仁王くんは、コート上どころか、日常生活でも充分詐欺師だと思います。

、心の青春日記より)

























『人生楽ありゃ苦もあるさ〜』と、水戸黄門のテーマが鳴り響く。

現在の私のテーマソング&携帯の着信音であります。


「……はい、です」

『あー、オレオレ』

「オレオレさんですか、知り合いにそんな方いませんので失礼します」

『…仁王じゃ』


溜息が出そうになるのを、なんとか堪える。

今日はもう、呼び出しがないと思ってたのに…!


「で、何の用ですか?」

『教室にある俺のタオル、テニスコートまで届けてくれ』

「え…私もう、帰る途中なんだけど」


そう渋ると、仁王くんは低〜い声で魔法の一言。


『借金』

「すぐにお届けに参ります!」


携帯を切り、すぐさま帰り道を引き返して学校までダッシュする。

おかしいな、涙で前がよく見えないよ。

、齢15にしてうっかり借金地獄に陥ってます。

いや、借りたのはお金じゃないんだけど……とにかく多大なる借りができてしまったのです。

しかも、相手があの仁王雅治くん。

テニス部で『コート上の詐欺師』って呼ばれ、怖れられているあの人です。

この間、シャーペンと消しゴムをほんのちょっと借りただけなのに『俺の利率は10秒1割』とヤクザもびっくりの論理をぶちまかされ、気がついたらパシリとしてこき使われていた。

いつの間にか携帯電話も取り上げられて、しっかりアドレス交換されてたし。

そのおかげで、『コーヒー買って来い』だの『教材運んどけ』だの、ここ最近の休み時間、ゆっくり休めた例が無い。

逆らおうと思えば逆らえるのかもしれないけど……なんか、もっと恐ろしいことになりそうな気がして、どうしてもできません。

仁王くんに逆らうのって、相当命がけだと思う。

たかがシャーペンと消しゴムでこんな事になるなんて、夢にも思わなかったです。

なけなしのお金で解決しようとしたけど、『プリッ』の一言を返されて、何故かお金は受け取ってもらえなかった。

多分、このパシリ生活借金地獄は、仁王くんの気がすむまで続くのだろう。






























「……に、仁王くん」

「おー、遅かったの」


フラフラになりながらテニスコートに近づいて、調度休憩中だった仁王くんにタオルを渡す。

帰り道…もう半分以上過ぎていただけに、ダッシュでここまでって、かなりキツイ。

今現在、仁王くんよりタオルが必要なのは、私だと思う。

ってゆーか、もしかして仁王くんが教室からタオル取ってきた方が早かったんじゃなかろうか。


「わ、脇腹が痛いデス」

「だらしないのう、普段から鍛えとかんと。テニスでもやるか?」

「…遠慮します」


帰宅部で体育もギリギリ平均の私に、無茶言わんで下さい。

ここの学校、男子も女子もテニス全国区でしょうが。


「なんじゃ、つまらん。コーチしてやろうかと思ったのに」

「余計遠慮します!」


これ以上、借りを作ってなるものか!

力いっぱい、遠慮する。

どれだけコーチ料を請求されるか分からないだけに、恐ろしい。


「まー、そんな遠慮なんかせんで」

「いえいえ、本当に結構ですから!」


訪問販売のセールスのごとくしつこい仁王くんに困っていると、仁王くんの後輩らしき人が近寄ってきた。


「仁王先輩ー」


あ、この子知ってるかも。

確か2年でエースの切原…赤也くん、だっけ?


「ん、なんじゃ赤也」


お、正解!


「この人、仁王先輩の彼女っすか?」


はい?

この人って……周りに誰もいないし、確実に私を指差してますね。

っていうか、人の事指差すなよ。


「あー、違う違う」


そう、悲しい事に、私と仁王くんはそんな甘ったるい関係じゃない。

私、完全パシリだもんね。


「今のところ、俺の下僕じゃの」


………パシリから、ランクダウンしてました。

って、切原くん…そんな憐れむような目でこっち見ないでよ!

後輩に、そんな目で見られたくないよ…!

今、凄く泣きたい気分です。


「そ、それじゃあ私、もう帰るね」

「おー、ご苦労じゃったの」


ええ、本当にねっ!!!

早く帰って、ポテチでもつまみつつ好きなテレビ見よう。

後ろを振り返らず、校門へと急ぐ。


「おーい、!」

「え?」


パサッ


柔らかい何かが、空から落ちてきた。

おかげで前が、見えません。


「タオル?」


しかも、どこか見覚えがある。

そう、ついさっき仁王くんに届けた……あのタオルだ。


「汗、拭いとけよ」


休憩が終わったらしい仁王くんは、そう言ってまたテニスコートへと戻って行った。

…………。

世にも珍しいモノを見てしまいました。

あの、仁王くんが……素直に笑ってた。

しかも、私に笑いかけてた…?


「……タオル、洗って返さなきゃ」


ついでに、新しいスポーツタオルが家にあったハズだから、仁王くんにあげてしまおう。

更についでに、差し入れに冷たいドリンクでも持ってってみよう。

仁王くん、そんなに悪い人ってワケでもないし。

………多分。

あ、また水戸黄門のテーマだ。


「……はい、です」

『あー、オレオレ』

「に、仁王くん?」

『教室にある俺のリストバンド、テニスコートまで届けてくれ』


前言撤回。

やっぱり仁王くんは、悪い人でした。





オレオレ詐欺師には、気をつけましょう。











+++あとがき+++
ご利用は、計画的に』の続編でした。
ちなみにリストバンドはもちろん、例の鉛入りの重いヤツです。
……なんか、前よりヒロインの扱いが酷いような;;
ランク、下がってるし。
自分、しょっぱい夢しか書けないなと再認識しましたよ。。。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!