、人生15年……最大のピンチです!

























目覚ましが鳴らない。

運動靴の紐が切れる。

黒猫の親子に目の前を横切られる。

と、朝から不幸の前兆のオンパレードで、ようやく学校に着いた時には遅刻ギリッギリの時間だった。

ただでさえ今日は1時間目から大っ嫌いな数学の授業なのだ。

憂鬱になるにもほどがある。


「……あ」


追い討ちのごとく、鞄の中にあるハズのモノが、無い。


(弁当、忘れた……)


涙が出そうになる。

なんなんだろう、今日のこの不運は…。

まだ一日が始まったばっかりだっていうのにっ!

きっと今日の運勢、血液型占い含め全部最悪の結果だ。

テレビチェックする暇なんて、無かったけどね!


「ん?どうしたんじゃ?」

「え?にっ仁王くん?!いいい、いえ、何でもないデス!!!」

「そうか?」

「はい、もうお気になさらず!!」


よっぽど不幸な面をしていたんだろう。

隣の席の仁王くんに、珍しくも話しかけられてしまった。


(っていうか、いきなり話しかけないでよ!緊張する〜)


心の中で、そんな事をひっそり呟く。

隣の席の仁王雅治くんは、何ていうか………怖い。

周りの女子は皆『カッコ良い!』って黄色い声上げてるけど、なんていうか仁王くんには……得体の知れない怖さがある。

3年間同じクラスなんだけど、何考えてるのかいまだによく分からないし。

テニス部では『コート上の詐欺師』って呼ばれているらしいって噂を聞いたから、余計怖く感じるのかもしれないけど。

席替えで隣の席になった時は、正直泣きそうになったよ。

なので、たまに仁王くんにこうして話しかけられたりすると、ビビリまくって心臓がバクバクと破裂しそうになる。

心臓バクバクでも、決して恋ではないのです。

………多分。


「ほら、席に着けー!」


あー、もう数学の先生が来ちゃったよ。

バタバタと、席を立っていた子達が自分の席に戻っていく。

私も鞄から教科書と筆箱を用意して………ん?


「……うそ」


筆箱も、忘れた。

再度鞄の中を漁ってみるが、無いものは無い。

そういえば、昨日宿題だった社会のプリント書き込んでて……そのまま全部机の上に置きっ放しにしちゃったような。

せめてもの救いは、宿題の提出日は明後日までな事か。

筆記用具借りようにも、仲の良い友達は皆席が離れていて、今から借りるのはちょっと無理そうだ。

まぁ、この時間はもうしょうがない。

授業が終わったら、筆記用具とノート借りよう。


「はい、教科書しまってー。抜き打ちの小テストやるぞー!」


な ん で す と !

抗議する生徒たちの声を無視して、先生は楽しそうに問題用紙を配り始めている。

畜生、あのサド教師!

っていうか、せめてシャーペンと消しゴム借りる時間くらい下さい…!

あーもう、贅沢は言ってられない。

ここは恥を忍んで、近くの人に借りるしかないよね!

私は一番後ろの席なので、当然前と左右の人にしか助けを求められない。

しかしながら、右隣の山中くんは本日は風邪でお休み。

前の席のさんは、それどころじゃないオーラをバリバリと放出していてとても話しかけられそうに無い。

うん、私以上に数学大っ嫌いだもんね、さん。

後、残るは何やら余裕で座っている左隣の―――


「にっ、仁王くん…!」

「ん、何じゃ?」


全ての勇気を振り絞って、仁王くんに話しかけた。


「あの、できればシャーペン貸して貰えないかな?筆箱忘れちゃって……」

「別にええよ」


そう言って、仁王くんはシンプルなペンケースからシャーペンを取り出してくれる。

更に「筆箱ごとって事は、消しゴムも必要じゃろ?」って言って仁王くんのまだ真新しい消しゴムをカッターで切り取ってくれた。

本当に、仁王くんが救世主に見えてしまった。

普段怖いなんて思っててごめんなさい。

もう人を見かけや噂だけで判断なんてしません!


「ほ、本当にありがとう!」


シャーペンと消しゴムを受け取るために、仁王くんの方に手を伸ばす。

が、仁王くんはひょいと自分の方へ戻してしまった。


「貸すけどな……」

「?」

「高くつくぜよ」


前言撤回。

見た目や噂通りの人でした。


「ほら、どうした?早く取らんとテスト受けられんじゃろ」

「え…いや、あの、でもっ」

「ほれ、人の好意を無下にせんと、とっとと取りんしゃい」


お、押し付けられた…!

っていうか好意じゃないしっ!!!

………しかも、問題全然解かんないし。

もう、駄目だ。



























「………仁王くん」

「おう、何じゃさん」

「筆記用具、お返しします。大変助かりました。アリガトウ」


こんなモノ、さっさと返すに限る。

私は、1時間目終了のチャイムが鳴ると同時に、仁王くんに話しかけた。


「もう返すのか?いつまででも構わんのに」

「いえ、結構デス」


これ以上借りてたら、利子がいくらつくか、解かったもんじゃない。

きっちりと、借りていたシャーペンと消しゴムを返す。

借りたって言うか、無理矢理押し付けられたような感じになってたけど、正直本当に助かった。

苦手教科だからこそ、小テストで0点なんか取れないもんね。


「ふ〜ん、じゃ、コーヒーよろしく」


そう言って、筆記用具と引き換えにチャリンと渡されたのは、コーヒー代の100円。

学園内の自販機は紙パックやペットボトル除いて缶類はほぼ全部100円だからちょうど良いんだけど…。

意味がよく、解かりません。

っていうより、解かりたくないデス。


「あ、ブラックの熱いのな」

「……あの〜、仁王くん?」

「言ったじゃろ?高くつくって」


にやりと、仁王くんにとってはご機嫌…であろう笑顔でそう囁かれる。

パシリに使うつもりですか。

つーか、顔近い!顔近いからっ!!!

仁王くんは、にやにやと…思わず殴り飛ばしたくなるくらい楽しそうだ。


(う〜…まぁ、今日一日はしょうがないか)


なんて、高をくくっていたら―――


「今日一日なわけなかろうが」


心を読まれましたよ。


「俺の利率は10秒1割じゃ」

「どんだけ高利貸しなんですか?!」


10日で1割どころじゃない。

この人、ヤクザもびっくりの十一の究極いってるYO!


「まぁ、そういうわけで。しばらくパシリ、決定な」


どうしよう。

詐欺師の罠に、まんまとかかりました。

人生最大の、大ピンチです。











+++あとがき+++
仁王さんの方言が、まったくもって掴めません;;
おっしー以上に適当です。ごめんなさい(土下座
そしてまた夢とは言えそうに無いシロモノが出来上がりましたよ。
一応、続編も書く予定ですが……どうなる事やら;;
シリーズ化は、しない……ハズです

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!