嗚呼、世界が歪んでる―――






目の前がぼやけて頭がぐらぐらしてる。

なんだか、体中がダルくてたまらない。

これは…俗に言う『風邪』なのだろうか?


「うわぁ、風邪なんて初めてだよ…」


呟いてみるが、喉がかすれて思うような声が出ない。

と、いうか声を出すのも辛い。


「………今日、休みで良かったな」


流石に、この状態で訓練なんてあったら、ぶっ倒れる。

それよりも、コーディネイターのクセに風邪なんて引いたことがバレたら、周りに何を言われるか解かったもんじゃない。

特に、おかっぱとかおかっぱとかおかっぱとか……。


「とりあえず、安静にしてれば良いんだよね…?」


風邪なんて、記憶にある限りは初めての事だから、対処法も曖昧だ。

ベッドに潜って、眠ろうとしてみる。

が、


「……う〜ん、なんか…苦しい?」


暑苦しくて眠るどころじゃなかった。

再度起き上がろうと思っても、力が入らなくて、もう起き上がることも出来ない。

目の前はくらくらぐらぐらしてるし、頭も痛くなってきた。

これは、結構キツイかもしれない。

風邪ってこんな苦しいものなのかと、改めて実感する。


「うぅ、お母さ〜ん」


心細くなって思わず呼んでみても、ここは戦艦。しかも宇宙の真っ只中。

母はおろか、誰も来てくれるはずない。

とうとう不安も頂点に達して、ぽろぽろと両目から涙が零れ落ちてくる始末。

止めようとしても、風邪の所為で涙腺が弱くなってるのか、全然止まらない。

枕が濡れて気持ち悪いし、最悪だ。


、いるか?』


(げっ…!)


扉の外から、今一番会いたくない人物の声が聞こえて来た。

普段絶対来ないくせに、よりによってこんな時に…!


『いるんだろ?さっさと開けろっ!』


イライラとした大きな声が、頭に響く。

しかも奴は、インターフォンを連打して、さらに追い討ちをかけてくる。

もう、本当に勘弁して下さい…!


は只今、留守にしております。御用の方は『ピー』っという発信音の後、メッセージをどうぞ」


『……いい加減にしないと、ブチ破るぞ


ちっ、ダメだったか…。


「イザーク、今取り込んでるから、後にしてくれない?」


『ダメだ』


シュッ……


奴はとうとう、部屋のロックを解除して、強引に入ってきやがった。

元気になったら、不法侵入で訴えてやる…!

恨みがましく入ってきたイザークを睨み付けてやる。


「………っ!どうしたんだ、?!」


と、何故か慌てるイザーク。

あぁ、そういや私、さっきまで泣いてたんだっけ…。


「……なんか、風邪っぽい」


「風邪っぽいどころじゃないだろうっ!顔真っ赤だぞ」


イザークが私の額に手を当てた。

あ、ひんやりしてて気持ち良い……。


「待ってろ。すぐタオル冷やして持ってきてやる…」


離れようとするイザークの腕を、思わずぐいっと掴んだ。


「ヤダ。もうちょっと、こうしててよ」


こんなのでも、いないと不安らしい。

掴んだままのイザークの手を、再び自分の額や頬に押し付ける。

やっぱり、イザークの手は、冷たくって気持ち良かった。

イザークは、諦めたような溜息を一つ吐いて近くにあった椅子を、ベッドに寄せて座り込んだ。


「お前、手まで熱いぞ」


「そう?」


「ああ」


「……イザーク、水、飲みたい」


「…解かった。ちょっと待ってろ」


文句でも言われるかと思ったけど、イザークの声は意外な事に、すごく優しかった。

普段ならこんなに甘えさせてくれないだろうし、水ぐらい、自分で持って来いって怒鳴り付けられていただろう。

そして二人でいるとすぐに口論になるのに、全然そんな雰囲気じゃないし…。


「ほら」


水と一緒に、タオルまで持って来てくれたイザークは、額にそっと乗せてくれた。

やっぱ、普段と態度が180度違う。

いつもこんなだったら良いのに……。


「少し寝ろ」


「うん。……ねぇ、イザーク」


「何だ?」


「寝るまで、傍にいてね?」


「……………ああ」


返事をしてくれてもどこか不安で、イザークの手をぎゅっと握った。

イザークも、文句も言わずに優しく握り返してくれる。

顔も手も真っ赤なのは、風邪のせいだけじゃないはずだ。

イザークまで赤くなってるのは、見なかったことにしてあげよう。






















その後もイザークは色々と世話を焼いてくれて、風邪もすぐに完治してしまった。


元気になったらまた元通りの関係に戻ったけど、前よりは少しマシになった……気がする。


うん。相変わらずイザークは嫌いだけど……


ちょっと…ほんのちょっだけ……


たまには風邪も、良いのかもしれないとか、思ってしまった。






























「べっくしっ!!!」


「風邪か?イザーク」


そう訊かれたイザークは、さっきからくしゃみを連発して、鼻水まで垂らしている。


(……うつされた?!)


その後、イザークがしばらく高熱にうなされたのは、言うまでも無い。
















+++あとがき+++
キリ番9999をゲットされた、桃里 綵さまに捧げます。
『イザーク相手の甘系』という事で書かせて頂いたのですが…撃沈しました。
しかも、物凄くお待たせしてしまって…(切腹
ごめんなさい桃里さまっ!!!お待たせした上こんな駄文で;;(土下座
全然、甘くないですし…;;
しかも、ありがちな風邪ネタ…タイトルもまんまです(吐血
ただ、かいがいしく世話を焼いてくれるイザークが書きたかっただけなんです。
ヒロインとイザークの関係は『嫌よ嫌よも好きのうち』と思って下されば…!(無理矢理
本当に、ごめんなさい;;

桃里さま、こんな駄文で良かったら貰ってやって下さい。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
桃里 綵さまのみ、お持ち帰りOKです!