楽園まで何マイル?
―――死ぬっ
は本気でそう思った。
グ〜
キュルルルル〜
グルグルグル…
自分たちのかもし出す腹からのBGMが余計にを切なくさせた。
このままでは自分たちいや、この艦の全員は餓死してしまう。
先ほどの地球軍との戦いで、ガモフは今大変なことになっていた。
地球軍はなんとか退けることができたが、食料庫が破壊されてしまったのだ。
おかげで今、限られた食料しか残っていない。
「お腹…空いたな……」
食事中に攻撃されたため、結局おあずけをくらったまま出撃した。
こんなことになるなら意地でも朝飯くらい食べておくんだったと思ったが、後の祭りだ。
ちなみに今日の朝と昼は食事抜きだ。
クゥ〜ルル〜〜
本人の意思とは関係ナシに主張する腹の虫を、水をガブ飲みしてなだめる他無かった。
こうなったら…
「おい、どこへ行く?」
突然立ち上がったに、同僚のイザークが聞いてくる。
「ヴェサリウスに食料分けて貰って来る!」
あそこなら食料は豊富にあるはずだ。
ついでには、あそこで思う存分食事を食べてこようと思った。
この艦に戻って食べるのでは、食事制限で確実に量が減ってしまうから。
そう、きっとあそこには楽園が待っている!
は扉に向かってダッシュした。
「あ、ずりぃぞ!俺も行く!!!」
ディアッカが、の思惑に気付いて後を追う。
が
「―――あれ?アスラン、なんでここにいるの?」
談話室の扉を開けたら、ヴェサリウスにいるはずのアスランが立っていた。
何やら嫌な予感が頭をよぎる。
前回の『灼熱地獄・極寒地獄』はまだたちの心に強烈なトラウマを残していた。
艦全体が40℃という猛暑にさらされ、唯一の避難所であるはずのヴェサリウスは−20℃という永久凍土になっていたことは、まだまだ記憶に新しいことだった。
ニコルに貰ったアイスを皆で分け合った後、丸ニ日たちは灼熱地獄にさらされたのだ。
あの時ほど自分がコーディネイターとして生まれてきたことを感謝したことは無い。
ナチュラルとして生まれてきたなら、茹で上がって死んでいただろう。
その時のことを思い出し、ますます嫌な予感を募らせる。
「まさか―――」
「食料を、分けて貰いに来たんだが…………」
予感、的中。
またしてもヴェサリウスまで食料庫を破壊されたそうだ。
「……………おい、どうするよ?」
どうするもこうするも無い。
「うわあぁ〜、今度こそ本当に死ぬ〜〜〜!!!」
前回はなんとか生き延びることができたが、今回はもうダメかもしれない。
「落ち着け!艦長たちが救難信号を送ればすぐに補給隊が来てくれるさ!」
「そうそう!そうすりゃ何でも好きなモノ食べ放題だって!!」
アスランやディアッカがなんとかを元気付けようと一生懸命励ます。
だがはどこまでも冷静に現状を見ていた。
「……そんなもん、あの艦長たちが送ると思う?」
救難信号など『コーディネイターの名にかけて送らない』と言い張るに違いない。
前回も、近くのプラントに自力でたどり着くまで灼熱地獄が続いたのだ。
今回だってそうに違いない。
しかも、ここは宇宙の外れだった。
近くのコロニーまで、どう頑張ったって3〜4日かかる。
それまでたちには限られた食料しか与えられない。
「ふん、名誉のためには当然だろう」
イザークが、当たり前のこととして言った。
プライドの高い彼のことだ。自分の乗っている艦が救難信号を出して助けられるなど我慢できないのだろう。
だがは違った。
「プライドじゃ腹は膨れないのよ!!!!」
プライドよりも自分の命が大事だった。
それに、戦闘で華々しく散るならまだしも、こんな所で飢え死になんて、そっちの方がよっぽど不名誉だ。
「コーディネイターなら3〜4日喰わなくても生きていけるだろう」
「こんな時に戦闘になったらどうするのよ!」
昔の人も『腹が減っては戦ができぬ』と言っている。
こんな状態で戦闘になったら、思うように体が動かず、確実に死ぬ。
「そんな阿呆な死に方だけはイヤ……」
今までなんとか生き延びてきたのだ。
馬鹿げた信念で死ぬほど、はお人好しではない。
こんな所で死んでたまるか。
生き残るためにはどんな汚いことでもしてやる。
の中で何かが弾けた。
「………どうするんだ?」
鬼の形相のを見て、アスランが恐る恐る訊いてきた。
「こうなったら、クーデターでも起こすか、もしくは―――」
艦長たちを誘惑して、手玉にとって自分だけ生き延びるか
「…それは人としてやっちゃいけないと思うぞ」
ディアッカが、呆れ混じり突っ込んだが
「うるっさい!最終的に自分だけ生き残れば良いのよ!!」
勝てば官軍!
はそう叫んで余計に闘志を燃やした。
「よっし!まずは隊長から落としてみるか!」
アスランは、訊いた自分を後悔した。人間の汚いトコロを見てしまった。
「ふん、貴様なんぞに隊長が引っ掛かるわけないだろう」
「なんですってぇ?!あたしのこの若さと美貌で、男なんざイチコロだっての!!!」
は、これから女の武器で隊長を落とすとは思えないほど、男らしくタンカをきる。
「女としての魅力が欠落してるから言ってるんだ、このバカ」
イザークが、またの神経を逆撫でるようなことを言う。
「なにぃ?!この身体のドコが欠落してるってぇ??!!」
バッ
「なっ…いちいち脱ぐなっ!!!!」
はまたも深紅の軍服を脱ぎ捨てていた。
ここまで堂々としていると、もう男らしいとしか言いようがない。
「う〜ん、俺としてはもうちょい胸が欲し……ぐはっ」
「ディアッカ、後で覚えてな」
いらぬことを発言したディアッカは、の裏拳により亡き者とされた。
もう充分思い知らされている。
「アスラン、あたしってそんなに女らしくない?」
「えっ?」
突然話をふられ、アスランは驚いた。
「どうなの?アスラン??」
「えっ、あっああ、そんなことは…ないと…」
上目遣いに訊いてくるに、アスランはしどろもどろになりなった。
「う…ん。は、充分、女の子だと思うよ///」
この位置だとの胸の谷間が見える。
アスランは、自然と胸へ行く視線を力ずくでそらしながら答えた。
「ほらっ!アスランだってこう言ってんじゃない!!」
「それとコレとは関係無い!!」
「あるわよ!!」
「無い!!!」
イザークとがギャーギャーと言い争いをする。
普段もやっていることだが、空腹で気が立っている時にやられるとかなり迷惑だ。
シュッ
「〜、良いモノ持って来ましたよ〜Vv」
ニコルが談話室に入ってきた時には、二人とも疲れ果てて今にも倒れそうになっていた。
「良いモノ?」
「はいv」
相変わらずの姿にも動じていないニコルは、両手に抱えていた荷物を、に渡した。
「わっ、何コレ?!ニコル何でこんなに食料持ってるの?!」
ニコルが持ってきたのは、かなりの量の保存食だった。
「食堂から貰ってきたんですよ。今のうちに分けましょう」
「わ〜vありがとうニコルVv」
「ニコル、俺たちのは?」
「あるわけないでしょう?」
ディアッカが期待を込めて訊いてきたが、ニコルは黒い笑みを浮かべながら即答した。
「こんなに手に入れるのは、結構大変だったんですから」
この非常時にこれだけの食料だ。
どんな汚い手を使ったかは知らないが、犠牲者は掃いて捨てるほどいるだろう。
アスランは犠牲になった食堂の人たちに、密かに手を合わせた。
「よし、折角だからニコルとアスランとあたしで分けよっか」
「ちょっと、俺らのは?!」
にこやかに提案するに、ディアッカが抗議する。
「え?そこの人、何か言いました?」
は、迫力のある笑顔で逆に訊き返した。
まだ先ほどの『胸が無い』的発言を根に持っているらしい。
ディアッカは、すぐさま土下座して
「さんはザフトの天使です!!その美貌と身体に男は皆骨抜きです!!!」
更にごめんなさいを連発する。
「よろしい」
は『貴女の下僕になります』宣言をさせた後、ディアッカを許してやった。
ことあるごとにコキ使う気満々だ。
こちらには悪魔の証人、ニコルがいるのだ。
『え?そんなこと言ったっけ?』で済まされることは無い。
「ディアッカ貴様ぁ!!お前にはプライドと言うものが無いのかっ!!!」
「無い」
ディアッカはキッパリと言い切った。
こんなくだらないことでひもじい思いをするより、今を我慢して少しでも腹の足しになるようにする方が、今のディアッカには大切だった。
「そこのおかっぱさん?」
ディアッカみたいに土下座して謝ってくれるんなら、食料分けないことも無いんだけどなぁ〜?
「いらん!!」
イザークは即答した。
こんなヤツに土下座なんか死んでもするかっ!!!
「本当にいらないの?」
「くどい」
「―――あっそう。じゃ、名誉と共に死にな」
はそう言い捨てると、食料配当に勤しんだ。
イザークのことなど、もうすでに眼中に無い。
そしてイザークは、無事ガモフがコロニーにたどり着くまでの4日間、飢えに苦しむこととなる。
あの後、本当に誰も、ディアッカでさえイザークに食料を分ける者はいなかった。
意地を張りすぎたと悔やんだかどうかは、イザーク以外誰も知らない。
イザークの飢饉地獄はまだまだ続く―――
+++あとがき+++
前サイトの遺物。
まさか続きを書くとは思ってませんでした。
『楽園には程遠い』の後の話です。
文章コピーしまくりました(待て
しかも前回よりドリー無になってます(何
少しでも夢らしくしようとヒロイン脱がせましたっていうか、勝手に脱いでくれました;;
お酒も入ってないのにここまで堂々と脱いでくれるヒロインってのは珍しいかと。。。
ディアッカかなりへタレですみません;;イザークもなんだかなぁ…。
あ、あと、ヒロインの中で弾けたのは多分種(SEED)です(何
それでは、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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