とんでもない事に、なりました。 ある日の放課後、階段の踊り場。 急に影が目の前が翳ったのでふと見上げると 人が、降って来た。 「………ぐえっ!」 避ける間もなく、押し潰された。 痛い。半端無く痛いっ! そして重い…! 一瞬、何が起きたのか解からなかったが、どうやら前を歩いてた人が階段から落ちたらしい。 そしてそれに、私は巻き込まれたらしい。 「……あの、どいて下さい」 今だに自分を押し潰している人物に声をかけるが、反応が無い。 「………もしも〜し?」 やっぱり反応が無い。ただの屍のようだ。 「って、そんな事してる場合じゃなくて……」 もしかしたら、階段から落ちた時、頭でも打ったのかもしれない。 ……私がクッション代わりになったから、ダメージはほとんどこっちのハズなんだけど。 でも、もしそうだったら大変だ! なんとか上半身だけ自分の上から退かして、顔を覗き込む。 「……嘘」 遠くから見た事が無いけど、間違いない。 この…派手な顔に泣きボクロは、我が氷帝学園の帝王、跡部景吾様だ。 「ち、ちょっと!跡部くん?」 呼んでみるけど、跡部くんの反応は唸って首を振っただけだった。 よく見ると、顔が……赤い? 恐る恐る、額に手を当ててみる。 「うわっ、凄い熱」 なるほど、階段から降って来たワケが解かった。 さて、これからどうしよう。 流石に、このまま病人を放置するわけにもいかない。 保健室にでも、連れて行くしかないだろう。 なんとか跡部くんの下から抜け出し、声をかける。 「え〜と…跡部くん!起きれる?」 跡部くんの頬を、ぺちぺちと叩いてみる。 この図、跡部ファンに見つかったら絶対殺されるな…。 「……うっ」 「跡部くん?」 やっと気付いてくれたみたいだ。 ゆっくりと瞼を上げる跡部くん。 その姿に、思わず見惚れてしまう。 やっぱり、綺麗な顔してるなぁ。 「………誰だ、お前?」 「通行人Aです。お気になさらず」 私にも、っていう立派な名前があるんだけど、後々面倒な事になったら厄介なので、名乗らないでおいた。 下手にお近づきになって、跡部ファンに私刑されるハメになるのは、なんとしても避けたい。 「跡部くん、起きれる?保健室行こう」 「何で、オレ様が、保健室なんか…」 朦朧としながら、起き上がる跡部くん。 ぐらりと傾く身体を、慌てて支える。 「跡部くん、凄い熱だし、階段から落ちたんだよ!」 「……熱?」 「ほら、行こ!」 フラつく跡部くんを支えて、階段を下りる。 こんなとこ、うっかり跡部ファンに見つかったら(以下略) ファンに見つからない内に、さっさと連れて行くしかない。 幸い、保健室はこの棟にあり、思いのほか近かった。 「つ、着いた!」 誰にも見つからずに、割とあっさり保健室に到着しました! 人通りが少なくって、本当に良かった。 途中、跡部くんの身体がぐらっと傾いで、転びそうになって怖かったけど…。 とにかく、コレで跡部くんから開放される! 「先生〜!……あれ?」 誰も、いない。 机の上を見ると、メモ用紙に『職員会議に行ってきます』の文字。 「ど、どうしよう…」 とりあえず、跡部くんをベッドに寝かせて、利用者記録用のノートに必要事項を記入する。 「タオル…薬…見当たんないし」 普段保健室なんて使わないもんだから、どこに何があるかなんて全く解からない。 仕方なく、自分のハンカチを濡らして、跡部くんの額にあてた。 「とりあえず、これで熱が冷めれば良いんだけど…」 「うっ……お前?」 「あ、跡部くん、大丈夫?先生職員会議みたいだし……家の人呼ぼうか?」 って言っても、お家の電話番号なんて知るわけ無いんだけど。 「………携帯」 「携帯?持ってるの??」 跡部くんは、普段からは考えられない、のろのろとした動作でポケットから携帯電話を三つほど取り出した。 携帯三つって……どこのホストだよ。 突っ込みたいのを堪えながら、跡部くんに渡された携帯で、指示された人物に電話をかけた。 「あ、樺地くんですか?跡部くんが高熱出して保健室にいるので、保護して下さい」 『ウス』という返事を聞いてピッと通話を切り、電話は終了した。 簡潔過ぎる会話だが、樺地くんと会話続ける自信はないのでしょうがない。 っていうか、これ以上テニス部と関わるなんて無理。 平和な学園生活を送りたいのです。 と、いう訳でここはさっさと退散するに限るな。 「じゃあ跡部くん、もうすぐ樺地くんが来てくれるから」 お大事にね〜と言い残して、さっさと保健室から抜け出した。 後ろから何か跡部くんの呼び止めるような声が聞こえた気がしたけど……うん、聞かなかった事にしよう! 「うわっ、もうこんな時間じゃん!」 楽しみにしていたドラマの再放送があとちょっとで始まることも手伝って、私は逃げるように学園を後にした。 ―――数日後。 「おはよー。何か騒がしいね?」 いつものように学校へ行くと、教室…というか、学園全体が異様な空気に包まれていた。 ドアの近くにいた友人に声をかけると、待ってました!とばかりにパタパタと走りよって来た。 ちなみにこの友人は、こういった噂話の情報収集には滅茶苦茶精通している。 氷帝学園のCIAという異名を持つ友人は、次々と情報を垂れ流してくれた。 「跡部様が、ここ数日風邪で休んでたの知ってる?」 「あー…うん」 「なんでも、高熱で校内で倒れた時、助けてくれた人を捜してるんだって!」 「……へ、へー」 もしかしなくても、私の事でしょうか…? 「その人…あ、女生徒ってのは分かってるんだけどね、名前も名乗らなかったらしくって」 「そ、それで?」 「今、テニス部総出で大捜索中らしいよ」 「ふ、ふ〜ん」 何でもないように相槌を打ったけれど、背中からはだらだらと冷や汗が流れていた。 「髪は肩ぐらい、背は150cm前半で、中等部の3年生らしいって手がかりしかないらしいんだけど…」 「へ、へぇー!」 そんなに手がかりあるのかよ! やばいやばいやばい……!! 平穏な学生生活が、崩れ去るかもしれない!!! 「まぁ、でもそんな特徴のコなんて、3年の中でもたくさんいるしね」 「そうだよね〜!」 あんただって当てはまるしね〜という友人の言葉に、あははははと笑って誤魔化すしかなかった。 捜索隊の騒がしい声が、校内のそこかしこから聞こえる。 どうかどうか、見つかりませんように! +++あとがき+++ 跡部夢なハズなのに、ほとんど会話も無く終わってますね。。。 一応、跡部視点のも書く予定です。 シリーズ化は……しないハズ! こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました! |