ずっとずっと、欲しいモノはどんな手段を使っても手に入れてきた。


「もうすぐ…」


そう、欲しいモノはもうすぐ手に入る。

いや、もうすでに手に入れていると言って良いのかもしれない。


「だから、美依奈のために……ギセイになってね」


自らのジャージを引き裂きながら、玉城美依奈はうっとりと微笑んだ。





















































始めはささいな嫉妬と対抗心だった。

氷帝学園において、エリート中のエリートである彼らは、彼氏にすればかなりのステイタス。

それは、学園に通う生徒のみならず、他校に通う女生徒たちの常識であった。

だから、欲しかったのだ。

それなのに彼らの中心にいる女子は、彼女でも何でも無い、ただのマネージャー。





明るくて

綺麗で

気が利いて

性格も良くて

頑張りやで―――


そう周りから持て囃されている

彼女に対する好意的な評判は、尽きる事が無い。

だが、なんであんな女と皆仲良くするのか、美依奈には解からなかった。


(美依奈の方が、ぜったい美人で性格もいいのに…!)


でも、彼らに絶対的な信頼と好意を向けられているという事は、ある意味都合が良かった。

利用できる、と思った。

だからに近づいて仲良くなったフリをして、彼らとも仲良くなって―――最大限に利用したのだ。

そして、影では少しずつそうと知れぬように、彼女の神経を減らしていった。

気づかぬうちに無くなる持ち物、泥だらけの靴、耳を塞ぎたくなるような酷い噂話―――

テニス部ファンの女子にそれとなくそそのかせば、簡単な事だった。

そして最後は、自分の手で彼女の時代を終わらせた。

美依奈の計画は、順調過ぎるほどに進んでいる。

がいなくなってすぐに変わりのマネージャーに立候補し、その地位を得ることが出来た。

しばらくは地味なくせに重労働なマネージャー業に辟易したが、それも今は解決した。

新しい道具が、現れたから。





地味で暗い、転校生。

マネージャー経験者と聞いて、身震いしたくなるほど嬉しかった。


(神様もきっと、美依奈の応援をしてくれるんだわ!)


そしてテニス部のマネに誘ってあげて、本来自分がするはずだった仕事をさせてあげたのだ。

の性格と容姿なら、レギュラーたちに好意を持たれる事も、まずないだろう。

面倒だった仕事にも解放され、美依奈はとても満足した。


(なのにあの女…!)


転校生で友達もいないに、美依奈がせっかく声をかけてあげてマネージャーにもさせてあげたのに、は美依奈に反抗的な態度をとった。

だから、お仕置きしたのだ。

美依奈に逆らったのだから、当然の報いだ。

転校して来たばかりで信じてくれる者もいないは、すぐにレギュラーの憎悪の的になった。


「バカな女…大人しく美依奈の言う事きいてれば、イジメられる事もなかったのに」


でもこれもまた、美依奈にとって良い方向に向かった。

に向かっていた皆の感情が、美依奈の方に向けられてきたのだ。


「だからさん…もっともっと、美依奈のためにワルモノになってね」


そう言って、ボロボロになった自らの予備のジャージを、ロッカーに戻す。

これの犯人がという事になれば、更には追い詰められるだろう。

でも、それだけでは足りない気がする。

もっと、自分に皆の同情が向けられるには、更なる何か…最後の切り札が必要だと感じた。

誰にも見つからないように女子更衣室から出ると、テニスコートへと向かう。

が洗濯して、綺麗に畳んだタオルも忘れずに持っていく。


「みんなぁ〜、タオル持ってきたよ〜」

「お、サンキュ!」

「そろそろ休憩にするか」


美依奈が声をかけると、練習に励んでいたレギュラー陣が集まってきた。

に何もされてないか?」などの声に、曖昧に頷く。


「何かあったら、絶対に言えよ!」

「そうやで。無理せず俺らに相談せえ」

「ありがと、みんな…」


皆に気にかけられ、甘やかされるのは、なんて気持ち良い事だろう。

自分の努力の結晶なのだから、余計に気持ちが良かった。


「はい、日吉くんにもタオル」

「………ありがとうございます」


一人離れた位置にいた2年の日吉若にも、タオルを手渡す。

美依奈は愛想のあの字も無い日吉が、少し苦手だった。

日吉は美依奈に対して自分から話しかける事も無く、との事に関しても、心配する様子も無いのだ。

少し、気に入らない。

だが注意深く見てみると、いつもそっけない日吉の様子が、普段と少し違う事に気づいた。

休憩中ずっと、遠くにいる一人の人物を見つめているのだ。

彼の視線の先にいるのは―――

日吉はじっと、他の部員に無視されつつも黙々とボール拾いをするを見ていた。


「日吉君、どうしたの?」

「あ、いえ。………この前、新しいマネージャーの人と初めて話したんですが」


日吉は少し躊躇うようにそう切り出した。


さんと?」

「はい。それで…彼女と前にどこかで会ったような気がして、少し気になっているんです」

「それ、本当?!」

「はい。いつ会ったのかは思い出せないんですけど…」


一人離れたところにいた日吉との会話は、誰にも聞かれていなかった。

美依奈は確信した。

これは―――自分の探していた切り札だ。




静かに微笑む美依奈。

それを唯一人見ていた日吉は、嫌な予感が背筋を走った。

自分の一言で何かとても―――大変な事が起こる気がした。










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+++あとがき+++
ここまで嫌な人間書いたの初めてかも…;;
美依奈さん、基本自分の事しか考えてません。
そして、彼女の台詞にひらがなやカタカナが多いのは、彼女が漢字知らないからです。
つまりはただの馬(ry
最近日吉しか出てこなかったけど、次はもっと色々違う人が出ます。多分。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!