05:年下の男の子

































穏やかなピアノの旋律が、放課後の校舎に鳴り響く。

はその旋律を聴きながら、とんとんと階段を上がっていった。

目的はもちろん、この音色を奏でている張本人だ。

音楽室の扉を、気安くひょいっと覗いた。

いた。淡い緑の髪が、グランドピアノの隙間からちらちらと見える。

予想通りの人物が、ピアノに向かっていることに満足し、は自然と笑みをこぼした。

弾いている本人は、全然のことに気づいていないのか、淀みなく旋律は続いていく。

曲は丁度終盤に差し掛かっていたため、は黙ってその音色に酔いしれることにした。

近くの椅子に、ちょこんと座る。

優しい旋律が、緩やかに終わりを告げていく。

いつ聴いても、ニコルのピアノは人の心を癒すようで、大好きだ。

は椅子から立ち上がり、ニコルに声をかけた。


「お疲れ様」


「うわっ、先輩?!」


ニコルはバケモノか妖怪でも現れたというように、盛大に驚いてくれた。


「……可愛い後輩を持って、お姉さんは嬉しいよ」


ムカついたので、はニコルのふわふわの髪をぐしゃぐしゃに撫で回してやった。

当然、ニコルは迷惑そうな顔をする。


「もうっ、やめて下さいよ〜!」


「い〜や、私の乙女心は深ぁく傷ついた!」


そう言いながらも、の興味の対象はすでにニコルの柔らかな頬に移っていた。

ぷにぷにと摘んで、その感触を楽しんでいる。

そして更なる要求を口にした。


「罰として、今度のテストのヤマ張ってv」


その言葉に、ニコルは呆れたような目を向けた。


「……先輩、年上の自覚ってあります?」


仮にも年下の自分に頼むようなことじゃない。

言外にニコルはそう言うのだが、は堂々と開き直った。


「だってしょうがないじゃない。ニコルの方が頭良いんだから」


開き直り過ぎである。


「今度アイス奢るからさ〜」


両手を合わせて必死にお願いする

元々それを目的としては音楽室に来たのだ。今更後には引けない。

そんなどうしようもない先輩にニコルは深い深い溜息を吐いた。


「…………アイスじゃなくて、デートが良いです」


呆れつつも、ちゃっかりとお礼のリクエストをするニコルは、どこまでも世渡り上手だった。


「了解!」


は、そんなもん安い安いと快くOKする。

敬礼の真似事をしながら応えるの姿は、どこか子供っぽい仕草だった。

そんなに苦笑しつつ、ニコルは素早く楽譜をまとめて音楽室を出るように促した。


「これじゃあ、どっちが年下なのか解かりませんね」


「大丈夫。ニコルはちゃ〜んと年下だから」


のその言葉に、ニコルはむぅっと頬を目一杯膨らませる。


「ほら、こういうトコロが年下v」


その頬を突きながらにっこりと笑う

先ほどまでとは全然違う、大人の余裕まで含んだその笑みに、ニコルはむくれながらも頬を染める。


「……先輩ってば、こういう時だけ子ども扱いして、ズルイです」


拗ねた子供のように言うニコルに、益々の笑みが深まっていく。

そんなの様子を見て更にニコルの機嫌は悪くなる。


「はいはい、ちゃっちゃと帰ってテストのヤマ張ってね〜」


どこまでも続きそうな不毛な言い合いをあっさりと終わらせたは、ニコルの手を取って勢い良く走り出した。


「わっ、先輩待って下さいよ〜!」


オレンジ色の夕日が差し込む放課後の校舎に、二人の笑い声が高らかに響いていた。



























+++あとがき+++
『ニコル様に先輩と呼ばれてみよう!』との野望と共に、突発で書いてしまいましたv
学園モノで『先輩v』とか上目使いで言われてみたい(←変態
友達以上彼女未満なカンジで。
幼馴染み設定も萌ですが『先輩v』とハートマーク付きで呼ばれてみたいので(こだわり

あ〜、最近白ニコ率が高くなってますねぇ。。。
ぶっちゃけネタ無いんですよ。
自分で考えたお題に、こんなに苦しめられるとは…!
100題なんて作らなくて良かった。。。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!