02:悪魔の囁き



































v」


「うわっ」


突然耳元で囁かれたから、心臓が飛び上がるほど驚いた。

慌てて後ろを振り返ると、お馴染みの緑の髪をした少年が立っていた。


「ニコルか…ああ、びっくりした〜」


クスクスと悪戯っぽく年相応に笑うニコル。

滅茶苦茶、可愛いらしい。


「今日の訓練、もう良いの?」


「はい。は?」


「う〜ん、あともうちょっと……」


いつもはとっくに終わっている仕事だが、今日はクルーゼ隊長直々に小難しい書類を大量に渡されていた。

まだ大分、残ってしまっている。


「悪いけど、先に食堂行っててくれる?」


「うわっ、まだこんなに残ってるんですか?!」


書類の束を覗いたニコルは、呆れたように声を上げた。


「隊長直々に渡されちゃってねぇ…」


「イジメじゃないですか?」


「やっぱ、そう思う?」


この間『変態仮面』と陰口言ってたのがバレたのだろうか……。


「しょうがないですねぇ……」


ニコルが、まだまだ残っている書類の束を無造作に掴んだ。

そしてそのまま私の隣のデスクに腰を下ろす。


「ニコル?」


「手伝いますよ」


にっこりと微笑みながらのその言葉に、思わず瞳が潤んでしまった。


「ありがとうニコル〜Vv」


そのままニコルにがばっと抱きつく。


「うわっ、ちょっと!」


勢い良く抱きついたもんだから、ニコルが椅子からずり落ちそうになって慌てた。

なんとか片足で踏ん張るニコルにかまわず、私は更にきつく抱きしめる。


「ニコル大好きv」


「あ〜はいはい」


私の愛の告白にも、ニコルは酔っ払いを扱うかのごとく軽く受け流した。

……昔は顔を真っ赤にして慌ててたのに、つまらん。

嗚呼、あの頃の初々しい反応が懐かしい…。

昔の回想にふけようとする私をニコルがクールな声でさくっと現実に引き戻す。


「さっさとやっちゃいましょう」


「へ〜い」


まぁ、確かにちゃっちゃとやってご飯が食べたいので、そうそう現実逃避もしてられない。

私はニコルの言葉に素直に頷いて作業に戻った。

『最近冷たいな〜』とか思いながらも、カタカタとパソコンを操作していく。

ニコルも、エリートならではの猛スピードで書類を次々に片付けていってくれている。

うん。これなら早く終わりそうだ。



「…………


今日の夕飯に後一歩という時、ニコルが口を開いた。


「何?」


「これで貸し、合計で五十になりますよ













はい?














「……え〜っとニコル?」


私そんなに、貴方に貸しがありましたっけ?


「無いと思いますか?」


「…思いません」


そう、残業を手伝って貰ったりなんて、しょっちゅうだ。

こいつめ、ソレ全部数えてやがったのか……。


「早く返して下さいね?」


ニコルは、どす黒いオーラを放ちながら顔を近づけて、笑顔で私に囁いた。

っていうか……

さっきの天使のような笑顔は、ナニ?

ニコルの笑顔は、すでに魔界のモノに染まっていた。


「カラダで払ってくれても構いませんけど?」


「ええええんりょしますっ!」


慌ててそう答える私。

ニコルはクスクスと声を出して笑っていた。

悪魔の笑いだ…!

ニコルはさらに顔を近づけて、私の耳元でとんでもないことを囁いてくれた。


「ちなみに利息はトイチですから」


り、利息までつくのかYO…!

トイチ…十一……十日で一割ですと?!

どこの悪徳金融ですか?

もしかしてもう、借金まみれ?


「ええ。泥沼ですね


心を読むなよっ!!!

パニくる私をよそに、ニコルはさらに言葉を続ける。


…夕飯食べたら僕の部屋、行きましょうね?」


疑問符を付けていても、ニコルの声はかなりの強制力を帯びていた。

踏み倒すなんて、そんな怖ろしい事誰にもできないだろう。



「……………………はい」



そう答えるしか、私に残された道はありませんでした。































+++あとがき+++
大魔王様…またヒロインお持ち帰りですか。
ご、ごめんなさい!!!(土下座
なんで黒キャラはこうもヒロインお持ち帰りしたがるんでしょう。。。
イザーク(ヘタレ)には無理な芸当を、さらっとこなす大魔王様…流石です。

こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!