03:ふわふわ
ザフト軍のエリートパイロット、ニコル・アマルフィは貴重な休憩時間を音楽に費やすことで満喫していた。
楽譜を捲る指先までこの瞬間を楽しんでいることがよく解かる。
だが、それと同時にその楽しい時間を邪魔をする者もいた。
ニコルは、ちろりと自分の後ろに意識を向けた。
「あ、ニコル!動かないでよ〜」
「……さん」
ニコルが呆れたような声を漏らすが、は全然気にも留めずに、作業を続ける。
はニコルの柔らかな緑の髪を、先ほどから弄繰り回していた。
さっきから、リボンを髪に結び付けようと奮闘している。
それがニコルにはくすぐったくて堪らないのだが、は一向にやめてくれそうにない。
「他の人にやったらどうですか?」
「え〜、だって皆やらせてくれないし…」
イザークやアスランならともかく、ミゲルやディアッカにリボンなんて似合わないしと更に続ける。
確かに、イザークやアスランは絶対に大人しくなんてしてくれそうにない。
絶対に、(特にイザークは)力の限り逃げるだろう。
下手をすれば(特にイザークに)逆ギレされるかもしれない。
それにまだ面白がってやらせてくれそうなミゲルやディアッカにしても、やる方が遠慮する。
可愛らしいリボンを付けたミゲルとディアッカなんて、似合う似合わない以前におぞましい光景だ。
想像しただけで、気色悪い。
ニコルは、深々と諦めの溜息を吐いた。
そしてそのまま楽譜へとまた視線を戻す。
自分だけ被害に遭うのは気に食わないが、この時間だけずっとを独占できるならそれも良いと思った。
意識を無理矢理楽譜に集中させながら、大人しくに身を任せる。
自分の髪の感触を楽しむかのようなの指の動きが、なんともくすぐったい。
「―――いいなぁ、ニコルの髪は」
黙々とニコルの髪を弄くることに熱中していたが、不意に呟いた。
ニコルは、楽譜を捲っていた手を止めて、またに向き直った。
はそれを止めることはせず、ニコルの柔らかな髪に指を絡ませる。
「柔らかくって、ふわふわしてて…羨ましいよ」
「僕にしたら、さんの髪の方が羨ましいですよ」
ニコルは、彼女が自分にしているように、の綺麗な長い髪をそっと指に絡めてみた。
自分と違いストレートな彼女の髪は、少し硬くて良い香りがした。
「ストレートって、結構憧れなんです」
「私は、ニコルみたいな髪質が良いなぁ」
伸ばしたら、巻き毛もできるんじゃない?と、無責任なことを楽しそうに口にする。
「ニコルなら、似合うと思うんだけど」
「嫌ですよ、そんなの」
ニコルは、むっとしながら答えた。
15歳の少年にしては当然の反応だが、心なし頬を膨らませてむくれた姿は、どこか子供っぽい仕草でなんとも可愛らしい。
は『冗談だって』と微笑みながら言ってみたが、なかなかニコルのふくれっ面は戻りそうにない。
はやれやれとまた微笑んで、残りの休憩時間をニコルの機嫌を直すのに費やすのだった。
ここが戦艦で、今が戦争中だとは思えないような穏やかで平和な時間が、ゆったりと流れていった。
+++あとがき+++
ところどころ腹黒い部分も垣間見えますが、かつてないほどニコルが白いです(笑)
ストレートの髪は、久留里の永遠の憧れでもあります(←天然パーマ
どこまでもストレートなイザークが羨ましい。。。
でも前髪だけ普通にストレートな自分は一体なんなんでしょう?
母(ストレート)+父(天パー)=自分(前髪ストレート、後ろ天パー)
遺伝子の不思議でした……。
こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!