スリになるスラン

































「―――あれ?アスラン」


只今真夜中。

皆寝静まっている時間だが、私は一人眠れず、気分転換にその辺をフワフワ漂っていた。

ヴェサリウスを徘徊中、談話室のソファで無防備に寝ているクルーゼ隊のエースパイロット様を発見した。



「お〜い、風邪引くぞぉ?」

とりあえず話し掛けてみるが、寝返りを打っただけでまったく起きる気配が無い。


「………睫毛、長っ」


じーっと見てたら、アスランの頬に影を落とす、長い睫毛に目を奪われた。

顔の造作も、女の私より女らしい…。

「むぅ、羨ましい奴」

顔は良いし、成績はトップだし、父親は最高評議会の委員だし、綺麗な婚約者はいるし………

私には無い、すべてのモノを持っているような気がする。

そんな奴が今、大変珍しいことに他人に寝顔をさらしている。

こっちは眠れないからこんな所にいるっていうのに………

何だかむかついたので、頬を突付いてみる。

普段なら絶対に出来ない行為だ。



「………う…ん」



いっ、色っぽい?!

悩ましげに眉を寄せて指から逃れるアスランに、ついそんな感想を持ってしまった。

色気まで私より上なんて……


絶対に、許せん。


普段からあるアスランへの対抗意識が、かなり増幅されていくのが自分でも解かった。

こんな理由で増幅されるなんて、かなり哀しかったが…。


「ええい!アスラン、起きろっ!!!」


大声で呼んだら、アスランはやっと起きた。


「うぅ…ん、………キラ?」


アスランは寝ぼけまなこで、まだ目の焦点が合ってない。

こんな彼の姿は初めて見た。

普通の女の子とかなら可愛いとか思ってしまうんだろうが、私は『アスラン否定派』なんで、関係無い。

それにしても、誰だよ『キラ』って!!!

こういう時は婚約者のラクス嬢の名前言えよっ!

(…………もしや、浮気相手?

イケナイことを聞いてしまったのかもしれない。

「…あれ……?」

「やぁっと、お目覚めですか?」

意外な人物が目の前にいて、アスランが驚いた顔をしている(ざまぁ見ろ!

「…俺、寝てた?」

微妙にボケてるよ、アスラン。

「それはもう、ぐっすりと」

私は嫌味ったらしく言ってやった。

ほっぺ突付いても起きないなんて、軍人失格だ。

「今、何時?」

「午前三時」

一体いつから寝てたんだか、少し気になったけど、こんな奴とこれ以上会話する義理は無い。

「なんではこんな所にいるの?」

「夜の散歩」

いい加減立ち去りたかったが、アスランはなぜか色々と話し掛けてくる。

「こんな時間に?」

「眠れなかったの」

「何で?」

「何だっていいでしょ!早く自分の部屋で寝たら?!」


いつも私とアスランの会話は、いつも一方的に終了していた。

まぁ、普段は必要最低限の会話しかしないんだけど。

私は、仕事中の無駄なお喋りは嫌いだ。

それでもアスランは、いつもいつも会話に無駄なことを含ませて、話を脱線させようとする。

ニコルとはともかく、アスランは普段他の人とは必要最低限の会話しかしないのに。

私はいつもそれに苛ついて、さっさと強制終了させてしまうのだ。



(こんな奴、起こさなきゃ良かった…)

アスランと会話していて、先程からの頭痛が、余計酷くなるのを感じた(←コレのせいで眠れなかった

?顔色悪いよ??」

誰のせいだと思ってんだ…。

「昨日の訓練で、誰かさんに投げ飛ばされたおかげで頭痛が酷くて…」

「あ………」

そう、目の前のこいつに、思いっきり投げ飛ばされて頭を強く打ったのだ。

それから、頭痛が止まらない。

「…ごめん。痛かったよね」

謝罪の言葉を、あからさまに無視してやった。

謝られたって嬉しくないやいっ!

…それにしても、頭痛が本格的に痛くなってきた。

鈍く続いていた痛みが、今はズキズキと音まで付いて痛くなっている。

「…アスラン、頭痛薬か睡眠薬持ってない?」

別にコレは嫌味のつもりではなかった。

本当に、この痛みから逃れたいだけだ。

「ごめん。胃薬なら、持ってるんだけど…」

アスランは制服のポケットをごそごそ探っている。

って、胃薬常備してるんですか?!

…確かに、人間関係で苦労してるもんね。

私とかイザークとかディアッカとか………

クルーゼ隊長とか以外のお偉いさんにも『君には期待してる』だとか異様に期待されてるみたいだし…。

それを思うと、普段の自分のアスランへの態度に、少し反省した。

ちょと…いや、かなり冷たくあたってるもんなぁ……

「やっぱり無いみたいだ。俺の部屋なら、頭痛薬も睡眠薬もあるんだけど」

「…何でそんなに持ってるの?」

私の問いにアスランは、笑って誤魔化した。

やっぱりこの人、苦労人だ…。

これからは、もうちょっと優しくしてあげよう。

アスランの憐れな姿は、私にそんなことまで決意させるほど、情けなかった。

「こんな時間に女の子を部屋に上げるワケにもいかないし……」

あ、一応女の子扱いはしてくれてるんだ。

普段平気で投げ飛ばすくせに…。

いや、だからって手加減されんのは絶対イヤだけど。


「うぅっ……痛っい〜」


頭痛はますます酷くなる一方だった。

「だっ大丈夫?!」

唸る私に、アスランは心配そうに覗き込んでくる。

アスラン、あんた良い人や…。

普段冷たくあたってる私にも、こんなに優しい。

今まで『優等生ぶってて嫌い』とか思ってごめんなさい。

これからは、ちょっとは好きになる努力をします。




アスランは、少し考え込んでから




「じゃ、とりあえず応急処置」




と言って私を引き寄せ―――




「へ?」




ちゅっ




そう軽い音を立てて、私とアスランの唇が








触れた








「………なぁっ?!」

「じゃ、明日も訓練あるから、俺はそろそろ部屋に戻るよ」

そう言って、何ごとも無かったかのように談話室の出口に向かうアスランを私は慌てて止めた。

「ちょっと待て!いぃ今ナニしたの?!」

「だから応急処置」

「アレの、どこがっ!!!!」

「頭痛、止まっただろ?」

「うっ………」

確かに、頭痛も吹っ飛んでいた。

「こんなことしてっ、ラクス嬢は?!」

お前婚約者いるだろっ!

「う〜ん、親が勝手に決めただけだし……」

「キラって人はっ?!」

悪いかもしれないが、浮気相手の名を出してやった。

だがアスランはきょとんとした顔をして―――

「何でそこにキラが出てくるんだ?」

「何でって、浮気相手でしょう?!」

「……キラは男だぞ?」

昔、離れ離れになった幼なじみだそうだ。


男の名前を寝言で言うなよ。紛らわしいっ!!!



それにしても―――


あんた、そんなキャラだったのか?!


どこが優等生だよ……


畜生、騙されたっ!!!



「じゃ、訓練ちゃんと出ろよ?」

そう言い残して、アスランは談話室を立ち去った。

すれ違いざま、しっかりと私の頬に『お休みのチュウ』までしてくれた。

























「何だったのよ、アレは……」

アスランが消えていった談話室のドアを見詰めて、私は呟いた。

あんなふざけたキャラだとは、思わなかった。

だが、いくら冗談でも、やって良い冗談と悪い冗談がある。

明らかにアレは、やり過ぎだ―――


「……前言撤回」


あんな奴、良い人でも何でもない。

余計な同情なんて、する必要も無い。





「やっぱり、大ッ嫌いだ〜〜〜!!!」





深夜三時。



私の声は、艦内中に響き渡った。




結局、頭痛は治まったが、眠ることはできなかった。



次の日の訓練も、ボロボロだった。




アスランなんか、大ッ嫌いだ〜〜〜!!!!!




































後日、性懲りも無くに話し掛けるアスランと、それを以前より冷たくあしらうの姿があった。













だが会話の量が、以前より増えていることに気付かないであった。























+++あとがき+++
初のアスラン単品夢です。タイトルは『クスリになるテレビ』調で(何
誕生日夢じゃないのに、誕生日にUP…ごめんなさい;;
最初白かったのに、いつの間にか微妙に黒いよアスラン…。
途中アスランが暴走して、裏逝きになりそうになって書き直しました…。
危うくヒロイン、部屋にお持ち帰りされる所でした(待て
それにしても、コレ完璧にアスランの片思いですね(笑)
ヒロインさんも何気鈍いです。
ちなみに午前3時くらいなら、久留里は普通に起きてます(何


こんな駄文をここまで読んで頂きありがとうございました。