今日は２月１４日、聖バレンタインデー。

菓子業者の術中にハマった女たちはこの日、好きな男のために甘ったるいチョコレートを用意する。

恋人たちは愛を確かめ合い

馬鹿な独り者の男共は、今か今かと待ちわびて

ある者は勝利の雄叫びを

またある者は敗者の呻きを吐き出す。

そんな、（独り者の）男たちにとっては生死を賭けた一大イベント。

俺だって年頃の男だ！（しかも独り者）

好きな女だって……一応、いる。

毎年義理でチョコを貰っているが、今年は本命を貰う気満々だ。


それなのに


嗚呼、それなのに―――


何故俺はその好きな女の胸倉を掴んでいるのだろうか？

















ギブ　ミー　チョコレート

















俺に胸倉を掴まれている奴の名は、・。

一応、俺の幼馴染みだ。

そして俺の……す、好きな奴だ／／／

向こうは怯えた目でしか俺を見ないけどなっ！


「イザーク、とりあえず落ち着いて……」


へらへら笑いながら言ってくるに、俺の怒りのボルテージが更に上がる。

なんとかそれを抑えながら、もう一度に訊いた。


「どういう了見だ、コラ」


いつもより低く響く俺の声に、のへらへらした笑みが引きつったが、構わず続けた。


「チョコが無いとは、どういう了見だと訊いてるんだっ！えぇ？！」


そう、今年のバレンタイン。

あろう事か、こいつは『チョコが無い』とのたまった。

この俺が朝っぱらから、わざわざ取りに来てやったというのにだっ！

べ、別にそこまでチョコが欲しかったわけじゃないぞ！

こいつからチョコを貰うのは、もう毎年の恒例行事だからな。

うちに来る手間を省いてやるついでに、朝の散歩がてら俺自ら寄ってやっただけだ。

それなのに、こいつは『チョコが無い』と言う。


「聞いてんのか？！！！！」


「聞いてます！聞いてます！」


なんでこいつは、こんな状況なのに緊張感がないのだろうか。

いつもの事だが、今日は余計に腹が立つ。

でも、それよりも何よりも腹が立つのは……


「そんなチョコの匂いを漂わせておいて、チョコが無いとはどういう了見だっ！」


甘ったるいチョコレートの匂いが、家中に染み付いてるじゃないか。

それなのにチョコが無いとはどういうことだ？

………………はっ！

アレか？今年は本命チョコだけで、義理チョコの俺の分は無いってことか？！

って事は、俺のチョコは義理…か？

ちっくしょう……！


「出せっ！！！」


の胸倉を掴んだままがくがく揺さぶってみるが、やはりチョコレートは出てこない。

っていうか、誰だ本命！


「無いモノは無いんだってば〜！！！」


涙目で訴えられるが、構わず揺さぶり続ける。

こればっかりは、譲れない…！

俺は今、戦後の日本の子供たちよりも（本命）チョコが欲しいっ！


「大体、イザークは私なんかのチョコがなくったって他にいっぱい貰えるじゃん……」


うっ！

痛い所を突かれた…。

確かに、自慢じゃないがバレンタインのチョコレートは毎年うんざりするほど貰っている。

しかも、そのほぼ全部が本命チョコだ。

だが別に、俺はチョコレートが欲しいわけじゃない。

ついディアッカに乗せられて、アスランたちとチョコの数を競っていたりもした事もあったが、今年はもうやめた。

今年はもう、他の女のチョコなんて貰わないつもりだ。

義理チョコも、たとえお前のだって欲しくない。

今年の本命チョコは、・のしかいらないんだ。


「イザークもさ、もう幼馴染みに義理チョコ貰ったって、嬉しくないでしょ？」


だからもう、やめましょう？


の言葉に、かっとなる。

やっぱり義理チョコかよ？！


「ふざけんなっ！」


っていうか、俺の心の声を聞け、この激鈍女！

幼馴染みなんだ、それくらいできるだろっ？！（無理）


「くっ苦しいよ、イザーク！！！」


が訴える。

力が入り過ぎたのか、いつの間にか俺はを更に締め上げて自分と同じ目線に持ち上げていた。

何だか自分がいつになくおかしい。

もう、ぐちゃぐちゃだ。


「俺は………」


呟いてみるが、自分が何を言っていおうとしているのかわからない。

というか、、軽過ぎるぞ。

いつも何を喰っているんだ！


「俺はっ………！」


ああもうっ！

こうなったら言ってしまえ！

こんなに自分がぐちゃぐちゃなのは…、お前のせいだからな！


「俺は今年のチョコは貴様のしか、貰うつもりは無いからなっ！」


言った。

とうとう言ったぞ！

それと同時に、流石に苦しさで顔が真っ赤を通り越して青白くなっていたを、離してやった。

一世一代の告白。自分の顔が熱いほどに赤くなっていくのが解かる。

俺ともあろう者が、顔を合わせられないくらいに恥ずかしい。

だがは……


「………はぃ？」


何を言われたのかよく解からないとばかりに、そんな間抜けな返答をよこした。

しかも、何を考え込んでいるのかこめかみを押さえながら必死にうんうん唸っている。

聞こえなかったなんて言ったらまたシメてやる…！

そんな俺の気配を察したのか、は何やら懸命に考え込んでいる。


「………え〜っと、つまり？」


俺がこんなに言ったというのに…！


「まだわからんのか？」


の鈍さに、イライラする。

いい加減、気付け。


「…欲しいのは、いつもの義理ですか？」


それとも本命チョコですか？


やっと気付いたらしい。

の顔は、ほんのりと赤くなっていた。


「………………本命、だ」


俺がそう言うと、の顔が、さっきよりも赤くなった。

多分、俺の顔もに負けないくらい赤くなっているんだろう……。

赤い顔を隠すように両手を頬に当て、俯いてしまっているに、だんだん焦れてきた。

早く返事しろよっ！

こっちはお前以上に恥ずかしくてたまらないんだ！


「で、どうなんだ？！」


「ふぇ？」


「チョコレート！あるならさっさと出せっ！！！」


俺がそう言った途端、は何やらおろおろと困った顔をした。

な、無いのか…？！


「あ、あのね……本当はイザークへの本命チョコ、あるハズだったんだけどね」


その言葉に、とりあえずほっとする。

あるんだったら、さっさと言えっ！

は、言いづらそうに更に口を開いた。

何やら嫌な予感がする。


「手作りにしようと頑張ってたんだけど…………」


まさか…………


「………………失敗、しちゃった」


半ば予想通りの答えに、脱力する。

そういう事は、早く言え。

あまりな答えに怒り出したかったが、半泣きで情けなく笑っているの顔を見たら、怒るに怒れなかった。

溜息を吐き出して、気分を変える。

本命があったということは、両思いなんだ。

だが、バレンタインにチョコ無しというのは、なんだか淋しい。


「…………失敗作は？」


「は？」


「だから、その失敗作はどこだ？！」


こんなにチョコ一つのために苦悩させられたんだ。

絶対喰ってやる！！！

ずかずかとキッチンに入っていくと、あった。

山のように積まれた形の悪いチョコレートが。


「…………これか？」


というか、これしか無いな。

しかし、どうやったらこんなに失敗作を作れるのだろうか。

ハートの形にしたかったのだろうが、どれも珍妙に歪んでいる。

昔から不器用だったのは知っていたが、ここまでとは……。


「………………うん」


申し訳なさそうなの声に、しょうがないと諦める。

まぁ、努力は認めてやるか。

比較的マシな形をしたチョコレートを一つ摘んで、食べてみた。


「……食えるじゃないか」


別に不味くもなんともない、普通のチョコレートだ。

まぁ、所詮手作りのチョコレートなんて、市販のモノを溶かして固めるだけだからな。

形はどうだろうが、（変なモノを入れなければ）味は皆同じようなものだろう。


「本当？！」


が嬉しそうに訊いてきた。


「ああ」


『にしては良くできてる』と頷くと、更に嬉しそうに微笑んだ。

か、可愛すぎるぞ…／／／


「今度は、ちゃんとしたの作れよ」


「うん！」


を抱きしめると、甘い甘いチョコレートの匂いがした。







来年も、君のチョコレートを待っています――――




















＋＋＋あとがき＋＋＋
や、やっとできた…！
一応、『ギブ　ユー　チョコレート』のイザーク視点です。
つーか、去年のバレンタイン夢が『ギブユー』、今年のバレンタイン夢が『ギブミー』って……；；
すみません、遅いにもほどがありますね。。。
しかも、バレンタインもう過ぎてますし…。
お待たせしてすみませんでした…！
イザークが偽者チックに仕上がりましたが、『ギブユー』と合わせて読んで頂けると嬉しいです。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました！