すいみんぶそく
誰かが私の名前を呼んでいる。
誰だっけ?
っていうか、ここはどこ?
私はだーれ??
せっかくイイ気分なんだから邪魔しないで欲し――――
「いい加減に起んかっ!・!!」
「うぁっ!」
気がついたら目の前に銀の河童…じゃない、銀髪のおかっぱがいた。
この見目麗しいお方はアレだ。
最近私が配属になった先の隊長だ。
隊長は尚もぎゃんぎゃん何か叫んでいる。
はっきり言って、かなりうるさい。
「そんなに怒鳴らなくったって、聞こえてますよ。ジュール隊長」
聞こえてはいても、頭には全然入ってなかったりするのだが。
「嘘を付け!貴様、さっきから朝の会議中だというのに、ぐーすかぴーと寝ていただろうがっ!」
ありゃ、バレてたよ。
「貴様…軍を何だと思ってるんだ!」
おかっぱ隊長の怒声に、他の隊員達の方がビビっている。
皆も私みたいに、耳栓しときゃイイのに……
鼓膜が敗れそうな隊長の声も、かなり防げるんだから。
「あっ、お前!その耳に詰めているモノは何だ?!」
ヤバイ、見つかった。
「いえ、これは潜水の訓練の後に取り忘れてですねぇ…」
「見え透いた嘘を付くんじゃない!」
潜水の訓練なんて、宇宙艦の中でできるわけないだろう!
ごもっともです。
「だって〜、眠くて眠くて眠くて眠くてしょうがなかったんですもん」
「それはサボって良い理由になってないだろうが!!」
「元はといえば隊長が早朝訓練とかやらせるからいけないんじゃないですか〜!」
私のその言葉に、周りの兵士たちが青くなる。
『口答えとは命知らずな!』と言いたいのだろうが、そんな事こちとら承知の上だ。
おかっぱ隊長なんて、恐くないもんね!
「ですからね隊長、もっと部下に効率的な働きをさせたいなら、早朝訓練をやめて下さいよ」
この隊長は、真面目で熱血なのは良いのだが、部下にまでそれを求めようとする。
哀れな私たちジュール隊員たちは、毎朝毎朝早朝訓練に強制的に参加させられていた。
他の隊は年配の隊長が多いためか、早朝訓練なんてやらないのに、若い熱血隊長に当たってしまった自分の不運が恨めしい。
「こっちは寝不足で死にそうなんです。このままじゃ、寝不足により注意力散漫になって、戦闘にも支障をきたすかもしれません」
同僚たちは、真っ青になりながら首をぶんぶん振っている。
隊長の怒り(っていうか八つ当たり)がよっぽど恐いらしい。
可哀相な気もするけど…ごめん。
自分の睡眠の方が大事なんだ。
「隊長?」
ジュール隊長は、こめかみをぴくぴく引きつらせている。
「俺は、ちゃんと配分を考えてやっているつもりだが?」
まぁ、確かに一般的に見れば、そんなに負担にはならないように訓練メニューが作られているけど。
「でも、私には足りません」
睡眠時間は、1日10時間は取りたいんです。
ぶちっ
「だったら好きにしろっ!!!」
大声で吐き捨て、ジュール隊長は、ずかずかとミーティングルームを出て行ってしまった。
本日、ジュール隊長の部屋は荒れ模様でしょう。
「「「「ッ!!!」」」」
物凄い形相で、同僚たちが詰め寄ってきた。
なんて事をしてくれたんだと、その顔には書いてある。
「だって〜〜〜!」
睡眠不足で、こっちももう限界だったのだ。
本当に、戦闘になったら命を落としかねない位に。
「今すぐ謝ってきなさい!」
まるで子供にでも言うように、同僚の一人にそう言い付けられた。
なんか、ムカつく。
「いいか、隊長は俺らのために訓練をしてくれているんだぞ?」
「それは、解かってるけど……」
確かに、隊長が私たちに訓練を必要以上にさせているのは、少しでも自分の部下を戦闘で死なせないため。
部下は捨て駒程度にしか思っていない上官だったら、訓練も適当だろう。
部下思いの尊敬できる隊長とは、私だって思っている。
「ほら、今からでも遅くないから、謝ってこい」
諭すような優しい口調でそう言われ、思わずこっくりと頷いた。
あれは、確かに悪かったから。
「……解かった。ごめん、行ってくる」
皆、苦笑したり茶化しながらも、肩を叩いて私を送り出してくれた。
良い同僚を持って、私は本当に幸せ者だ。
「た〜い〜ちょ〜う〜!いませんかぁ〜?」
我ながら緊張感の無い声で、隊長の私室の前で叫んでみた。
中に人の居る気配はするのに、さっきから返答が無い。
「隊長〜、・です〜!」
いい加減イライラしてきつつ、チャイムを連打する。
連続78回チャイムを鳴らした時、やっとドアが開いた。
「うるさいっ!」
そう叫んで出てきた隊長は、なんともセクシーなバスローブ姿だった。
水も滴る良い男効果なのか、いつもの美形っぷりが当社比2割り増しUPだ。
ってーか、シャワー中だったんだ。
「え〜と、先ほどの非礼を詫びようかと思いまして……」
「今の方がよっぽど非礼だろうがっ!」
かもしれない。
なんだかんだ言いつつ、隊長は私を私室へと招き入れてくれた。
「うわぁ………」
案の定、まるで嵐の後のように隊長の部屋は荒れていた。
これって、やっぱ私の所為だよね?
隊長専属お掃除係のディアッカ先輩、ごめんなさい。
「で?」
さっさと済ませてしまおうとばかりに、バスローブ姿で偉そうに腕を組んだ隊長は話を促した。
「え〜っと、先ほどは隊長のお心遣いも解からず、本当に申し訳ありませんでした」
隊長は私を威圧的に睨みつけている。
ディアッカ先輩いわく、クセなのだそうだが、やっぱ恐い。
しかも、2人っきりで緊張と恐さは倍増だ。
「今後、このような事が無いよう、早朝訓練にも精力的に参加するよう……努力、致します」
「………最後の間が気になるが、まぁ良いだろう」
なんとかお許しを貰えたようだ。
本当に、こんな恐い思いをするなら、今度からちゃんと起きていよう。
そんな事を考えながら、ほっと胸をなでおろした時―――
「ただし、今回の罰として、・は毎朝5時半に、俺を起こしに来るように」
「はい?」
何ですと?!
寝起きが超絶悪い事で有名なジュール隊長を、毎朝起こせと?!??!?!
そんな事は自殺行為だ。
それに
それにっ!
「それ、ディアッカ先輩の仕事じゃないですか!」
「知らん。奴が勝手に起こしに来るだけだ」
ディアッカ先輩、この人貴方のありがたみが全然解かってませんよ。
「しかも、毎朝なんて絶対無理ですよっ!」
私の抗議に、隊長は何故かにやりと不敵に笑った。
「ならば仕方ない」
あ、なんかイヤな予感。
「監督不足の責任として、貴様を俺が起こすまでだ」
俺の部屋でな。
「なななななんで隊長の部屋で私が起こされるんですか?!」
「貴様の部屋まで行くのは面倒だ」
いや、そんなきっぱりはっきりと言わないで下さいよっ!
しかも、用は済んだとばかりにシッシッと追い払わないで下さいよ!!!
「そういうわけだ。今夜から俺の部屋で寝ろ」
命令だからな。
私を部屋から追い出した隊長は、ドアを閉める前にそう言って、ピシャリと閉めた。
その後は、チャイムを連打しようが何しようが絶対に開けてくれなかった。
抗議も拒否権も受け付けてくれないらしい。
「うぅ、職権乱用だ……」
私の哀しい呟きは、誰にも聞かれずに消えた。
とにかく、今夜からはジュール隊長の部屋に強制的にお泊りだ。
っていうか私、もしかして貞操の危機ですか?
+++あとがき+++
最初はこんな最後じゃなかったハズなんですが…;;
多分ヒロインはジュール隊長ではなく、イザークを起こしに来たディアッカに起こされる事になるんでしょうね…。
また微妙なオチで申し訳ない。。。
え〜っと、設定的にこれが初の運命夢に…なるんでしょうか?
ジュール隊長だし、ディアッカ先輩もいますし。
運命夢…増えるなら専用部屋作らなきゃダメでしょうが、とりあえずしばらくは微妙なので放置です。
それでは、こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!