そっと目を瞑ればすぐに思い出せる。
小さな小さな君の姿――――
ボクの天使
「ミゲルおにいちゃん!」
アイマン家に遊びに来たは、真っ先にミゲルの姿を探す。
お目当てのミゲルの姿を、大きな金の瞳に映すと、満面の笑みで駆け寄ってくる。
白いフリルの付いたワンピースが歩くたびにふわふわ揺れて、まるで天使のようだ。
「あそぼ?」
小さな手でミゲルの服の裾をきゅっと掴み、可愛らしく小首を傾げながらそんな事を言われたら、ミゲルは従うしかない。
思わずぎゅう〜っと抱き上げて、ぶんぶん振り回す。
もきゃあきゃあ嬉しそうな声を上げながら、もっともっととミゲルにせがむ。
幼いミゲルは、自分よりもっと小さい3歳年下の従妹が、可愛くて仕方が無かった。
ミゲルの後にちょこちょこと付いて回るの姿は、周囲から見ても大変微笑ましい姿だった。
「」
「なあに?」
「大きくなったら、ぼくのお嫁さんになる?」
「うん?およめさんってなに??」
きょとんとした顔でミゲルに訊く。
お嫁さんの意味も分からないほど、彼女は幼かった。
「お嫁さんになったら、ずっと一緒にいれるんだよ」
「ほんとう?じゃあ、ミゲルのおよめさんになる!」
元気の良いその答えに、ミゲルは嬉しくてたまらなかった。
絶対絶対、この子はぼくが守るんだと、決意する。
だからが地球に行ってしまった時は、本当に悲しかった。
父親の仕事の都合で、幼いは地球に降りてしまったのだ。
プラントと地球は、当然気軽に行き来できるものではない。
しばらくしたら帰ってくるという言葉も、中々信じられなかった。
が地球へ行ってしまって、淋しくて何度も泣いたのを、今でもよく覚えている。
だがあれから10年もの年月が流れた今現在、ミゲルは別の意味で泣きそうだった。
「大人しく成仏しなっ!」
そんな残酷な言葉と共に、ミゲルは一気に現実に引き戻される。
どうやらコブラツイストで意識が飛びかけていたらしい。
首と腰をギリギリと締め上げられ、この世のものとは思えない痛みが駆け巡る。
「いでででで、痛い痛いっ!」
「落・ち・ろv」
心底楽しそうに耳元で囁かれ、ミゲルは滝のように溢れ出る涙を止める事ができなかった。
それもそのハズ。
彼を締め上げているのは、あのなのだ。
あんなに可愛がった、そして可愛かった、あのっ!
地球からプラントへと帰ってきたは、昔の面影など微塵も感じさせないほど凶暴になっていた。
いや、昔もお転婆で頑固なところがあったが、今よりはマシだった。
少なくとも、従兄にプロレス技を嬉々としてかけるような子じゃなかった!!!
「いやぁ!お父さんは認めませんっ!!!!」
ミゲルは、行き場の無い手をブンブンさせて駄々をこねる。
「はぁ?何ワケわからんこと言ってんの」
冷たい声であしらわれて、ミゲルは哀しくなった。
最近は態度まで冷たい…!
「ちょっと暴言吐いただけなのにぃ!!!」
「その暴言が私刑の元とは思わんのか、このボケッ!!!!」
その言葉と共に、ダンッと床に身体を叩き付けられる。
背骨をしたたか打ち付けて、すんごく痛い。
「覚悟はできてんでしょうねぇ?」
ボキボキと指を鳴らしながら、ミゲルにゆっくりと歩み寄る。
その小柄な身体からは、殺人オーラが揺らめいていた。
痛みで立てず、ミゲルははいつくばったままズルズルと後ずさる。
「待て!話せば解かるっ!!!」
「そんな理屈が通るんだったら、とっくにナチュラルと和解しとるわっ!」
ごもっともなことを言われ、それ以上言い返せない。
もう、ダメだ。殺される…!
「婚約者に何をするんだっ!!!」
その言葉に、じりじりと歩み寄っていたの足が止まった。
「はぁ?」
琥珀の瞳を零れ落ちそうなほど大きく見開いている。
どうやら全然覚えていないらしい。
「昔、俺のお嫁さんになるって言ったじゃないか!」
「昔っていつよ?」
「お前が5歳の時……」
ミゲルの言葉に、は形の良い眉をつり上げた。
「5歳ぃ〜?あんたそんな幼女に手を出したっての?!」
即座にの絞め技がミゲルに炸裂する。
「このっ、ロリコン変態野郎〜〜〜!!!」
「いでででっ…ちょお待てっ!俺だって子供だった…ぐぁっ!」
容赦の無い見事な絞めに、ミゲルはまたもや意識が飛びそうになる。
今度こそ、マジ殺される…!
ミゲルは助けを求めるように視線を彷徨わせた。
ソファの方へ目を向けたら、煎餅をかじっている自分の弟と目が合った。
「おいっ!お前助ける気あるのか?!」
実の兄が殺されかけてるのに、全然動く気配が無い弟に、訴えかける。
っていうか、助けてくれ!
「変態に手を貸す気は無いよ…」
「違うっ!!!」
完全なる誤解だ。ミゲルは必死になって訴えた。
「元はといえば、兄ちゃんが悪いんじゃん……」
弟は、呆れた顔でそう返した。10も年が離れているのに、時々ミゲルより大人だ。
冷たい実弟に、引っ込んでいた涙がまた溢れてくる。
こんなにも切ないのは、何故だろう…。
「……もう、しょうがないなぁ」
そんな兄を見て、同情してくれたのか、やっと重い腰を上げる弟。
とてとてと扉に向かって歩いて行く。
「お母さ〜ん!また姉ちゃんが兄ちゃんシメてるよ〜〜〜!」
一階にいる母に向かって声を張り上げた。
なんだか、兄として非常に情けないが、仕方が無い。
「ちゃ〜ん!クッキー焼けたわよ〜v」
一階から聞こえてきた母の声に、は首を折ろうとしていた手を引っ込め、顔を上げた。
ミゲルの身体が、やっと開放される。
「早くいらっしゃ〜いVv」
「は〜いvvv」
はミゲルを踏み越えて、すたこらと部屋を出て行った。
なんとか死刑執行を逃れたミゲルは、その場にへなへなとくず折れた。
どうやら、生き残れたらしい。
ありがとう、お母さん!
弟がミゲルの肩をぽんっと叩く。
「頑張ってね……」
人生を…ミゲルにはそう聞こえたような気がした。
力なく頷いたミゲルは、意識を過去へと飛ばしていった。
『ミゲルおにいちゃん、だいすきVv』
あの天使は、今何処…?
+++あとがき+++
キリ番7000をゲットされた、歩さまに捧げます。
“学園天国設定で、ヒロインちゃんがアカデミーに入れられる前の、ミゲル登場のギャグ話”
という、リク内容でした。
ミゲルがヘタレでごめんなさいっ!!!!弱過ぎる〜;;
ヒロインがいつになく凶暴です;;ミゲルの首折ろうとしてたよ…。
歩さま、こんな駄文で宜しければお持ち帰り下さいませ。。。
こんな駄文をここまで読んで頂き、ありがとうございました!
歩さまのみお持ち帰りOKです!