09:ぐるぐる
「ねぇ、ニコル?」
「はい?」
「どーしても、乗らなきゃダメ?」
「ダメですv」
休日の遊園地。
最近できた今話題のテーマパークなだけあって、家族連れ、友人、恋人、様々な人が入り乱れ、混雑を極めている。
目の前には、長蛇の列。
そしてその先には、巨大なジェットコースター。
プラント一、大きいらしい。
だが、にはそんなこと関係なかった。
生まれてこの方、絶叫系の乗り物には、乗ったことが無いのだ。
それなのにっ……!
「ニ、ニコル!やっぱり、私……!」
「ダメですよ。もうファースト・パス取っちゃてるんですから」
ペラペラと、チケットを振るニコル。
これさえ持っていれば、待ち時間無しで優先的にアトラクションに乗せてくれる素晴らしいチケットだ。
乗っている人の悲鳴が、ダイレクトに聴こえてくる。
今のには、恐怖を煽るだけだった。
ニコルはそんなことお構いナシに、にこにこと笑顔だ。
普段大人しいくせに、園内に入った途端にを振り回して、次々と乗り物を制覇していた。
今まで見たことないほど、年相応にはしゃいでいる。
「……僕、さんと一緒に乗りたいだけなんですけど、ダメですか?」
急に淋しそうな表情で訊かれ、うっとつまる。
うるうると、捨てられたような仔犬の瞳で見つめないでくれっ!
「ダメですか?」
可愛いニコルに切なそうに見つめられ続けたら、折れるしかない。
には、これに逆らう術は無かった。
「わかった。乗るよ」
さっきまで泣きそうだったニコルは、途端に笑顔になった。
ハメられた……かもしれない。
その笑顔がどこか黒いような気がするのは、決して気のせいではないはずだ。
「さぁ、行きましょう!」
がしっと首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられるように入場口へと入っていく。
にはもう、逃げることは許されなかった。
「楽しかったですねVv」
無邪気に話しかけてくるニコルに、は眩暈を抑えながらも応えた。
「……………………もう、イヤだ」
叫ぶことさえ許されないほど重圧の凄いジェットコースターになんて、もう二度と乗りたくない。
ぐるぐるぐるぐる回って、なんだか気持ちが悪い。
「さん、次あれ乗りましょう!」
ニコルが指差したのは、プラント一の最速を誇る、絶叫マシーン。
大魔王様は、逃げ出そうとした私の腕を、がっちりと掴んで離さない。
「ダメですか?」
そしてまた、あのうるうる攻撃が始まる。
逃げたくても、逃げられない。
目の前が、さらに速く回りだした。
ぐるぐると、すべての世界が回っていく。
+++あとがき+++
最初は安全バー壊してもう一周…ってオチにしようかと思いましたが、自分が切なくなるだけなのでやめました(←体験済
ちなみに久留里は絶叫系大好きです。
2連続はキツイですけどね。。。
壊れた安全バーで2周目は、天国が垣間見えました。
こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!