『竹取合戦』設定ヒロインです。
12:飛び立つまえに
「―――それでは、イザーク様」
「ああ」
わずかな休暇が終わり、また戦場へと行く銀の髪の少年、イザーク・ジュールを見送るのは、彼の婚約者である黒髪の少女、・である。
休暇中はひたすら長く感じたが、今思えばかなり短い休みだった。
全然、休めていない。
いや、肉体的には充分な休暇だったが、精神的には休暇どころか軍にいる時より疲れていた。
母の強い薦めで今回の休暇はほとんど婚約者のと一緒に過ごしたイザークだったが、ある意味それは戦争だった。
元々意に沿わぬ婚約だったため、会話も弾むはずも無く、二人の間に交わされるのは殺伐とした嫌味の応酬だった。
その証拠に婚約者を戦場に送り出すにも関わらず、は晴れ晴れとした表情をしている。
ちらりと、横で別れを惜しんでいる兵士とその恋人を盗み見る。
切なく見詰め合い手を握り締めて、戦場へと飛び立つ恋人に無事の帰還を願う姿は、観ているだけで涙を誘うものだった。
それに対して目の前の婚約者は『さっさと行け』とでも言うように、自分に手まで振ってくれている。
どこまでも冷たい婚約者の態度に、イザークはなんだか哀しくなってきた。
別に期待をしているワケではないが、もう少し、別れを惜しんでも良いんじゃないかと思ってしまう。
実際されたら鳥肌モノだが。
「次はいつ頃お帰りに?」
至って事務的に、が訊いてきた。
婚約者として、一応訊いておかなくてはマズイのだろう。
「戦況によるな。まだわからん」
イザークも、事務的に応えた。
隣で甘く切ない空気を振り撒いている恋人達とは対照的に、どこまでも冷たい空気が二人の間を流れていた。
「そうですか。では戦況が悪化することを願っていますわ」
つまり、『帰ってくるな』ということか。
かなり不謹慎なことを堂々と笑顔で言う。
本気で言っているのだということを、イザークはよく解かっていた。
「………行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
笑顔で送り出してくれる婚約者に、イザークは自分が可哀相になってきた。
「あ、イザーク様!」
哀愁を漂わせて戦艦に乗り込もうとするイザークを、が呼び止めた。
「なんだ?」
「生き残って下さいね。こんなことで婚約解消になっても、後味悪いだけですから」
『死んでくれても一向に構わないんですけど』と続けたが、ニヤリと笑う。
むしろ死んでくれた方が向こうにとっては都合が良い。
「ふん。誰が死ぬかっ!」
生き残って、なんとしてでも結婚までこぎつけてやる。
死んだらの一人勝ちだ。
自分が死んだという知らせを聞いたが、喜々として高笑いをする姿を想像して、イザークはなんとしてでも生き残ってやると心に固く誓った。
負けず嫌いの彼らしい発想だった。
メラメラと闘争心が沸き起こる。
手を振って晴れやかな笑顔で見送る婚約者の顔を一瞥して、イザークは、闘志剥き出しで戦艦に入って行った。
彼のこの行き場の無い闘志は、そのまま濃紺の髪の同僚にでも向けられるだろう。
こうしてイザークは、また戦場へと飛び立って行った。
素直に『死なないで下さい』と言えない捻くれ者の婚約者の真意が解かるようになるには、まだまだ修行の足りないイザークだった。
+++あとがき+++
『竹取合戦』のヒロインとイザークです。
時期としては…多分婚約してからかなり経ってるかと…。
本編で書こうと思っていた話を、お題で消化(ダメダメ
なんかこの二人は、甘くなることはありえないような……;;
っていうかヒロイン、あんた鬼や…!
晴れやかな笑顔で婚約者を送り出すなよ;;
こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!