「ぎゃーーーーーーーー!!!」


ある朝、は自分の悲鳴によって目を覚ました。




「………………夢?」




イヤな…嫌な夢を見た。


思い出したくも無い、おぞましい夢。


今すぐ記憶から消去したい。


だがその夢は記憶からすり抜ける事は無く、の脳に強烈なインパクトと共にインプットされてしまった。

これが正夢だったらどうしよう…。

そんな事は無いと理性では解かっている。

あまりにも現実味に欠けている。

だが、もし本当だったら―――


「……確かめなきゃ」


はワケも解からぬ強迫観念に駆られ、急いで制服に着替えて自室を後にした。





































惑 〜編〜







































わしっわしっわしっわしっ…………


「…………さん?」

「何?ニコル」

「それを訊きたいのはこっちなんですけど…」

は談話室にいた同僚であるニコルの姿を見つけると、彼のやわらかな緑の髪をぐしゃぐしゃと弄繰り回した。

「…よし、ニコルは大丈夫っと」

は満足そうに何度も何度も頷いた。

「いや、だからどうしたんですか?」

まったくもって答えになってないの言葉に、ニコルは再度尋ねた。

普段から突拍子も無いことをしでかしてくれるだが、今日のはいつにも増してそれが酷いと思う。

「うん?…まぁ、ちょっとね。こっちのことだから、あんま気にしないで!」

は曖昧に答えた。

いつもこんな時には、理論は通ってないが妙に説得力のある理屈をこねてくれる彼女にしては珍しい。

「あ、ディアッカ!!!」

は談話室に入って来たディアッカを見つけ、嬉しそうに駆け寄った。

「はよ〜……ってナニすんだ!!」

は今度はディアッカにも、ニコルと同じように髪の毛を弄くった。

「セットが崩れるだろっ!」

「え?それ、寝癖じゃなかったの??」

「違う!!」

なおもぎゃあぎゃあと口喧嘩を続ける二人。

もはやコントか漫才だ。

朝っぱらから元気だなぁと、そんな2人を観察するニコル。

何だか、そこだけ摩訶不思議な空間だった。












「…朝っぱらから何やってんだお前ら?」

「ミゲル!ラスティ!!」

同僚のエリートパイロットたちが談話室に続々とやって来た。

「お前食堂にいないからアスランが心配してたぞ。もう朝飯食ったのか?」

「あ、忘れてた」

「―――ところで、コレは何をしてるんだ?」

の手は、すでにラスティの頭に伸びていた。

髪の毛をわしわしと掻き乱すに、飽きれた顔をしてミゲルが訊いた。

すでにのこんな行動には、全員慣れている。

「えへへ〜vちょっとねぇ…よし、今んとこ全員大丈夫だ!」



「「「「だから何が(ですか)!!!!」」」」



どうせロクなことでは無いだろうが、ここまでされると気になる。

は、そんなエリートパイロットたちから目線をそらし、重々しく口を開いた。

「ちょおっっっと、夢見が悪くってね………」

「どんな夢を見たんですか?」

「ん〜、実は………」

「「「「実は?」」」」

は言おうかどうか迷った。

あまり聞いてて気持ちの良い話ではない。

男の人―――しかも自分のことならなおさらだろう。

「良いから言えよ」

ミゲルが焦れてを促がした。

他の者も、興味津々という顔をしてを見ている。

今更『何でもない』ではすまないだろう。

こうなったら、腹をくくるしかない。




「実は、クルーゼ隊の全員が、ツルっぱげだったっていう夢見ちゃって……」




「「「「は?」」」」




「だから、あんたたちが全員ツルっぱげで……」

「いえ、ツルっぱげなのは解かりましたから。………それだけですか?」

「うん。まぁ…ね」

「何だ。それだけかよ」

「ったく、ビックリさせやがって」

別に自分たちは実際ハゲではないのだから、どうってことない。

「そんだけのために、髪触って確かめてたのか?」

ディアッカが飽きれたように訊いたが、は真面目な顔をして答えた。

「うん。だって怖かったんだもん」

は、頭を抱え込んで今朝の夢をグチりだした。

「皆、ヅラ投げ捨てて、ツルっぱげのまま無表情で追っかけて来るしさ、クルーゼ隊長だってっ……!」

「クルーゼ隊長も…か?」

コクコクと力いっぱい頷く

目には涙を溜めている。

「クルーゼ隊長なんて、仮面と一緒にヅラが取れて……」

「確かに、それはインパクト強いですね…」

「顔は?クルーゼ隊長の顔はどうだった?」

ラスティがワクワクした顔で訊いてくる。

だがは一言

「のっぺらぼうだった」

と、無表情で言った。

最終的に、隊の全員がのっぺらぼうで追いかけてきたという。

顔までツルっぱげで余程怖かったのだろう。

すでにどこか遠くを見詰めているに、ミゲルたちはそれ以上深く訊くことができなかった。

確かにそれが正夢だったら怖い。怖すぎる。

思わず確かめたくなったの気持ちも、解かる気がした。



「…それで、全員調べ終わったのか?」


ミゲルの問いに、はゆっくりと首を振った。



「アスランとイザークが、まだ……」



「………触らせて、くれますかねぇ?」

「無理じゃねぇ?」

普段から、異様なほどに髪に執着心を抱いている二人だ。

何故かにはやさしいアスランとイザークだが、髪にだけは触らせてくれない。

「特にアノ2人が気になってしょうがないんだけど…」

「あ、それ解かる〜」

の言葉にラスティが賛同する。

他の皆まで、うなずいていた。

正夢の確率が高そうなのは、アノ2人のような気がする。

あんなに髪に触るのを嫌がるのだ。








絶対に、何かある。








爽やかな朝、たちは不気味な微笑を交わし合った。



















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