「二人とも、いらっしゃい」 「お、お邪魔します」 出迎えてくれた従姉のちゃんに、手土産のお菓子を渡す。 「わざわざ、ありあがとう。じゃあ、コレは今日のデザートにしましょうね」 そう言って、リビングへと案内するちゃん。 『』から『』へと姓が変わった彼女は、とても綺麗だ。 元から綺麗だったのだが、結婚してから幸せで益々綺麗になったような気がする従姉に、こっちまで幸せになってしまう。 「昌士さん、今キッチンで料理してるの」 昌士さんとは、ちゃんの旦那さん。 つまりは、忍足くんの従兄のお兄さんだ。 「やあ、二人ともいらっしゃい。もうすぐ出来るから、待っててね」 昌士さんはキッチンからちらりと顔だけを覗かせて、私たちをリビングへと促した。 どうやら、料理ももう仕上げに入っているらしく、キッチンから美味しそうな匂いが漂っている。 思わずお腹が鳴りそうになるのを、ぐっと堪えた。 うっかり忍足くんにでも聞かれて、「食いしん坊さんやな、ちゃんはv」とか萌えられたら、軽く10回は死ねる。 私なんかの腹の音で萌えるのかと疑問に思うかもしれないけど、奴には十分ストライクゾーンらしいという事が、最近判明した。 忍足くんは『妹』というただそれだけで、私に関することなら何にでも…むしろ何もしなくても萌えてしまうしまうらしい。 断じて妹ではないんですけどねっ! 「可愛えな〜、ちゃん」がすでに口癖になりつつある忍足くんは、テニス部の皆にも非常に気色悪がられていた。 これで何故忍足ファンが減らないのか不思議だが、多分『顔が良いから』の一言で済まされるんだろう。 特にうちのクラスの女子なんて、その辺最初から割り切ってたみたいだし。 顔が良いって得だよねと思っていると、足元にふんわりとした感触を感じた。 「ミィちゃん」 「にゃー」 ちゃんの飼い猫の、ミィちゃんだ。 すりすりと私のふくらはぎに身体を擦り付けてご挨拶するミィちゃん。 相変わらず、滅茶苦茶可愛い! 「お、猫や」 「ちゃんの猫のミィちゃんだよ」 「ふふふ、ペット可のマンションにして良かったわ」 自他共に認める猫バカのちゃんが、嬉しそうに言った。 何でも、結婚の決め手も『昌士さんが猫好きで、ミィちゃんとも相性良かったから』らしい。 完全ペット可のマンションも、探しに探し回ったそうだ。 大型犬も飼えるマンションなので、犬好きでもある昌士さんはいつか犬も一緒に飼ってみたいらしい。 「でも、その前に赤ちゃんかな?」 大皿に盛ってあるサラダをテーブルまで持って来た昌士さんに、小首を傾げてそう問いかけるちゃん。 その可愛らしい問いかけに、昌士さんはさらりと返した。 「うーん、でももう少し二人きりでいたい気もするなぁ」 「そうねぇ、もうちょっと二人っきりを楽しみたいわね」 「なぁー」 「ははは、ごめんごめん。ミィちゃんもいたね」 ………新婚さんだぁ。 ご飯を食べてもいないのに、『もうお腹いっぱいです』と言いたくなるのは何故だろう。 ゴロゴロと喉を鳴らすミィちゃんを膝に抱っこして撫で回しながら、ぼんやりとそう思う。 理想の新婚家庭が、ここにあった。 その時、不気味な程大人しかった忍足くんの方から、不穏な気配がした。 「ね、猫とちゃん………萌えるわ」 しまった、猫は最強の萌アイテムじゃないか…! そう思った時にはすでに遅く、忍足くんにスチャッと懐から取り出した携帯で、写メを撮られてしまった。 「や、やめてよ…!」 「ええやんええやん。……よし、待ち受けにしよ」 「お願い、それだけはやめて下さい…!」 そう懇願するも、更にパシャパシャと写真を撮り捲くる忍足くん。 ………テメェ、いい加減にしろよ。 「………忍足くん、いい加減にっ!」 「はい、じゃあ交代や!」 「は?」 「名残惜しいけどなー」とか言いながら忍足くんは、私の膝からひょいっとミィちゃんを抱き上げた。 そして「どっからでもバッチコイやで!」と、こっちに向かってパチンとウィンクした。 うわっ、キモッ! ………隊長、状況が把握できません。 「………えーと?」 「ちゃんも俺の事撮ったらええやん。これでお相子や」 にこにこと、ご機嫌でミィちゃんと一緒に悩殺ポーズを披露し続ける忍足くん。 お相子とか……そういう問題でも無いでしょうが。 「あらあら、侑士くんとちゃんすっかり仲良しさんね」 「俺とちゃんは、いつでも仲良しさんやで」 「なぁー」 「ははは、ミィちゃんも仲良しさんだね」 ……えーと、何? いつの間にか私を除いて、良い雰囲気に包まれてるんですが。 ここで仲良しさんを否定して、空気をぶち壊すのは物凄い気が引ける。 むしろそんな事したら、私一人が悪役決定か「まぁ、照れちゃって」で済まされるだろう。 ………多分、後者だな。 しょうがなく…本当にしょうがなく、私は鞄の中に入っていたデジカメを取り出した。 何故デジカメが調度あるのかというと、先週の休みに使って、そのまま鞄の中に放置されていたのだ。 まさかここで使うとは、思ってもみなかった。 「……じゃ、撮るよー」 「おー。どっからでもええでー」 その言葉通り、忍足くんは360°どこから撮られてもカッコいいだろう悩殺ポーズで待機する。 私は二の腕に迸る鳥肌を無視して、忍足くんを撮った。 何でこんな所で忍足くん撮影会が始まってしまったのかと頭を悩ませながら、ひたすら撮った。 撮って撮って撮り捲くった。 (………もう、どうでも良いや) とにかくこの場を乗り切れば、それで良い。 撮った写真は、クラスの忍足ファンにでも流してやろう。 きっと涙を流して喜ぶぞ。 こうして私のデジカメのデータは、忍足くんの悩殺スマイルでいっぱいになった。 もう、お家に帰っても良いですか? +++あとがき+++ ごめんなさい、まだデート(?)続きます。 もういっそこれでデート(?)終わらせても良いんですが、まだ書きたいシーンが出てないんで;; 新婚さんとミィちゃんが出張り過ぎて、予想外に長くなってしまいました。。。 『他人』書くたびに思うんですが……… 忍足が馬鹿過ぎて、どうしよう。 ファンの方、本当にごめんなさい;; これからもっと、馬鹿になります。 こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました! back/next |