。



アレだ。アレに似てるんだ。









昔飼ってた猫























殺されそうになった友人宅のハムスター。







わたわたもたもた動いている姿は瓜二つと言っても良いほどだった。

そう、あれは確か友人の家のハムスターに子供が生まれ、一匹イザークに譲ってもらえるということで、家に来たのだ。

だが当時飼っていた猫の良いオモチャにされて、弄り殺されそうになったのだ。

半殺しになる寸前でなんとか止めたが、流石にすぐに友人に返してきた。

あの時のハムスターは、子供心に本当に可愛いと思った。

それが人間版になるとこうもイラつく存在になるとは―――



「………あの、イザークさ…ん?」

じっと見つめられているのが落ち着かないのか、が不安気にイザークに声をかける。


ぷにっ


「?!……あ…の???」


イザークはの頬をつまんでいた。

いつもの容赦の無い力とは違い、驚くほど優しい力で―――


の頬はやわらかくて適度に弾力があり、触り心地が良かった。


次にの頭を撫でてみる。

「!!!!????」

少しクセのあるやわらかい髪はやはり触り心地が良くて

昔家に来たハムスターと、毛並みの色まで似ている。




ああ、これなら

可愛いかも…しれない。




そう、何も人間として見なくても良いのだ。










こいつはジャンガリアンハムスターだ!!










そう思い込むことで、イザークのに対する心象が、どんどん変わっていく。

動きがとろいのも緊張感が無い顔も何もかも生まれつきだ。

そう、ハムスターに緊張感など求めても無駄だ。

そう思えば思うほど、ここ数日のストレスが、スッと引いていく。


数分後、自分でも驚くほど、に感じていたイラつきがすべて消えていた。








この日を境に、イザークのへの態度が少しずつ改善されていった。



















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+++あとがき+++
前サイトの遺物。
でも本当にこんなモノ、夢と言って宜しいんでしょうか(大汗

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。